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Nathan Fake、Four Tet、Tornado Wallace、田中知之……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜11選

リアルサウンド

20/5/3(日) 10:00

 2カ月のご無沙汰でした。たった2カ月の間に世界の様相は一変してしまいました。出口のないトンネルに迷い込んだような状況ですが、こんな時だからこそ音楽の力を感じましょう。在宅のお供になりそうなエレクトロニックなアルバムを紹介していきます。多くはインストゥルメンタルなので、聴き手の想像力次第でどんな状況でもハマる可能性がある。それが面白いところです。

Nathan Fake『Blizzards』

 英国の鬼才ネイサン・フェイクの3年ぶり新作『Blizzards』(Cambria Instruments)。ライブ用の機材を使って初期のダンスミュージックへの回帰を目指したという作品です。幻想的で官能的なシンセの音色と生きもののようにうねり触手を伸ばすフレーズ、繊細で美しいメロディ、ダンサブルでありながら変則的で意欲的なリズムアレンジなど、当代最高のテックハウス〜エレクトロニカを堂々と展開しています。若くしてシーンに彗星のように登場した天才児ももう39歳。ミュージシャンとして素晴らしい成熟を見せています。今年のエレクトロニックミュージックを代表することになるであろう大傑作です。

Nathan Fake – Blizzards Live Stream
Nathan Fake – Tbilisi
Torch Song (Jon Hopkins Edit)
Nathan Fake『Blizzards』
Four Tet『Sixteen Oceans』

 やはり英国のキエラン・ヘブデンのFour Tetの2年半ぶり10作目が『Sixteen Oceans』(Text)。これも素晴らしい傑作です。いかにも(Four Tetらしいカラフルでメランコリックでソフィスティケイトされたエレクトロニカは、さらに穏やかで瞑想的。EDMの歌姫エリー・ゴールディングのボーカルをチョップして声ネタとしてループさせたり、どことなく東洋的なニュアンスのあるトライバルでエキゾティックな曲があったりアイデアも豊富ですが、後半にいくに従ってチルアウト色が強くなり、メロウな色が濃くなっていくあたりが聞き物。繊細で透明感のある、美しい、というよりは優しいトラックが並びます。間違いなくFour Tetの代表作になるはず。

Four Tet – Baby (Official Music Video)
Four Tet – Baby
Sixteen Oceans 13th March 2020
Four Tet『Sixteen Oceans』
Tornado Wallace『Midnight Mania』

 豪州メルボルン出身で現在はベルリンを拠点とするトルネード・ウォレスの新作『Midnight Mania』(Optimo Music)。コズミックでサイケデリックでヒプノティックなトライバルハウスに、90年代レイヴやトランスの要素を加えたハイブリッドなエレクトロを構築しています。いかにもダンスフロア向けのオルタナティヴディスコで、夜遊びが恋しくなることは必至。

Tornado Wallace『Midnight Mania
Jamie 3:26『Jamie 3:26 Presents Taste of Chicago』

 シカゴのDJ/プロデューサーであるJamie 3:26ことジェイミー・ワトソンが、シカゴハウスの名曲をリエディット/リコンストラクトした作品集が『Jamie 3:26 Presents Taste of Chicago』(BBE)。BSTCの「Venus & Mars」、マイティ・サイエンスの「The Lesson」、ジャングル・ウィンツの「The Jungle」、チップEの「It’s House」などの楽曲が、非常に生々しく肉体的で硬質なダンストラックに仕上がっています。シカゴのアンダーグラウンド・ハウスの不変の生命力と力強さ、官能性に改めて降参する1作。

Mighty Science – The Lesson (Doc Brucio’s Original Mix – Jamie 3:26 Edit)
Quest – Mind Games (Underground Mix – Jamie 3:26 Edit)

Christian Löffler『Lys』

 ドイツのプロデューサー、クリスチャン・レフラーの4作目『Lys』が自らの運営する<Ki Records>から。浮遊する淡く繊細な電子音、メランコリックで寂しげなメロディのディープ〜テック〜ミニマルハウスです。バルト海を望む北ドイツの自宅スタジオにて制作された今作は、窓から照らし込む自然光にインスパイアされた作品だそうで、アトモスフェリックなサウンドはインドア向け。四つ打ちのダンストラックから、女性ボーカルをフィーチャーしたセンチメンタルなエレクトロニックポップまで、インディロックファンにもおすすめです。

Versailles (Hold)
Christian Löffler『Lys』
Session Victim『Needledrop』

 Khruangbinを輩出して注目を集めるUKの<Night Time Stories>から、ドイツのデュオ、Session Victimの4作目『Needledrop』。ジャズとR&BとディープハウスとトリップホップとAORとアンビエントがゆるやかに融合したようなダウンテンポエレクトロニカは、レトロなレイドバック感とコンテンポラリーなチルアウト感が微妙に混ざり合ったような音作りで、これまでのアルバムをはるかに凌ぐ抜群の洗練度。本作をきっかけに大きな注目を集めるんじゃないでしょうか。

Session Victim – Made Me Fly with Beth Hirsch (Official Music Video)
Session Victim – Needledrop (Taken from the album Needledrop)
Session Victim『Needledrop』
Andrea『Ritorno』

 アンドレアは、2012年ごろから活動するイタリアのプロデューサー。1stアルバム『Ritorno』(Ilian Tap)は、IDM/エレクトロニカとテクノとブレイクビーツとアンビエントをミックスしてベースミュージック以降の音響感覚で処理したようなミニマルテクノです。寡聞ながら本作で初めて知ったのですが、ミクスチュアのセンスとバランス感覚が抜群で、音の作り込みや音色の作り方も巧み。本作をきっかけに大きな注目を集めるかもしれません。

Andrea – LS September
Andrea『Ritorno』
Martyn Hare『Some People Never Learn』

 とびきりハードなやつを2枚。UKブリストルの地下テクノシーンの中堅マーティン・ハレの『Some People Never Learn』(Diffuse Reality)。ガツンガツンと真正面から豪速球を投げ込んでくるような、暴走する巨大トラックが警笛を鳴らしながら迫ってくるような、迫力満点の黒光りするハードコアミニマル。全14曲75分、一切の妥協のない、押しの一手の力相撲が実に痛快です。

Hold Tight (Intro) (Original Mix)
Martyn Hare『Some People Never Learn』

Luke Slater『Berghain Fünfzehn』

 UKのベテラン、ルーク・スレイターの『Berghain Fünfzehn』(Ostgut Ton)。この名義ではなんと15年ぶりのアルバムですが、変わらぬストイックでクールで硬質なビートがたまらないハードミニマルの最高峰。もう50歳は超えているはずですが、相変わらず微塵も丸くなることなくカッティングエッジでエクスペリメンタルな姿勢を貫いているのは本当にカッコイイ。

Luke Slater – O-Ton Reassembled 7 [O-TON127]
Luke Slater『Berghain Fünfzehn』
Daniel Avery×Alessandro Cortini『Illusion Of Time』

 UKテクノ/エレクトロニカのダニエル・エイヴリーと、Nine Inch Nailsのメンバーとして知られるアレッサンドロ・コルティニの共作『Illusion Of Time』(Phantasy Sound / Big Nothing)。数年の歳月を費やしたという、静謐で夢幻的でサイケデリックでドラッギーで、だがどこかざらりとした異物感の残るエレクトロニックアンビエント。時代状況だのトレンドだの関係なく、コツコツと自己の内面を深耕して作り上げた哲学的な匂いすらする作品です。

Daniel Avery & Alessandro Cortini – Illusion of Time
Daniel Avery & Alessandro Cortini – Sun
Daniel Avery×Alessandro Cortini『Illusion Of Time』
田中知之「Alone」

 最後に。Fantastic Plastic Machineの田中知之が、本人名義で初めて発表した楽曲が「Alone」。たぶん人類史的にも重大な転換期にある今、ひとりのミュージシャンからの誠実なメッセージと受け取りました。

Alone / 田中知之 Tomoyuki Tanaka
田中知之『Alone』

 ではまた次回。なんとか生き延びて、ここでお会いしましょう。

RealSound_ReleaseCuration@Dai_Onojima20200503

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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