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押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

どうすれば邦画を好きになれるでしょうか?

月2回連載

第60回

Q.
どういうわけか邦画が好きになれません。ホラーやアクション、サスペンスなど、好きそうなジャンルで何本か挑戦したのですが、それでもダメでした。どうすれば邦画を好きになれるのでしょうか? それとも、もう無理に好きにならなくてもいいのでしょうか?

── 今回は邦画が好きになれないという方からの質問です。

押井 麻紀さんも邦画はほとんど観ないよね。私も好きじゃないけど、それなりには観ている。

── 押井さんは邦画をほぼ観ない私を「現実が好きじゃないから」と分析してました。

押井 だって、そうでしょ?

かつての『映画芸術』の編集長の小川徹、私は彼の本を読み返しているんだけど、そこに「なぜ人は映画を観るのか?」という独自の考察を綿々と書いていて、これがなかなか面白い。

彼の最初の洋画体験は、スクリーンの中に自分とは明らかに違う現実、ヨーロッパやアメリカの人たちがいることに安心できたことだというんだよ。見知らぬ人間の見知らぬ世界を2時間でも観られることが、彼にとっては逃げ場になったわけだ。戦後を生きた人だったので、当時の日本の現実が悲惨すぎて、そういうふうに洋画に救いを求めたんだよ。そういう意味で邦画は逃げ場にはならなかったから。

また、小川徹は、映画に文学ではなく政治を求めた。男女の関係ですら政治で語れると考えた人で、嫉妬も欲望も政治。あらゆる映画から政治的な要素を読み取ろうとした。彼はアメリカ映画をたくさん観たんだけれど、日本の映画はあまり観なかった。なぜなら、日本映画には政治的な人間があまり登場しなかったから。

── 私小説のような主人公が多いからですか?

押井 というより、自我や自己に対して執着の在り方が西洋とはまるで違うんだよ。日本人は個人ではなく関係性の方を大切にする。だから映画もそういう作品が多くなる。

極端な例を挙げると、何度も映画化されている『瞼の母』とかね。母子の関係しか描いてないでしょ? 母子や父子、兄弟とか、そういう関係だけを描くのが日本の監督なんですよ。市川崑の『おとうと』(60)もその典型。名作なんていう人もいるようだけど、私に言わせればしょうもない前近代的な映画。個人を追い詰めるんじゃなく、人間関係を描く。いわゆる情緒を描いているだけです。

── 黒澤明の映画はどうなんですか?

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