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『だから私は推しました』20代Pが語る、地下アイドルを描いた意図 「“推した”後に残るもの」

リアルサウンド

19/9/7(土) 12:00

 『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』と2作続けて高い評価を得たNHK土曜23時半放送の「よるドラ」枠。その第3弾として、ドラマファンから支持されているのが、地下アイドル×女ヲタをテーマとした『だから私は推しました』だ。周囲からの評価ばかりを気にし、生きづらさを抱えた主人公・愛(桜井ユキ)が、ひょんなことから地下アイドル・サニーサイドアップのステージを観たことで、その人生を変化させていく。

 リアルな地下アイドル描写と“沼”に堕ちていく主人公の残酷過ぎるほどのリアリティ、第1回で衝撃を与えたミステリー仕立ての構成など、異色のドラマはいかにして生まれたのか。『おんな城主 直虎』(NHK総合)、『義母と娘のブルース』(TBS系)を手掛けた名脚本家・森下佳子とは、どう作品を生み出していったのか。27歳で本作のプロデューサーを務めた高橋優香子氏にじっくりと話を聞いた。

●アイドルの“闇”からも目を背けずに描く

ーーこれまでの「よるドラ」作品は非常に高い評価を得ていました。第3作目を手掛ける上でのプレッシャーはありましたか。

高橋優香子(以下、高橋):企画自体は『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』の放送前から決まっていました。なので2作品と比べてのプレッシャーというよりは、挑戦的な枠に参加できる喜びの方が大きかったです。前2作品が放送された後も、それが多くの方々に愛されていたことが私自身も嬉しかったですね。「よるドラ」枠を楽しみにしてくれる方々の期待に応えたいという思いが強くなりましたし、制作中も大きな励みになりました。

ーー「よるドラ」はドラマを観なくなった若者世代へ向けて企画したと聞きました。地下アイドルを題材とした理由もその点が大きかったのでしょうか。

高橋:そうですね。それに、純粋に「自分だったらこういうドラマが見たい」と思うものをやりたいと思いました。自分が20代だからこそ見つけられるテーマや、伝えたいと思うメッセージでドラマを作れたらと。今回、地下アイドルを題材としたのは、アイドルたちを支える“ヲタク”を主役に置くことによって、何かに打ち込むこと、誰かを応援することの清々しさを描きたかったからです。もちろん、私自身が女性アイドル好きというのがまず前提にあったのですが(笑)。

 第1回の主人公・愛は、SNSのいいねの数を気にして、自分の意見よりも周りの意見に合わせてしまうような女性でした。私自身も愛ほど極端ではないにせよ、そういった側面はあります。自分がどう感じるかよりも、周りがどう思っているかを重視してしまうというような。でも、本当に好きなものに打ち込めること、そして自分の好きなものを大事にすること、自分がしたいことをすることって、当たり前のようだけどすごく素敵なことですよね。それが本作の登場人物を通して伝わっていたら嬉しいです。

ーー現実世界でもアイドルとファンの関係が問題になる出来事がありましたが、本作の中でもその問題は描かれています。いわば、アイドルビジネスの“負”の部分はどこまで描こうと考えていたのでしょうか。

高橋:「アイドルって可愛い! アイドルヲタクって素晴らしい!」というかたちで明るい部分だけ描くことももちろんできたのですが、それは真実ではないなと。熱心に応援する気持ちも、一歩間違うと犯罪へとつながってしまうケースもある。アイドルとファンの距離が近すぎることで生まれる危うさから、目を逸らすことはできないと思っていました。そういった意味で、サニーサイドアップのメンバー同士のいざこざ、瓜田(笠原秀幸)に象徴される狂信的なファンの存在なども盛り込みました。だからといって、本作を通して「ファンとはこうあるべき、アイドルビジネスはこうあるべき」という“答え”を出したかったわけではありません。主人公・愛、その推しメンであるアイドル・ハナ(白石聖)、そして瓜田らの姿を通して、視聴者の皆さんが何かを考えるきっかけになってもらえればと。

ーー第1回を観て驚いたのが本作がミステリー仕立ての構成だったことです。これは脚本を手がけた森下佳子さんからの提案だったのでしょうか。

高橋:森下さんや演出と相談しながらこの構成にすることを決めました。やはり、“地下アイドルと女ヲタ”というテーマだと、その分野に興味がある方にしか届かない可能性がある。ミステリーの要素を取り込むことによって、普段アイドルに興味のない方々にも「次はどうなるんだろう?」と楽しんでもらえると思いました。アイドルファンあるある、アイドルあるあるを楽しんでもらうと同時に、自分の価値観をどこに置いていいか分からず悩む愛に共感したり、ミステリー部分にドキドキしたり、楽しんでいただくためのいろんな入口を用意したいという思いが強かったです。

ーー愛が取調室で回想していくという形は初期段階から構想にあったのでしょうか。

高橋:第1回と最終回で愛がどう変化しているか、まずはそれを軸に森下さんに脚本を書いていただきました。どちらかと言えば、最初は愛とハナの物語を直球で描いていたと思います。そこから視聴者の皆様に毎話楽しんでもらうためにどうするかというところで時間軸をずらし、最終回に向けて逆算していく今の形になりました。

●“推した”ことによって得た何か

ーー愛を演じる桜井ユキさんは前クールのドラマ『東京独身男子』(テレビ朝日系)で演じていた弁護士役とは別人のようです。キャスティングはどんな経緯で?

高橋:完全オリジナル作品なので、登場人物たちの性格は非常に細かいところまで森下さんと詰めていきました。その後に、作り出したキャラクターに合う役者さんを見つけていきました。愛を演じた桜井さんに関しては、チーフ演出も是非お願いしたいと。桜井さんの出演作を観ていると、とにかく表情が豊かなんです。笑っていても、心の中では笑っていないんだろうなと思わせる表情をされていたり。愛も最初は自分の言いたいことが言えず内に溜め込んでしまう性格。それが最後にははっきりと言えるようになる。その変化を体現できるのは桜井さんしかいないと。あとはあんなに素敵な方なのに、どこか親近感も持ち合わせていて「本当にこんな人がいるんじゃないか」と思わせてくれる表現力が桜井さんにはあると思っていました。

ーーそして、愛が沼に堕ちてしまうアイドル・サニーサイドアップのクオリティの高さにも驚きました。ここまでの作り込みは最初から決めていたのでしょうか。

高橋:やるからにはしっかり世界観を作りたいと思っていました「いろんな入口を用意したい」と先程も言いましたが、ヲタクである主人公により深く共感してもらうために、アイドル側も作り込みたかったんです。なので、楽曲を作り、ダンスも決めて、PVも撮って……と、本当にアイドルプロデュースをしていた感じですね。

ーー本作には監修として元・地下アイドルの姫乃たまさんが参加されています。サニーサイドアップの作り込みにも影響が?

高橋:姫乃さんには台本を作っていく過程でのリアリティなどをチェックしていただきました。フィクションなのでどうしてもドラマチックに展開させなくてはいけない。それをどうすればリアリティの延長として描けるか。姫乃さんはアイドルとして、自分が演者となることはもちろん、ファンにはどんな方がいるかもよく知っている。加えて、ライターとしても活動されている方なので、そういったアイドルの現場を客観的に見ることもできる。キャラ設定の段階から、こんな性格だとこの子は人気が出すぎてしまうとか(笑)、こんな行動を取ったらファンが離れてしまうとか、私たちでは理解しえないところまで深く教授していただきました。

 姫乃さんの意見は瓜田のキャラクター像を作る上でもすごく参考になりました。当初、瓜田像としてぽっちゃり気味で見た目にも気を遣っていない、“いかにも”なヲタク像をイメージしていたんです。でも、姫乃さんから「危ない部分を持ったファンの方は見た目自体は一般的なことが多いんです。見た目が普通であるからこそ、周りも危険に気づいてくれない。それがより怖いところなんです」と意見をいただきました。それは確かにそうだなと。そういった部分で、今回姫乃さんの力は非常に大きかったです。

ーー放送も残り2回となりました。最終回に向けての見どころを教えてください。

高橋:ミステリー部分が気になる方も多いと思うのですが、注目していただきたいポイントはやはり愛の表情です。第4回では副業を始めてまでサニーサイドアップにつぎ込むようになりました。愛の友人たちも指摘していましたが、世間から見れば「アイドルなんかと出会わなければよかったのに」と思うはずなんです。お金も時間も費やして、最後に何が残るんだと。でも、それでも愛の中には“推した”ことによって得た何かが確実にあるはず。愛は推しと出会ってどう変わったのか、愛自身はハナを推してきた日々をどう思っているのか、その点に注目していただけたらと思います。

(取材・文=石井達也)

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