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ももいろクローバーZの歴史を紐解く 第4回:国立競技場ライブ~ソロ活動の活発化

リアルサウンド

21/3/20(土) 10:00

  メジャーアイドルのなかでもトップ人気を誇りながら、その地位に甘んじることなく常に人々の好奇心を刺激し、全力でおもしろいことを追求し続けている、ももいろクローバーZ。そんなももクロのヒストリーを紐解きながら、あらためてグループの魅力を掘り当てていく、この短期連載。第4回は、国立競技場でのライブやソロ活動の活発化について触れていく(第1回~第3回はこちら)。

初のスタジアムライブは「もっとできた」

 『NHK紅白歌合戦』初出場から一夜明けた、2013年元日。Ustreamでの中継で「国立競技場(国立霞ヶ丘陸上競技場)でのライブ」を次なる目標に掲げた、ももいろクローバーZ。ほかのアイドルをライバル視するのではなく、昨日までの自分を最大の強敵とするももクロにとって、次なるハードルを課す必要があった。東京大学大学院准教授・安西信一は自著『ももクロの美学<わけのわからなさ>の秘密』で、ももクロの楽曲を手がけたヒャダインこと前山田健一の「紅白が上がりになってしまうから出場しない方が良い」といった旨のコメントを引用し、「ももクロの魅力のひとつが、結果ではなく、あくまで成長と戦いの過程そのものにあることの端的な証左といえよう」と指摘した。

 『紅白』出場の明るいニュースから一転、2013年は試練から始まった。有安杏果の喉の状態が悪く、1カ月の発声自粛。ライブは歌唱せずにダンスだけ。テレビやイベントでも声を出さず筆談を強いられた。このままならない状況のなか、3月に大阪、名古屋、札幌で『ももいろクローバーZ JAPAN TOUR 2013「5TH DIMENSION」』を開催。未発売のニューアルバムを収録順に歌い、メンバーは仮面を装着、お客のサイリウム使用を制限する実験的な公演だった。そして4月13日、14日の西武ドーム2DAYSは生バンド構成。新たな「成長と戦いの過程」を歩み始めた。

 8月4日には日産スタジアムで『ももクロ夏のバカ騒ぎ WORLD SUMMER DIVE 2013』を開催。単独コンサートしてはグループ史上最多の6万人を動員した。しかし川上アキラマネージャーは、初のスタジアムライブについて自著『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』で、「終わった後は「こうすればよかった」という反省点も出てきました。有安も直後のインタビューで「もっとできたという思いもある」と言っていましたが、正直なところ、お客さんが入ってみて初めて分かったところもありました」と心残りを口にした。同年12月23日の『White Hot Blizzard MOMOIRO CHRISTMAS 2013 美しき極寒の世界』(ももクリ2013)は、プロフィギュアステート選手の村主章枝以外のパフォーマーゲストはなし。多彩なゲストを招いてイベントを沸かせてきたももクロにとっては異例のスタイル。基本的に5人だけで見せ切った。

 この年はエンタメ的な展開も、もちろんあった。5月の横浜アリーナのファンクラブ限定イベント『誰でもカモ~ン!~ただし、ホワイトベレーの方に限ります♡~』でメンバー自身がライブを演出、8月『ももいろクローバーZ ももクロ夏のバカ騒ぎ WORLD SUMMER DIVE 2013 8.4 日産スタジアム大会』では猫ひろし、武井壮、布袋寅泰、松崎しげるらが出演、同月『Animelo Summer Live 2013 -FLAG NINE-』で『キン肉マン』のコスプレ&串田アキラと共演、9月『氣志團万博2013 ~房総爆音梁山泊~』で「行くぜっ!怪盗少女」演奏中に百田夏菜子が6連続前転を披露。

 さらに2年連続『紅白』出場&「走れ!」演奏時に審査員・田中将大投手とZポーズなどトピックは満載。また、この年はアートワークの充実も見逃すことはできず、アルバム『5TH DIMENSION』やシングル『GOUNN』のジャケットが素晴らしかった。確かに愉快なネタは豊富にあったが、それでもももクロにとって2013年はストイックな1年だった。

国立競技場でのライブでアイドル界の頂点に

 『ももクリ2013』で、2014年3月に国立競技場でのライブ開催がサプライズ発表された。国立競技場での単独公演は、SMAP、DREAMS COME TRUE、嵐、L’Arc~en~Cielに次ぐ史上5組目。女性アイドルグループとしては初だ(AKB48とのにらみ合いもあったが、本稿では省く)。また、2020年東京五輪開催に向けて新国立競技場建設が決定していたため、当時の国立競技場は2014年7月から解体工事がスタート。そういった意味でも歴史的な出来事となった。

 グループのギアもあがっていた。1月に佐々木彩夏が左足骨折のピンチを迎えたが、5人は以前よりもタフになっていた。2月にアコースティックの生バンド編成『ももいろ夜ばなし第二夜「玄冬」』、歌やダンスの担当パートをシャッフルさせた『おしいろマンハッタン♡~なんてこったパンナコッタ~』ほか、いかなる状況でも各自が実力をフルに発揮できるまでに成長。

 3月15日、16日『ももクロ春の一大事2014 国立競技場大会~NEVER ENDING ADVENTURE 夢の向こうへ~』は2日間で計11万人を動員、さらにライブビューイングでも4万人を集客。1964年東京五輪を想起させる聖火点灯、聖火台から会場までトロッコで急降下した冒頭からラストまでハイライトの連続。このトロッコ演出は、「アドベンチャーといえば『インディ・ジョーンズ』」とメンバーが公演タイトルから連想して実践。ほかにも5人の意見を取り入れてステージを作り上げた。公演2日目のラストで5人は、オトナに用意されたMCの台本ではなく自分の言葉で気持ちをあらわした。高城れには「モノノフとずっと一緒にいたい」、佐々木は「ももクロに人生をかける」有安は「一緒に一歩ずつゆっくり進んで行こう」、百田は「笑顔を届けることにゴールはない」と宣言した。

 予算が足りなくてもおもしろいものを制作してきたアイデア力。奇抜な企画にも体当たりでチャレンジする精神。それらから磨かれたメンバーの自主性と、歌やダンスの成長。国立までたどり着いた感動以上に、グループの実力を感じ取れた公演だった。5月8日にリリースした『泣いてもいいんだよ』がシングルとして初のオリコン週間1位に輝いたことも、そういった成果の賜物ではないか。ももいろクローバーZは、アイドルという枠を飛び越えて日本屈指のアーティストとなった。

 以降は国外との接点が増えていく。2014年8月14日にはレディ・ガガのオープニングアクトに抜擢。2015年1月にはKISSとコラボしたシングル『夢の浮世に咲いてみな』がリリースされ、3月3日のKISSのジャパンツアー東京ドーム公演にはスペシャルゲストとして参戦。7月にロサンゼルスで開催『Anime Expo』で単独ライブをひらいた。2016年は3月にベトナム、7月に上海、11月には初のアメリカツアー『アメリカ横断ウルトラライブ』でハワイ、ロサンゼルス、ニューヨークをまわった。

 ちなみにスケール感を拡大させながら、2015年7月『ももいろクローバーZ 桃神祭2015 エコパスタジアム大会 ~御額様ご来臨~』では、ももクロの初期楽曲を多数手がけ、一時期から仕事に関連したわだかまりにより溝ができていた前山田健一と川上マネージャーの内輪揉めなプロレス試合を織り交ぜるなど(和解決着)、相変わらず緩急のある楽しませ方を見せた。

朝ドラ出演、お笑い進出、5人のソロ活動

 グループとして充実期を迎えたことで、メンバーのソロ活動も増加していった。百田は2016年にNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』で主要人物・小澤良子(多田良子)に扮し、夫役・田中要次を前に妙味ある芝居をみせた。書籍『ももクロ裏伝説』(2016年)で百田はオーディション時、本気で役を取りに来ていると思われなかったエピソードを明かし、グループ活動を中心とする考え方が周囲に引っ掛かりを生んでいるのではないかと分析。それが機になったのか個別の仕事も精力的となり、特徴的な声を生かしてハリウッド映画『ブラックパンサー』(2018年)の日本語吹替やアニメーション映画『魔女見習いをさがして』(2020年)で声優を担当。2021年公開の映画『すくってごらん』では陰を持ったヒロインを好演するなど、役者として脚光を浴びている。

 有安は2016年から始まったソロコンサート『ココロノセンリツ』シリーズで新境地を切りひらいた。作詞・作曲の「小さな勇気」はやわらかな日本語をつかった歌詞が特徴的で、彼女自身のメンタリティが表出した楽曲だった。雑誌『OVERTURE No.009』(2016年)のインタビューで、有安はソロコーンサートを通して「いままでどういう過程で曲ができあがってくるのか、細かい部分までは知らないままでレコーディングをしていたけど、今回、最初から曲作りに関わることで、それもよくわかった」とアーティストとしての進歩を語った。これは後々、グループ脱退からソロデビューに至るまでの大きな経験となったのではないか。

 高城はソロコンサートをいち早くおこなった。2015年3月9日、ソロコンサート『高城の60分4本勝負』を名古屋CLUB QUATTROで開催。また2017年からは、芸人・永野と組んでお笑いライブ『永野と高城。』をおこなっており、2020年末には同コンビで『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)に出演。コメディのセンスを発揮している。2020年にはドラマ『彼女が成仏できない理由』(NHK総合)で森崎ウィンとダブル主演。メンバーのなかで初めて連ドラ主演の座をつかんだ。

 玉井は、オムニバス映画『アニバーサリー』(2016年)のなかの一編「ハッピーバースデー」や、香取慎吾と共演したドラマ『ストレンジャー ~バケモノが事件を暴く~』(テレビ朝日系/2016年)での芝居が良かった。ももクロ主演の映画『幕が上がる』(2015年)では、原作者の劇作家・平田オリザが玉井を絶賛したと言われているが、確かに俳優としてのポテンシャルがとても高い。2018年には、アクロバティックなパフォーマンスが醍醐味のサムライ・ロック・オーケストラの舞台『マッスルファンタジー オズの魔法使い プレミアム公演』に特別出演。台詞に頼らず身体を使った表現で観客を魅了した。

 ソロ活動という点では、佐々木彩夏の飛躍が興味深い。川上も自著『ももクロ流』のなかで佐々木について「浜崎あゆみさんが大好きでそのステージをよく見ていたり、演出思考を持っていると思う」と語るように、裏方的な動きも目立つ。2016年のアメリカツアーではセットリスト作りやステージ演出の仕事にも参加。石川ゆみの振付や、花柳糸之による日本舞踏をメンバーに伝授する役割まで担った。活動初期からセルフプロデュースに長けていた佐々木だが、全体を見渡しながら自分の世界観の表現に取り組みはじめた。2019年には総合プロデューサー兼メンバーをつとめるアイドルグループ、浪江女子発組合を結成。プロデューサーとして目が離せない存在となった。

 2015年頃から活動範囲がさらに広がり、個々の動きも目立ってきた。ももいろクローバーZの5人は、このまま揺るがないものとして存在し続けると思われた。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter(@tanabe_yuuki)

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