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『ハン・ソロ』にある“『帝国の逆襲』オマージュ”の数々 スピンオフならではの作風を読む

リアルサウンド

21/3/5(金) 12:00

 本コラムでは、3月5日に『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が日本テレビ系『金曜ロードSHOW!』枠で放送されることを受けて、本作の見どころやちょっとしたトリビアをお届けしたいと思います。

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、『スター・ウォーズ』に登場する人気キャラであるハン・ソロの活躍にスポットをあてたスピンオフです。ここでいうスピンオフとは、“本筋”とは別に、そこの世界観や設定、サブキャラなどを使って作った外伝・番外編・派生作をさします。例えばもし『鬼滅の刃』で駆け出しだったころの煉獄杏寿郎さんを主役にした作品が作られたら、『麒麟がくる』の世界観の中で帰蝶様だけにフォーカスした新たなお話が語られたら、それらはスピンオフ作品と呼ばれます。

 なお『スター・ウォーズ』のビジネスにおいては、スピンオフ作品はタイトルの後に「A Star Wars Story(スター・ウォーズ・ストーリー)」とつけ『スター・ウォーズ アンソロジー・シリーズ』とくくっていくそうです。

 こう書くと“本筋”、つまり今までの『スター・ウォーズ』を知らないと楽しめないのでは?と思われるかもしれませんが、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』においてはそんなことはありません。ところどころに『スター・ウォーズ』ファンをよろこばせるセリフやキャラがでてきますが、これ単体で成立しているスペース・アクション・エンターテインメントです。

 ただ一応本作で描かれる“宇宙”について説明しておくと……『スター・ウォーズ』は僕らの住む世界・歴史の延長にはありません。はるか昔、どこかの銀河系が舞台。(だから“地球”という星も“地球人”も出てこない)様々な星の住人・生物・文化・文明が混在します。

 ファンタジーとSF的なガジェットが散りばめられた独特の世界観。ここでは縄張りを争いをくりひろげる犯罪シンジケートや圧政にのりだす銀河帝国が存在し、混とんとした状況になっています。こうした後にハン・ソロと呼ばれるようになる銀河のアウトローにしてヒーローの若かりし頃の冒険を描きます。

 宇宙空間を舞台にしたスペース・シップ同士の戦闘(ドッグファイト)、光線銃飛び交う銃撃戦、様々な乗り物(メカ)が絡むスピード感あふれるアクションと見どころいっぱい。読み切りの宇宙活劇として楽しめます。

 さて、ここからは今までの『スター・ウォーズ』を観ている方に向けた若干マニアックな内容となります。(以降、一部ネタバレあります)

 劇場公開の時、本作はちょっと不遇な扱いを受けたのではないかと思います。というのも、この半年ほど前に封切られた『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』がファンにとって不評で、新しく始まった『スター・ウォーズ』路線に逆風が吹いていた。また『スター・ウォーズ』のスピンオフとしては『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の出来栄えがあまりに素晴らしかったので、その厚みに比べるとちょっと軽い。正直、僕も劇場公開時には少し物足りなさを感じていたのですが、改めて見直してみると面白い作品だったな。先にも書きましたが“スター・ウォーズ”ということを意識しないで、単独のスペース・アドベンチャーとみれば十分面白い。

 そして“スター・ウォーズ”の中の一つとしてみれば、この作品は『スター・ウォーズ』の中でも名作中の名作とよばれる『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』へのオマージュに満ちています。というのも『帝国の逆襲』は一番ハン・ソロの活躍が目立っている作品だし、『帝国の逆襲』の脚本家ローレンス・カスダンが本作の脚本・製作総指揮を手掛けています。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』で重要な役割を担うは若き日のランド・カルリジアンですが、このランドは『帝国の逆襲』でデビューしたキャラです。『帝国の逆襲』においてハン・ソロとランドの出会いはミレニアム・ファルコン号をめぐるかけひきだったことが語られます。ほんの短いセリフのやりとりでふれられたこの昔話をローレンス・カスダン自らの手で映画化したのが本作といっても過言ではないのでは?

 他にも、『帝国の逆襲』の名セリフである、レイア姫の「(あなたのことを)愛している=I love you」に対する、ハン・ソロの「わかってるよ=I know」を受けて、本作ではランド「お前がきらいだ=I hate you」にハン・ソロが「わかってるよ=I know」と返す、という会話があります。

 またドナルド・グローヴァ―演じる若きランドがハン・ソロとはじめてあった時「ハン?」と彼の名を復唱する時のイントネーションは『帝国の逆襲』でランドを演じたビリー・ディー・ウィリアムズの言い方を真似ているそうです。(これは海外のファンが指摘していました。ただ僕はそこまでネイティブではないので“そうです”と書かせていただきます)

 個人的にはファルコン号を襲う巨大なクリーチャーがツボ。種類は違いますが『帝国の逆襲』にもファルコン号をのみこむ超巨大怪獣が出てきます。僕はこうした怪獣たちの大きさもまた『スター・ウォーズ』の世界観のスケールを語っていると思っています(笑)。ファルコン号のみならなずハン・ソロがあのブラスター(光線銃)、あのお守りの由来、チューバッカとの出会い、なぜ彼をチューイと呼ぶのかなどが描かれます。その一方で今までの『スター・ウォーズ』に登場したジェダイ、フォースは出てきません。最後にハン・ソロたちが向かうのはジャバ親分のところですね。

 ところで、最後に犯罪シンジケート、クリムゾン・ドーン(“真紅の夜明け”って赤をイメージさせる言葉が入っているのがポイント)の黒幕として、ある重要キャラが出てきます。あれ? 『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』で“死んだハズ”ですよね? 『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』は時系列的に、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の前の話なので、これは矛盾?と思いきや、後に作られたアニメシリーズ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』で彼はサイボーグとして復活しているのです。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』でこの役を演じているのは『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』と同様のレイ・パークですが、声をあてているのは『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』のサム・ウィットワーであり、したがって“『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』の設定”を受けての、今回の登場、というわけです。

 繰り返しになりますが、映画としては面白かったのですが、いまひとつ『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ブレイクせず、この後作ると噂されていたボバ・フェットのスピンオフ映画の企画とか一旦キャンセルになります。

 しかし本作で4本の腕を持つパイロット、リオ・デュラントの声を演じているのは『アイアンマン』の監督でもあるジョン・ファヴロー。彼はこの後『マンダロリアン』を手がけます。また本作の監督ロン・ハワードの娘で女優のブライス・ダラス・ハワードは『マンダロリアン』のエピソードをいくつか監督しています。この『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の流れから『マンダロリアン』が生まれたのかもしれませんね。

 最後にずっと気になっていたことを。この映画の原題は『Solo: A Star Wars Story』であり、邦題のように“ハン・ソロ”とは言っていません。なぜ“ハン・ソロ”というタイトルにしなかったのか? ソロ映画とハン・ソロをかけたのかと思ったのですが、この次に公開された『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を観た時にもしやと思うことが。『スター・ウォーズ』の世界では名前だけでなくファミリーネームが大事なんですよね。ただこの場合のファミリーネームは「どこの氏・素性か」というより「自分が何者であるか」を決める言霊的意味合いがあります。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の最後はまさにそういう締めでした。

 だから本作もハンという若者がソロ(一人)とファミリーネームを付けたことで、彼のその後の生き方が決まったということかもしれません。「ハン」以上に「ソロ」の部分が重要だったのです。

■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter

■放送情報
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
日本テレビ系にて、3月5日(金)21:00~23:34放送
※本編ノーカット・地上波初放送
※放送枠40分拡大
監督:ロン・ハワード
出演:オールデン・エアエンライク、ウディ・ハレルソン、エミリア・クラーク、ドナルド・グローヴァー、ポール・ベタニー
TM&(c)Lucasfilm Ltd.

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