Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

大島幸久 このお芝居がよかった! myマンスリー・ベスト

演劇界の気概を感じた3ヶ月ぶりの観劇ベストは三谷幸喜の新作『大地』。注目のこの人は特別版、三浦春馬に新人特別功労賞を!

毎月連載

第20回

20/7/31(金)

『大地』(Social Distancing Version) チラシ

7月に観たお芝居myベスト5

①『大地』(Social Distancing Version) PARCO劇場(パルコ劇場) (7/8)
② こまつ座『人間合格』紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA (7/7)
③『殺意(ストリップショウ)』(7/14)
④ カムカムミニキーナ『猿女のリレー』座・高円寺1(7/8)
⑤ Dramatico-musical『BLUE RAIN』博品館劇場(7/6)

*日付は観劇日。7/1〜31 までに観た8公演から選出。

三谷幸喜の新作『大地』。これは俳優についての物語だった。これは俳優がなぜ演技をしたいかの物語だ。作・演出の三谷が仕掛けたのは壊滅的な打撃を受けていた演劇界の最中だからこそ、演技、俳優の原点に立ち戻ったのだろう。舞台上手の前方に出た黒衣が銅鑼を一撃して始まった。「さあ、再出発するぞ!」。演劇界に送るエールに聞こえた。家畜の世話をし、演技を封印された俳優たち。『ウインザーの陽気な兵隊さん』という散々な芝居を強制されると、いよいよ三谷喜劇である。思う存分、持ち味、個性を発揮させた。大物に見せる動きの模範をやる山本耕史、浅野和之のパントマイムは一人芝居のように愉快だ。役者と台本、そして観客が揃えば演劇は出来る。それを再確認した。

『大地』(Social Distancing Version) より 撮影:阿部章仁

井上ひさしの劇作は常に弱者に寄り添っている。『人間合格』もそうだ。津島修治、つまり太宰治。上京し、左翼運動に走った学生時代から描かれる。国元からの仕送り、その己の立場に悩む。そんな主人公を作者は温かく見つめ、突き放さない。多くの役を演じ分けた栗田桃子、北川理恵に敢闘賞。

こまつ座『人間合格』より 撮影:宮川舞子

殺意』は「ストリップショウ」と副題が付いた一人芝居。作・三好十郎、演出・栗山民也。美術も照明も音響も衣装も、超一流のスタッフで固めた。何と贅沢なことか。「コの字」状に舞台を囲んだ客席、中央のステージは3層の低い階段が付いている。ダンサー緑川美沙の鈴木杏が舞台女優の実力を証明した。主にブラジャーとパンティの赤い衣装で踊り、高低の声を使い分けた台詞、力強い目力で尊敬する教授の思想の転向、再転向を語る。舞台の背景に設置された大鏡に映るのがのたうつダンス場面。美沙の生きざまと重なった。

『殺意 ストリップショウ』より 撮影:細野晋司

猿女のリレー』は劇団の旗揚げ30周年の第1弾公演。作・演出の松村武、渾身の新作となった。リレーとは積み重ねてきた自分と劇団の歩み、日本人が始めた神代の時代の俳優(ワザオギ)が求めた演技。松村は出番以外は舞台の袖で皆の演技を見つめ、幕の開閉をし、椅子の移動を手伝う。偉い!

『猿女のリレー』より

BLUE RAIN』は大きなアクリル板を俳優が自在に動かしながら間隔を守る美術が思いの外、面白い効果を挙げた。オペラ歌手に負けない声量の今井清隆、伸びやかな歌声の佐賀龍彦が印象深い。

Dramatico-musical『BLUE RAIN』より 写真:岩田えり

7月は公演の延期、中止の影響で観劇したのは8本のみ。だが、コロナ禍の厳しい環境下、必死に稽古を続けて上演に漕ぎつけた俳優、スタッフに拍手を送る。全公演、演劇を愛する情熱に溢れていた。

★この人に注目!★

『キンキーブーツ』より、主人公ローラを演じる三浦春馬 撮影:キセキミチコ

今回は番外というか特別版の「この人」を書こう。

7月18日に急死した三浦春馬君だ。まだ30歳。若い。早過ぎる。若者の死は本当に悲しい。演劇の場に身を置く私としては残念至極。この一言である。ミュージカルコメディ『キンキーブーツ』は2度観た。初演の2016年は7月26日。観劇ノートには80点台の星★★と1/2(3つが満点)。再演の2019年は4月23日。星★★と評価していた。ドラァグ・クイーンのローラを演じた初演の舞台姿は良く覚えている。赤く、長い特注靴のブーツを履いて出た時の驚き。型破りの役柄そのもの、女装の彼はオーラに満ちたローラだった。大竹しのぶと共演した『地獄のオルフェウス』、大島優子との『罪と罰』。ストレートプレイにも将来性を感じた。大竹との『欲望という名の電車』のスタンレイが観たかった。追悼の意で新人特別功労賞としたい。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む