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おとな向け映画ガイド

今週のオススメはこの5作品。

ぴあ編集部 坂口英明
19/10/28(月)

イラストレーション:高松啓二

この週末に公開の作品は28本。今週もとても多い本数です。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのは『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』『マチネの終わりに』の3本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が25本です。この中から厳選して、おとなの映画ファンにオススメしたい5作をご紹介します。

『NO SMOKING』



日本の音楽界を代表するひとり、細野晴臣さんのデビュー50周年記念ドキュメンタリーです。超貴重な映像を交えながら、細野さんが気さくにご自身を語る、トークライブのような映画です。この人、お話が面白いのです。そのうえサービス精神旺盛で、茶目っ気たっぷりのエンターテイナー。突然、ホッピングとか、火星歩行ダンスなんかやりだしちゃいますし。タイトルもシャレ。タバコをひっきりなしに吸っています。

1947年、戦後すぐの生まれ。少年時代の思い出から始まり、音楽に熱中した高校、大学時代。小坂忠とエイプリル・フールを結成し、デビューしたいきさつ。大瀧詠一・松本隆・鈴木茂との伝説のはっぴいえんどはどんなふうにして生まれたか。ソロになってトロピカル・ダンディー、横尾忠則がきっかけになったインドとの出会い、そしてYMO、アイドルへの楽曲提供、YENレーベル……。軽やかに、何事も面白がって生きてきた。そうしたら自然に人が集まって、ムーブメントが起きていった、そんな半生を、少し照れながら話します。彼を敬愛する星野源がリスペクト感のあるトーンでナレーションを担当しています。

1976年横浜中華街の同發新館で行われたライブ映像、それを星野源と再現した40年後のコンサート。小山田圭吾、高橋幸宏、そして飛び入りで坂本龍一が加わった2018年のワールドツアーのロンドン公演は貴重です。2005年、狭山で行われたフェスも収められています。雨上がりの会場、MCのあと、ギタ一1本で歌いだします。「昔のメロディ、口ずさみ……」から始まるあの名曲『ろっかばいまいべいびい』です。しみじみとしていて。ちょっと泣けます。

『最初の晩餐』



家族といっても連れ子あり同士の再婚となれば、食事も異文化の衝突です。65歳になる直前に父がなくなり、その通夜振舞で、母が用意したのは、そんな家族の食の歴史の再現。最初に出てきたのは、ふたつの家族が一緒になった夜の、ちょっと風変わりな目玉焼き。それがこの一家の「最初の晩餐」でした。

東京でカメラマンをしている染谷将太と、もう結婚をして子供もいる戸田恵梨香が父の連れ子。染谷の視点で思い出が語られます。物静かな父を演じるのは永瀬正敏。母役は斉藤由貴です。父は名の知れた登山家だったのですが、再婚と同時に家族のために山をあきらめ工場勤めに。味噌汁の味から家族のギャップがはじまり、秋刀魚の骨の話で母娘がうちとけあう……。ある理由で家族を離れた母の連れ子が登場するのは、通夜の終盤です。窪塚洋介が演じています。

家族の秘密が徐々に明かされていきます。親族や弔問客が話す小さなエピソードから、まるで複雑な結び目をほどくかのように、父の家族への思いが明らかになっていきます。そんな食事と家族の物語は、常盤司郎監督のオリジナル。父親の思い出をたぐりよせて作ったといいます。「最後」の晩餐のシーンは、自分の父親のことを思い出し、ジーンときました。食のことは、家族の記憶につながります。

『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』

「笑わない」笑福亭鶴瓶主演映画です。微笑むくらいはあったと思いますが、映画を観終わって残る印象は、沈痛な影を持った悩める男、です。あのあふれんばかりの笑顔は封印されています。鶴瓶さん主演としては『ディア・ドクター』(2009年)から10年、今回も演技賞候補まちがいなしでしょう。

冒頭はショッキングな死刑執行シーン。かわって、看護師長の小林聡美が、ひとつひとつ鍵を開けて病棟に入るシーンに続きます。「閉鎖病棟」、つまり精神科の隔離病棟です。さまざまな理由で、ここに入れられたり、または自分から望んで入院した患者さんたちがいます。鶴瓶が演じるのは初老の元死刑囚。死刑執行されたにもかかわらず奇跡的に一命をとりとめ、再執行されずに、精神病院をたらい回しにされたのです。彼と、幻聴に悩まされる元サラリーマン役の綾野剛、家族のDVから逃れて入院した女子高生役、小松菜奈がドラマの中心です。患者さんたちの日常は、もちろん多少異形な感じはしますが、いたって平和で、のどかなものです。ある事件がおきるまでは……。

監督は『愛を乞うひと』の平山秀幸。帚木蓬生による山本周五郎賞受賞の同名の小説が原作です。救いようのない話の連続ですが、小さな希望の灯がともる結末。サブタイトルの「それぞれの朝」、しっくりきます。

『キューブリックに愛された男』『キューブリックに魅せられた男』

『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック。天才映画監督です。作品はほとんどが映画史に残る名作。常に完璧を追い求め、細部にもこだわり抜く芸術至上主義者で、独裁的。行動には狂気をはらみ、逸話に事欠きません。その伝説、神話に新たに加わったのが、この2本のドキュメンタリー。キューブリックを支えたふたりにスポットをあてた作品です。このふたりがいなかったら、キューブリック映画の何本かは世に出なかったかもしれません。全然無関係に作られた2本を、セットにして一挙公開するのは日本の配給会社のアイデアです。

キューブリックのお抱え運転手のはずが、あらゆる私的な用まで任されるようになったエミリオ・ダレッサンドロ。その半生を描いたのが『キューブリックに愛された男』。原題は『S is for STANLEY』、SはスタンリーのS、メモの最後に書かれていた名前の略からつけられています。キューブリックは日常のこまごまとしたことを、メモや、時には電話で彼に依頼したのです。エミリオはスタンリーにとって便利な人、というだけでなく、心の支えでもあり、いなくては困る存在です。やめて引退生活に入ろうとする彼を思いとどまらせるために、キューブリックが次々と考えだすやり方がほほえましいというか、悪魔的です。

『キューブリックに魅せられた男』のレオン・ヴィターリは、悲劇としかいいようがない、もう完全にキューブリックに振り回された人生です。『バリー・リンドン』で役者として出演し、その映画作りに魅せられたレオンは、キューブリックのスタッフの道を選びます。実はそのまま進めば、人気役者というコースにのっていたのですが…。役者のオーディション、教育係など、これまでの経験を生かすだけでなく、クリエイティブに関する総プロデューサーの役割も担うことになります。10分おきに、キューブリックから電話がきます。メモも運転手のエミリオ以上にとんできます。キューブリック没後も過去作のDVD化、ブルーレイ、デジタル化……すべてに関わっていくのですが……。げっそりやせた彼の顔がすべてを物語っています。

2本を通して観ると、キューブリックはやはり、この人のためならと思わせるに足る魅力の持ち主だったと痛感します。にしてもすごすぎる献身!

東京は11/1(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。名古屋は11/9(金)から名古屋シネマテークで公開。関西は11/15(金)からシネ・リーブル梅田ほかで公開。

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