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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

和田彩花の「アートに夢中!」

ルーベンス展―バロックの誕生

月2回連載

第6回

18/12/20(木)

 今回紹介するのは、バロックと呼ばれる壮麗華美な美術様式が栄えた17世紀ヨーロッパを代表する画家、ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)の近年最大規模の回顧展『ルーベンス展―バロックの誕生』。大工房を構えて時代に先駆ける作品を量産し、以降の画家たちに大きな影響を与えると同時に、ヨーロッパ各地の宮廷に派遣されて外相交渉をも行ったルーベンス。同展はイタリアに憧れを抱いたルーベンスとイタリア・バロック美術との関係を明らかにしたもの。壮大かつ荘厳なルーベンス作品を前にして、和田さんは何を思ったのだろうか。

王の画家にして画家の王
その実力とは

第3章「英雄としての聖人たち」の展示風景。

 展示室に入って、まずは作品の大きさと迫力に圧倒されました。もちろん小さな作品もあるのですが、やっぱり大きな作品が多いんですよね。思っているより大きいんです。ルーベンスの時代はきっと教会のためとか、王侯貴族のためとか、病院のために作られた作品なので、見上げなければいけないような、全体を見るためには仰ぎ見る、もしくは距離を取って見なければいけない作品が多い。それを美術館の空間で味わうことができるというのは、なんて贅沢なんだろうと感動しました。

 ルーベンスの絵をたくさん目の前にして、その作品から感じたのは「動き」です。
 この時代の絵画は、一般的にはテーマや場面を定めて描いていたと思うんです。一場面を切り取り、定めているから、画中の人物はそうあるべきポーズや感情でそこに登場します。ドラマチックで、今の私たちから見たら、ともすればわざとらしさを感じてしまうほど。
 でもルーベンスの絵には臨場感を感じる自然な人々の姿があるんですよね。ただ聖書や神話をそのまま描いているわけではないんです。主題はあるにしても、ドラマティックで理想化された人物の描写というわけではなく、どこか私たちに近い人間味を感じるというか。
 そして何より、描かれた場面の続きを垣間見ることができると思ったんです。時間がずっと動いているというか、止まっておらず、人物の感情の動きが見えてきそうです。そこがまた面白い部分だなと思いました。

リアルなイエスの死
《キリスト哀悼》

ペーテル・パウル・ルーベンス《キリスト哀悼》1612年 ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション ©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

 特にそれを感じたのが、《キリスト哀悼》なんです。
 キリストが亡くなり、それをみんなが囲んで深く哀しんでいるこの場面は、これまでに幾度となく、いろいろな画家が描いてきました。そんなに動きがある場面設定ではないけど、ルーベンスのこの絵からは、動きと時間を感じることができるんです。
 いまにも崩れ落ちそうなキリストの弛緩した腕なんかは、支えられていないと、すぐにだらりと下に落ちてしまいそうに感じませんか? イエスがこんなにも足を広げて、だらしないと言ったら語弊があるかもしれませんが、そんな姿で描かれることはありません。イエスっぽくないっていうか。理想化された聖人の姿はここにはない。


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