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稲垣吾郎が語る、『Blume』に込めた過去と今を繋ぐ素直な思い 「今、あの頃の自分と仲良くなっている感じがする」

リアルサウンド

20/9/20(日) 10:00

 稲垣吾郎の19年ぶりとなるフォトエッセイ『Blume(ブルーメ)』が、9月18日に発売された。本書は女性ファッション誌『GLOW(グロー)』内で連載されていた「大人男子ライフ」(2018年7月号〜2020年6月号)をまとめ、未公開カットを含むフォトエッセイパート、さらにロングインタビューを加えて単行本化したもの。少年から大人男子へ。約30年の芸能生活と価値観を振り返る、メモリアルな一冊となっている。

 発売に先駆けて、稲垣がリモート形式でインタビューに応えてくれた。一つひとつの問いに対して真摯に寄り添い、時折ユーモアを交えながら話を広げていく姿に、大人の余裕と少年時代から培われたアイドルマインドを感じずにはいられない。稲垣が紡ぐ言葉たちを、穏やかで知的な時間が流れる、サロンでの会話のように読み進めてほしい。(佐藤結衣)

いいものを次の世代に残していきたい

――19年ぶりのフォトエッセイが発売される、今のお気持ちを聞かせてください。

稲垣吾郎(以下、稲垣):『GLOW』の「大人男子ライフ」は、写真もすごく素敵に撮ってくださって、プライベートな部分もいろいろと深掘りした、僕自身とても気に入っている連載だったので、そのままにしておくのは非常にもったいないなと思っていたところでした。なので、こういった形でひとつ形に残るものを作ってくださったのは、とてもうれしいですね。そして、何よりもずっと昔から応援してくださっているファンの方が、すごく待ち望んでいてくれたので。「写真集やエッセイみたいなものを発売して欲しい」というリクエストは、いつも届いていました。それが形になって本当に良かったと思っています。

――これまでたくさんの作品を送り出してきましたが、“本”という媒体にはどのような思いがありますか?

稲垣:やっぱり今はデジタル全盛の社会なので、物として触れることって改めて大切だなって最近感じています。僕自身、好きな物に囲まれて生きていたいと常々思っていて。新しい流れに取り残されちゃダメだと思う一方で、物として残さないとなくなってしまうものもたくさんあるから。もちろん、デジタルも大事なんですけど。デジタルもアナログも両方をうまく使える人間になりたいっていうのが理想としてありますね。特に本は、本棚に飾っているときの感じとか、所有欲を満たしてくれるのがいいじゃないですか。それから染み付く匂いとか、触った感じとか、いい意味で経年劣化が楽しめるのも魅力的です。

稲垣吾郎

――確かに、これからの時代、アナログとデジタルのいいところを使い分けていきたいですね。

稲垣:僕らの世代って、両方をまたいで生きてきた人間なので、そこが面白いと思うんです。先日もカメラマンさんと話したんですが、フィルムで写真を撮られる感覚って、20年後、30年後の未来を生きる人には「なんの話? よくわからない」って言われてしまうかもしれない。でも、それってちょっとさみしいじゃないですか。だから僕は、今大切にしなくちゃなくなってしまうものに目を向けたくなるんです。この間も、1956年の時計を購入したんですよ。

――Instagramでも紹介されていた、A.ランゲ&ゾーネの腕時計ですか?

稲垣:そうです、そうです。スタイリストさんが借りてきてくださったものを、そのまま買い取らせてもらって。あとは、クラシックカーとかも昔から好きで。いいものを次の世代に残していきたい。だから僕も今回、本を作るとなって、結構こだわった部分はありますね。例えば、大きさとか紙の質感とかって、すごく重要。この手に収まるこのサイズ感を僕は気に入っているので、ぜひみなさんにも手にとっていただきたいなと思います。

――タイトルが『Blume』というドイツ語の“花”にしたこだわりについても聞かせてください。

稲垣吾郎稲垣:最近の趣味の広がりで、カメラで花の写真を撮ってブログやInstagramに載せるようになったのですが、それこそ作品として残したいなという思いがありました。今回のフォトエッセイには、自分で撮った写真も載っていますし、特典のクリアファイルの写真も実は僕が撮ったものなんです。先ほどお話した、好きなものに囲まれた生活という理想のなかでも、最近は花の存在感が大きくなってきたので“花”をタイトルにしたらどうかという話になりました。同時に、この本をファンの方へ花束を贈るような感じというか。今までの感謝の気持ちを込めたブーケみたいなニュアンスがあってもいいな、と。

――9月6日放送の『7.2 新しい別の窓』(ABEMA)では“フラワー”や“ブーケ”など、他にも案があったとおっしゃっていましたね。

稲垣:最終的には直感というか、大げさな意味はないんですが、僕も46歳の男性なので、少し男っぽい響きにしたかったというのがあります。ちょっと硬派な印象がドイツ語の響きにはあるなと思って。“フラワー”とか“ブーケ”だとちょっとかわいらしい感じに聞こえませんか? まぁ、それも僕には似合うかもしれないけれど(笑)。

――お似合いです(笑)。

稲垣:実は僕、ドイツって空港しか降りたことがなくて、ドイツの土地に触れたことはないんです。けれど音楽、アート、ワイン、それからカメラや腕時計みたいな工業製品も、気づいたら心惹かれるものがドイツのものだったということが、すごく多いんですよね。余談なんですが、昔に前世占いをやったとき「ドイツ人だった」って言われたことがあって。スピリチュアリストの江原啓之さんや、ほかにも何人かの占い師さんが同じように言うので、もしかしたら何か縁があるのかな、なんて思ったり(笑)。

――すごいですね。稲垣さんのドイツ紀行もぜひ見てみたいです! こちらの帯にある言葉は、稲垣さんご自身の言葉ですか?

稲垣:そうですね、自分の言葉です。「やりすぎない、出しゃばりすぎない」は、本当に自分の価値観を表している言葉だなと思って。自分の芯というものはしっかりとありながらも、風のように、蓮のように、漂うように生きていきたいっていうのは、僕の信念なので。でも、それを人に押し付けるのもあんまり好きではなくて。ときには人に合わせたり、距離を取ったり……それが僕の人との付き合い方です。それは変わらないですね。表紙の帯にある「永遠じゃないから、今が楽しめる」って言葉も、今を楽しむってことは、本当にずっと大切にしてきていることなので。そういった自分の言葉をまとめたのが、帯になっています。

凝り固まってしまった環境に居続けるより、ゼロからでも新しい景色を見たい

――改めて、19年前のエッセイ『馬耳東風』を読み返してみると、稲垣さんの美学はかなり早い段階から完成されていたように思いました。ご自身ではどう感じられていますか?

稲垣:自分で読んでも、芯にあるものは変わっていないなと思います。それは、良いのか悪いのかって感じですけど(笑)。自分の個性とか価値観みたいなもの、綺麗だな、カッコいいなと思うものって、さほど変わっていないなって、ニンマリしてしまったというか。最近、ステイホームをしていたこともあって、昔の写真とか見返したりもしたんですが、そういう意味では物があるとタイムスリップできますよね。香取慎吾くんの写真をInstagramにも載せましたが、昔モノクロームで写真を撮るのがすごい好きな時代があって、今はもうないですけど代官山の同潤会アパートとか、原宿や表参道の古い建物とかが好きで、今でも大きなアルバムに写真を貼り付けてとってあるんです。でも、構図も全然変わってないですね、昔と今も。構図とかってセンスや好みがでるじゃないですか。だからそういったものも全然変わってないなと思って。逆に20代の頃に美意識が確立されていたのも、なんか面白いですよね。

――ファッションもでしょうか?

稲垣:着ているものも何も変わってない。多少その時のテイストっていうのはあると思うんですけど、例えば今日着ている黒い服とかも昔からずっと同じだし。あと眼鏡ですかね。実際に目が悪いからなんですけど、逆に若い時はよく伊達眼鏡をかけてたなとか。それも変わってないんだなと思って。30年ぐらい前に、よく原宿の竹下通りとかで売ってたんですよね、伊達眼鏡。そういうファッションアイテムも結局変わってないなって。20代の頃、こういうものが好きで、こういうことやりたかったんだなっていうのを知ると、また「やってみようかな」と思えて、すごく今あの頃の自分と仲良くなっている感じがします。

――逆に、あの頃の稲垣さんが今の稲垣さんを見て、どう思われそうですか?

稲垣:「なんか丸くなったな」と言われるかもしれないですね(笑)。でもそれは当然のことであって、やっぱり若いときはもう少しとんがっているし、やっぱり「自分はこうだ!」って個性を出したい時期でもあった。自信もないですし、結果もまだないですから、よりカラーというものを主張したい気持ちは強かったと思うんですね。まぁ、芸能人みんなそうだと思うんですけれど。“僕はこういうカラー”というのを、ちょっと無理にでも出そうとしていたところはあったかもしれません。でも、結局それが今も変わっていないっていうことは、嘘はついていなかったのかなって。本当に好きでそのカラーを、自分はこういうカラーだっていうことをアピールしていたのかもしれないし。今は多少丸くなっているから、個性やカラーが自分の芯にあれば、別に今はどう思われてもいいなっていう風に思いますけど。

――無理にでも自分なりのカラーを出そうとしていた時期に、影響を受けた方や憧れの存在みたいな方はいらっしゃったのでしょうか?

稲垣:僕はやっぱり友達の影響というのが非常に大きかったですね。当時遊んでいた友達というか、少し先輩で黒田雄一さんっていう『ラッドミュージシャン』のデザイナーさんがいるんですけど、若いときから仲良くさせていただいてて。映画や写真の趣味であったり、それこそ音楽であったりとか、ファッションもそうですね。彼からはすごく大きな影響を受けました。

――『GLOW』10月号の「SALON de 大人男子。」(「大人男子ライフ」リニューアル後の連載)の記事にもお名前が出ていましたね。

稲垣:昔は雑誌でよく対談もしていたんですよ。そういう記事も、今読んだら面白いかもしれないですね。その頃「渋谷系」と言われる人たちが周りに結構いて、DJとかカメラマンとか。今振り返ると、いろんな人の顔を思い出してくるんですけど。10代から20代前半にかけて、そういう人から勧められた映画や本を少し背伸びして見ていました。

――年上の方との交友関係が、稲垣さんの感性を磨いていったんですね。

稲垣:そうですね。年上の方が多いですね、男性も女性も。今でもそういうところがあるかもしれないですけど、背伸びってすごく大切だと思うんですよ。ちょっと上を目指して、ちょっと上のフリをしてでもいいですけど、実際は気づくとその高みに登れているときもあるので。「年齢に見合わないことはよくない」とか、そういうふうにおっしゃる方もいるんですけど、僕は全然そんなことは思わない。

――背伸びしながら学んでいくというのは「大人男子」という言葉にぴったりですね。

稲垣:そうですね。若いときから背伸びして、分不相応なものでも身につけるっていうことは必要じゃないかなって。それはずっと持っていたいなって思うんですけどね。

稲垣吾郎

――今後、稲垣さんがどんな大人男子を目指していらっしゃるのかをお聞きしたいです。

稲垣:やっぱり周りには、素敵な大人男子がいっぱいいますよね。文化人や作家さん、映画監督とか、番組やラジオでいろんな方と対談させていただきますけど、いろんな人と知り合って、いろんな出会いをもたらしてくれる業界なので、本当に素敵な方が多いなと感じています。そういう先輩方のようになりたい、というのは思いますね。きっとベースの好みや感性は変わらないと思うんですけど、そこに説得力を持たせる経験と知識ですよね。なので僕も、もっと知識は深めていきたいなと思います。

――その部分では、また少し背伸びをし続けていくという感覚でしょうか。

稲垣吾郎稲垣:新しい環境に身を置くこと、大変だけどチャレンジすることって、やっぱりすごく必要なことなんじゃないかと思うんです。例えば、僕がグループでいたときって、ラジオパーソナリティや司会のようなトーク関連のお仕事をするイメージはあまりなかったと思うんです。それは、もっとトークが上手なメンバーがいたから。僕はどちらかというと、みんなにいじられたりとか、ちょっと得体の知れない存在みたいな感じで思われていたのか、よくわかんないですけど(笑)。

 これは今までのことを否定しているわけではないんですけれど、長く同じ環境で続ける中には、良くも悪くもパターンができてしまうところもあると思うんです。そういった意味では凝り固まってしまった環境に居続けるより、ゼロからのスタートでも新しい景色を見続けたい。もともと芸能界に対して、特別な憧れや強い思いを持って飛び込んだわけではない僕が、この歳になるまでやってこれているのは、何度も言いますけど支えてくれるファンの方が一番ですし、またその環境を整えてくれるスタッフのみなさんのおかげです。そういうみなさんが飽きずに僕のブレない価値観みたいなものを、“稲垣吾郎”という素材を必要として面白がってもらえるのがうれしいんです。基本的に僕は役者だと思っていますが、この先も歌やトーク、バラエティ、それにレストラン……と、新しいことにもさらに挑戦していきたいなと思います。ワインも作ってみたいですしね。僕は、まだまだこれからです。

■書籍情報
『Blume』
発売日:2020年9月18日(金)
定価:本体2500円+税
出版元:宝島社
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