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back number、松任谷由実、山下達郎……切ないクリスマス曲が流行る理由は“会えない寂しさへの共感”?

リアルサウンド

19/11/24(日) 19:00

 日本のポップスには、切ないクリスマスソングのヒット曲が数多くある。切ない三角関係を歌った辛島美登里「サイレント・イヴ」、秋元康が作詞を手がけた稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」は、クリスマスまでの間に別れを決断する歌。子どもの頃はあんなにも待ち遠しかったはずのクリスマスが、大人になるとなぜこんなにも切ないクリスマスソングを欲してしまうのか。

参考:back numberはなぜ“名曲”を生み出し続ける? 「HAPPY BIRTHDAY」「大不正解」より考察

 街にはきらびやかなイルミネーションが輝き、カップルの幸せそうな笑顔がこぼれる季節。しかし視線を逸らせば対象的に、切なく孤独な物語が溢れている。クリスマスソングとして有名な曲は、実は切ない曲が多い。例えばマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス(All I Want for Christmas Is You)」は切実な片思い。Wham!の「ラスト・クリスマス(Last Christmas)」は、失恋した経験を思い出している。「恋人がサンタクロース」で有名な松任谷由実も、「忘れかけたあなたへのメリークリスマス」という曲で、孤独なクリスマスの1日を歌っている。若い世代にとっては、ひとりで過ごすクリスマスを歌ったback numberの「クリスマスソング」が、馴染み深いだろう。そしてザ・クリスマスソングとして有名な、山下達郎の「クリスマス・イブ」もまた、待っても来ることのない相手を待つ歌だ。JR東海「ホームタウン・エクスプレス(X’mas編)」のCMソングに使用され、同CMが新幹線のホームを舞台にした恋人たちのドラマを描いた内容だったことから、遠距離恋愛の曲としても親しまれるようになった。

 では、ハッピーなはずのクリスマスなのに、なぜこんなにも切ないクリスマスソングが多いのか。答えは、日本人の国民性にあるかもしれない。日本人は、実に忍耐強い。言い換えると我慢強く、待つことに慣れていると言える。七夕の織り姫と彦星のエピソードが象徴的で、古来より日本人は、会えない寂しさに共感し、長く待つことでより大きな喜びを感じるようにできている。クリスマスも年に一度であり、そこに自然と七夕のエピソードを重ねて、切なさを求めてしまうのかもしれない。会えない時間と距離は、決してふたりを引き裂くための障壁ではなく、会えたときの喜びをいっそう大きく感じるための、極上のスパイスであることを遺伝子が知っているのだ。実際に会えない寂しさに共感する曲は多く、モンゴル800の「あなたに」、西野カナの「Dear…」、HYの「Song for…」など。また、クリスマス=ハッピーな日というシチュエーションとのギャップも、切なさを増幅させるスパイスだ。同じ失恋ソングならクリスマスをモチーフにしたほうが、街のきらびやかさや幸せそうな恋人たちの様子が、よりいっそう切なさと孤独感を引き立ててくれる。

 11月13日にリリースされた、4人組ボーカルグループ First placeが歌う「SNOW LIGHT」も、切ないクリスマスソングとして徐々に注目を集めている。同曲は、そんな切ないひとりぼっちの切なさを描いた、新たなクリスマス・スタンダードだ。First placeは昨年『名探偵コナン』のエンディングテーマ「さだめ」でメジャーデビューした4人組のボーカルグループで、6月には遠距離恋愛を意味する「Long Distance Love」をタイトルに冠したミニアルバム『L.D.Love』をリリースしている。

 同作には、距離は離れていても強い絆で結ばれているふたりを歌った「瞬間≒FOREVER」という曲や、また会えた時に寂しかった気持ちや辛かった気持ちを笑い飛ばそうと歌った「L.D.Love」など、遠距離恋愛を前向きにとらえた楽曲を収録していた。今作「SNOW LIGHT」は、何かの訳があって別れてしまった彼女とのクリスマスを思い出して、切なくなってしまった瞬間を歌っている。前作の「瞬間≒FOREVER」や「L.D.Love」では遠距離をものともしなかったふたりだったが、もしかすると別れてしまったのかも? と想像することもできる。

 「SNOW LIGHT」は、まるで華やかな冬の街の情景を映したような、キラキラとした美しいサウンドが印象的。透明感のあるボーカルと美しいハーモニーは、どこか聖歌隊のようなイメージで非常に温かだ。間奏にはブラスや鈴の音が使われていて、まさしくクリスマスの一夜といった感じ。しかしサビでは〈君がいないクリスマスは〉と歌い、せっかくのクリスマスなのに独りであることがわかる。街が華やかであればあるほど、どこか自分だけ別世界に取り残されてしまった気持ちになるように、サウンドが華やかであればあるほど、歌が温かであればあるほど、寂しさがつのり孤独感が増していく。〈距離〉という言葉も出てきて、前作に対するオマージュも感じる。そして最後に歌われている、〈雪にとけて消えた〉というフレーズ。雪にとかしたのは、彼女の涙なのか、ふたりの時間なのか、それとも自分の恋心なのか。聴く人の経験によって、さまざまに想像してもらえるだろう。

 切ない歌詞ではあるが、決してネガティブなものではない。悔やんでいるわけでも恨んでいるわけでもなく、ただ思い出している。そんなこともあったな、と。そんな風に思い出して振り返ることができる恋愛を経験したことは、主人公の彼にとってはすごくいいことだったと思う。きっと彼女と真剣に向き合い、その恋を大切に想えばこその決断だったろう。First placeの4人の歌声からは、そんなすがすがしい様子も感じられる。まだそんな恋に出会っていない人は、この曲を聴いて自分もそんな恋がしたいなときっと思うだろう。(榑林史章)

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