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いま、最高の一本に出会える

宮藤官九郎が『いだてん』に仕掛けたマジック 中村勘九郎らの“走り”を振り返る

リアルサウンド

19/7/6(土) 6:00

 大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)は早くも前半戦が終わり、田畑政治(阿部サダヲ)らを中心とした後半戦に突入したわけであるが、それにしても、あっという間に駆け抜けた半年の放送であった。金栗四三(中村勘九郎)による「走る」ことへの挑戦、後に古今亭志ん生(ビートたけし)となる若かりし頃の美濃部孝蔵(森山未來)の生き様、日本人のオリンピック出場、駅伝の開催、女子スポーツ、関東大震災、等々。気づくと視聴者である私たちは、まるで沿道でランナーを応援するときのように、『いだてん』というドラマの中で汗を流し、試行錯誤し、笑い、涙する一人一人に「頑張れ!」とエールを送っている。

 四三、スヤ(綾瀬はるか)、シマ(杉咲花)、三島弥彦(生田斗真)をはじめとした天狗倶楽部の一同、孝蔵、村田富江(黒島結菜)、人見絹枝(菅原小春)、小梅(橋本愛)、清さん(峯田和伸)、嘉納治五郎(役所広司)……。『いだてん』の世界を作り上げるみなが、それぞれの役柄の中で、十人十色の光を放っている。四三のように本当の意味でアスリートであるか否かに関係なく、全員が一人の“アスリート”のように映る。思うに、これこそが宮藤官九郎が本作に仕掛けたマジックなのだ。

 毎話の放送を受けて、『いだてん』の視聴者は思い思いにその魅力、素晴らしさを語る。それはちょうど、オリンピックやパラリンピック、あるいはスポーツの試合を観戦した人々が、「あの瞬間、びっくりしたよね!」とか、「いや、あの流れは感動した!」と口にするときのように。『いだてん』を観た友人同士で、家族同士で、あるいはSNS上の顔の知らない誰かとともに、それぞれが「あの展開は本当に震えた」「あの場面はもう一度観てみたい!」といった風に語りあって、その体験を分かち合う。そして、それはいつしかまだ観ていない人にも伝えたくなる。

 もちろん本作の中には、胸を締め付けられるような四三の苦悩や、関東大震災の描写などもあり、全てがワクワクと感動の物語というわけではないため、単純にスポーツ観戦とは並べられない。ただ、観るとつい“誰かに伝えたい”、“誰かに知ってほしい”と思う要素が随所に散りばめられている。それぞれの視聴者が、四三をはじめとする多くの人々にエールと、祝福と、拍手と、祈りを捧げずにはいられない、そんなドラマなのである。登場人物たちが、日本人にとっての初めの一歩を踏み出した人々という“偉人”たちであることには変わりないのだが、私たちと同じように悩み苦しみ、そして楽しんでいる市井の人々だからこそ、視聴者も身近には感じずにいられないのだろう。

 話は大きく変わるが、これまでの『いだてん』では四三や弥彦らはもちろんのこと、孝蔵やシマ、富江といった様々な人物たちの「走る」姿が描かれ続けてきた。そしてその走り方は人によって異なる。

 「足で覚えろ」と師匠から言われ、自分なりに考え、車を引いて走り続ける孝蔵。あるいは富江ら竹早の女学生のように、四三との出会いがきっかけで、身体を存分に動かすことの楽しさを知り、抑圧から解放されていくような走り方もある。あるいは、関東大震災のあとの運動会の子どもたちのように、ただただ無邪気に大地の上を駆け抜けるのだっていい。四三に限らず、登場する人それぞれの走り方が観られたのも、このドラマの良さであった。

 「走る」という運動だけでもまったく違った物語が生まれるのだ。もちろん、『いだてん』には走ること以外にも、テニス、バレー、槍投げ、そして第二部の主役となるであろう水泳といった他の競技も描かれており、そこにはまた別の世界が広がっているのである。

 さて、『いだてん』という作品自体を一つのレースと見るのならば、メインの“選手”は田畑政治たちへと引き継がれたわけであるが、今後どんな物語を見せてくれるのだろうか? これまで『いだてん』を観てきた方も、これから観るという方もみんなが楽しめるドラマがひかえているはずだ。笑いあり、涙ありの『いだてん』ワールド。後半戦は始まったばかりである。(國重駿平)

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