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大島幸久 このお芝居がよかった! myマンスリー・ベスト

11月の1位は『女の一生』、杉村春子の当たり役を大竹しのぶが見事に継承!

毎月連載

第24回

20/12/1(火)

『女の一生』メインビジュアル

11月に観たお芝居myベスト5

①『女の一生』 新橋演舞場 (11/4)
②『11月歌舞伎公演』 国立劇場 大劇場(11/20)
③加藤健一事務所『プレッシャー ~ノルマンディーの空~』 本多劇場 (11/19)
④ 四季『オペラ座の怪人 』 JR東日本四季劇場[秋](11/27)
⑤ 劇団俳優座『火の殉難』 俳優座5階稽古場(11/18)

*日付は観劇日。11/1〜30までに観た13公演から選出。

『女の一生』の注目点は、大竹しのぶが主役の布引けいを初演する、段田安則が夫・堤伸太郎を演じる一方、演出もする、という企画の成果だった。大竹しのぶは「この人に注目!」で取り上げる。

『女の一生』より (C)松竹

段田演出は登場人物の関係性を分かりやすくした点だろう。特に、会話の場面での俳優の位置で距離を空けていたのがそれだ。夫婦になったけい、伸太郎の仲が険悪となった空気感が良く出た。伸太郎らの母・しずを演じた銀粉蝶、その義弟・章介の風間杜夫には舞台俳優としての台詞術を求めて堪能させた。栄二の高橋克実が何回か被り変えた鬘の芝居は笑わせた。『女の一生』は日本演劇の傑作。杉村春子を主演とした文学座の公演は劇団としての結束、アンサンブルに優れていた。新たな布陣での今回だが、是非、再演をして練り上げて欲しいものだ。

『11月歌舞伎公演』チラシ

国立劇場は第1部で上演された『平家女護島・俊寛』が文句なしの傑作になった。中村吉右衛門の俊寛が超の付く一級品。現在の歌舞伎で頂点に立つ芸を見せてくれた。下手の岩場から出てきたゆっくりとした歩みに島の生活の非情さが出た。そして圧巻は幕切れ。去って行く船の姿を見つめ、ただただ一点を見つめる。その「無」の心境は吉右衛門が行き着いた世界になった。

加藤健一事務所『プレッシャー~ノルマンディーの空~』より 撮影:石川 純

加藤健一事務所創立40周年、役者人生50周年という記念公演が鵜山仁演出『プレッシャー』だ。副題に「ノルマンディの空」とあり、第2次世界大戦で史上最大の作戦と言われた、いわゆる“ノルマンディ上陸作戦”がその舞台である。しかし、英国の劇作家デイヴィッド・ヘイグのこの作品は主人公が異色。

気象学者の天才スタッグ博士は英国人で、加藤健一が演じた。驚異の的中率を誇る気象予報士クリック大佐はアメリカ人で、山崎銀之丞が演じた。作戦決行3日前。アイクことアイゼンハワー大将(原康義)の命令は予定日当日の天気を予測せよ──。意見が正反対のふたりは対抗することでドラマが生まれる。

加藤健一事務所『プレッシャー~ノルマンディーの空~』より 撮影:石川 純

巨大な天気図を前に口角泡を飛ばす激論を闘わし、アイクは判断に苦しむ。飛び交う気象用語は難しい。だがものがたりが進んでいくうち、不思議と頭に入った。難産となった妻の状態を心配しながら予測する加藤の戸惑いの芝居が光る。アイクとアシスタントのサマズビー中尉(加藤忍)のロマンスが一服の涼で笑える。世界大戦の行方を決定的にした上陸作戦の背後にいたふたりの気象対決とは、意表を突く発想。また、カトケンは気骨の舞台人だと示していた。

『オペラ座の怪人』より 撮影:阿部章仁

『オペラ座の怪人』は新たな四季劇場[秋]での上演。劇団の代表作だが新鮮な気分になって観劇できた。とにかく傑作。天才アンドリュー・ロイド=ウェーバーの名曲には泣かされる。ファントムの佐野正幸、クリスティーヌの海沼千明とも抜群の歌唱力。とくに佐野はすっかり重厚さが増した。堂々の看板俳優になった。

劇団俳優座『火の殉難』より

『火の殉難』。陸軍青年将校らがクーデターを起こした2・26事件。時の蔵省、高橋是清に自身の立場、役回り、また時局を語らせ、高橋の家族も登場させた劇作家古川健の創作新作だ。高橋の自分史を回顧し、原敬や犬養毅との交流、日露戦争などの意見の相違の場面を交互に出したが、めまぐるしい時間の変化に戸惑うものの、スピード感のある空気も感じられた。

★この人に注目!★

『女の一生』より、大竹しのぶ (C)松竹

『女の一生』といえば杉村春子、『たぬき』は山田五十鈴、『放浪記』は森光子。日本の三代女優とされた名女優が汗と涙で作り出した名作に大竹しのぶが挑んだ。『女の一生』の主人公布引けい。終戦の昭和二十年十月、堤家の焼け跡に住む場面で老けた大竹のけいは台詞をゆったりと語り、しぶとく生きてきた年齢を見せた。続くのは家から追い出されて、紛れ込んだ堤家の庭。けい16歳。無理に若さを作らないが、悲しい生い立ちを伝える芝居は大竹の独壇場。「誰が選んだのでもない……」の名台詞ではあえて強調するのでなく、ごく自然に出てきた心境といったやり方だった。明治・大正・昭和初期の時代を映した杉村、昭和・平成・令和を感じさせた大竹。名作は継承された。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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