ドヴラートフ レニングラードの作家たち
20/6/17(水)
(C)2018 SAGa/ Channel One Russia/ Message Film/ Eurimages
セルゲイ・ドヴラートフは「20世紀後半のロシアで最も愛された作家のひとり」と紹介されるが、多分、よほどロシア文学に詳しい人しか知らない作家だと思う。私も、この映画を見るまで知らなかったし、翻訳でも読んだことがなかった。
映画は、この作家の生涯全体を描くのではなく、1971年のたった6日間を描く。ソ連は、スターリン死後、「雪解け」と呼ばれた自由化の時代が到来したが、長くは続かず、ブレジネフ体制のもとでの「停滞の時代」になった。自由は制限され、活気を失い、すべてがどんよりとした時代。ドヴラートフは、小説を書いても発表すらできない。その、どんづまりの日々が、実にリアルに描かれる。
当時のレニングラードにいた芸術家やジャーナリストなど、個性的な人物が登場するが、誰もが活気がない。その彼らの退屈な時間が、ストレートに描かれる。そこには静かなドラマがあるだけで、退屈な日々をそのまま描くから、当然、退屈になる。
いろいろな事件が起きるが劇的には描かれない。俳優たちは熱演せず、演技をまったく感じさせない。演出しているように見せない演出なのだ。
まるで身近な人がたまたま撮っていた映像を編集したかのような、究極のリアリズム。映画的な加工を感じさせない。
だが、いわゆる劇映画に見えないようするために、どれだけ周到にシナリオが書かれ、丁寧な美術と衣装で完璧に当時を再現し、視線を感じさせないカメラワークを駆使していることか。
説明が難しいのだが、この退屈さがだんだん面白くなっていく、不思議な映画である。
新着エッセイ
新着クリエイター人生
水先案内