Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

別府ブルーバード劇場ー日本映画ペンクラブ功労賞の89歳名物女性館長が切り盛り!休館中の秘策は再開後の前売券

隔週連載

第35回

20/4/26(日)

日本有数の温泉の街、大分県別府市。そのメインストリートに建つ「別府ブルーバード劇場」は創業1949(昭和23)年の歴史のある映画館だ。その館長を務めるのは、4月28日に89歳の誕生日を迎える岡村照さんだ。71年に亡くなった夫の跡を継いで、今年7月、50周年の節目を迎える。3月には長年の功績に対して、日本映画ペンクラブ功労賞が贈られた。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受け、現在は休館を続けているが、再開後に使える映画鑑賞券やオリジナルグッズをネット販売し、この危機を乗り越えようとしている。

緊急事態宣言が拡大され、全国の映画館は休業中だ。中でも、ミニシアターは経営存続の危機に直面している。別府ブルーバード劇場では、コロナ禍が始まってから1日の動員が数人という事態が続いた。そんな中、緊急事態宣言は4月16日に全国に拡大され、対策を講じながら営業を続けていた同館も18日から休館に入った。

「別府ブルーバード劇場」はJR日豊本線「別府駅」東口から徒歩5分。年季に入ったビルの2階にある。約80席は全席自由席。真っ赤なシートが目を引き、レトロな雰囲気が漂う。70年以上の歴史の中で、高倉健、吉永小百合、渥美清、浅丘ルリ子ら大物スターが多数訪れている。生涯現役を誓い、窓口に立ち続ける照さんは全国放送のテレビ局に何度も取り上げられた名物館長だ。「再開は状況を見極めて決めていきたいと思っています。ここまでの長期休館は創業以来初めてで、動揺しています」と話すのは、照さんをサポートする、次女で劇場マネジャーの岡村実紀さんだ。

3月、日本映画ペンクラブ賞表彰式で功労賞を受賞した岡村照さん。阪本順治監督がサプライズゲストとして花束をプレゼントした

そんな苦難の中、全国のミニシアターの事例を参考に17日から始めたのは、ネットショップ「別府ブルーバード劇場売店」だ。再開後に使用できる前売り券5枚セット(5000円)、シニア向け前売り券(1000円)、一般向け前売り券(1300円)、応援Tシャツ(5000円)、公式タオル(2000円)、ポストカード(500円)を販売中。既に20万円以上を売り上げている(4月22日現在)。

中でも、注目して欲しいのは「子供に映画をプレゼントするチケット」(1000円)だ。これは、別府の児童養護施設の児童にチケットをプレゼントするというもの。同館では、児童虐待問題を始め、子供たちをテーマにした映画のイベントなどを積極的に行い、施設の児童も招待している。遠方のため、劇場には通うことはできなくても、劇場の支援、子供への支援にもなる。

『子どもたちをよろしく』のポスターの前に立つ岡村照さん(別府ブルーバード劇場公式Facebookより)

その原点は、創業者である照さんの父、中村弁助さんの思い。別府市は戦中、温泉療養地としての機能があったことから、戦災を逃れたが、敗戦の重苦しい空気の中にあった「子供たちにいい映画を観せてあげて、夢を与えたい」と映画館を作った。その後、照さんの夫の昭夫さんが引き継いだが、わずか10カ月後の71年に41歳の若さで急死。当時39歳の照さんが館長に就任。映画全盛期、別府市内には20数館があったが、そのすべてが消える中、映画の灯を守り続けた。こうした長年の功績に対して、照さんは今年3月、日本映画ペンクラブ賞功労賞も受賞している。

「全国のミニシアターが危機に瀕している」との報道を受けると、全国から支援を申し出る声が相次いだが、幾多の困難を乗り越えてきた“戦中派”を自負する照さんの言葉は心強い。

「来場者の人数につきましてもたびたび問い合わせいただいておりますが、イベント時以外で10名を上回ることは普段からほぼございませんので、多少客足が衰えましても大きな影響が出るわけではございません。

当館はもともと父である先代中村弁助が遺した映画館で、わたくし岡村照が1人で切り盛りしており、娘の実紀、映画ライターの森田真帆ちゃんをはじめとするボランティアの皆様と共に運営しております。多くの従業員の生活を背負っておられるミニシアター様方のご苦労と比べれば、ブルーバード劇場はこのような形で運営ができているだけでも幸運と思っております。それに私は戦中派! 39歳で夫を亡くして以来、昭和一桁代の女館長として長年努めてまいりましたので苦難には慣れっこでございます」(休館前の投稿、別府ブルーバード劇場公式Facebookより)。

ロビーには映画人の色紙、写真、新聞の切り抜きが飾られている
映画『顔』のロケで使われた映写室

沢田研二、田中裕子がゲスト出演し、別府でロケしたシリーズ30作『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(1981年)では人口比に対する動員が全国の映画館でNo.1を記録。ブルーバード劇場は阪本順治監督の『顔』(2000年)にも登場。同僚ホステスを殺害し、整形手術をしながら全国を逃亡した福田和子の事件をモデルに、藤山直美主演で描いたもの。主要キャストの一人である國村隼が映写技師役で出演した。以来、阪本監督の作品をすべて上映しており、照さんと阪本監督は恋人同士のように仲がいい。

照さんの言葉にもあるように、15年からは映画ライターの森田真帆さんが館長補佐としてボランティアで手伝っている。森田さんは一人旅した際に同館をふらり訪れ、映画館と照さんの人柄に魅了され、「お手伝いさせてください」と直訴。その後、別府に家を借り、作品選びやイベント開催、メディア、インターネット展開などを担当。16年からは「Beppuブルーバード映画祭」を開催し、第3回の昨年は『パッチギ!』の真木よう子、『彼女がその名を知らない鳥たち』の白石和彌監督、阿部サダヲ、『HE-LOW2』の高野八誠監督、青柳尊哉、須賀貴匡、吉岡毅志、『半世界』の阪本監督、渋川清彦ら来場し、映画全盛期のような活況を見せた。

岡村照さん、『STAY』の尚玄、森田真帆さん(第3回Beppuブルーバード映画祭より)

89歳の誕生日を迎える照さんは「まだ自分ではそう年とは思いたくないけれど、皆さんがいろいろ助けてくれるし、手を貸してくれるので年を取っていっているんだなと思ったりします。50周年には大好きな映画『ひまわり』(50周年HDレストア版が近日公開予定)をロングランで上映したいと、ずっと思っていました。7月にはコロナも終息してくれて、お客様と映画『ひまわり』の話をたくさんしたいです。そんなひとときが私の一番好きな時間です」と抱負。

イベントについても「真帆ちゃんや娘が何か考えてくれると思います。再開するにあたっても、いつものブルーバードで皆様に過ごしてもらいたい それが一番。お客様は自分の指定席を決めている方も多いのですが、そこで映画を観てもらいたい。ブザーを鳴らし上映を始めて、帰りにお客様に感想を聞いてお見送りする、そんな毎日が私のいちばん幸せを感じる時間です。今回の長いお休みで切実にいつもの有り難みを感じました」と話している。劇中のひまわりのように、映画ファンの笑顔が再び満開になることを願っている。

映画館データ

別府ブルーバード劇場

住所:大分県別府市北浜1丁目2−12
電話:0977-21-1192
公式サイト: 別府ブルーバード劇場
別府ブルーバード劇場売店: https://bxbluebird.thebase.in

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む