Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

サカナクションは、80年代カルチャーをどう消化した? 「モス」に潜む“コミカルさ”と“シリアスさ”

リアルサウンド

19/8/23(金) 19:00

 サカナクションの「モス」は、このバンド流のミクスチャー感覚が表れた、優れた楽曲である。

 「モス」について山口一郎は、TOKYO FMのレギュラー番組でこう語っている。

「この曲は、サカナクションの中でも“浅瀬”というかね。一番外側に向けて発信する曲として作り始めたんですけど、コンセプトとしては、C-C-Bと、Talking HeadsとUKインディ……Klaxonsとか、Bloc Partyですね。僕らの時代の青春ですよ。そういうバンドをグっと混ぜ合わせたら、どういうモノになるかと実験的に作っていった曲だったんですね。でも最初は、C-C-BとTalking Headsと山本リンダだったの(笑)。でも、頭の『ジャジャ、ジャジャ♪』というところは、結構な山本リンダ(「狙いうち」)感が出ちゃった(笑)」

TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK! UNIVERSITY サカナLOCKS!』6月14日放送分

 この言葉から「モス」について考察してみよう。

サカナクション / モス

 まず途中から表れたという「山本リンダ感」は、イントロ部分でダイナミックにくり返されるフレーズを指している。サカナクションにはポップなリフレインを持つ曲が多いが、この曲のそれはひときわ大胆で、インパクトが強い。そして山本の代表的なヒットソング「狙いうち」は、〈ウララ ウララ ウラウラで〉と続く歌メロが強烈な曲として知られており、そこまでを導くイントロ部分も破壊力が強い。1973年のリリース曲だ。

 続いて、もともとのベースにあったというC-C-Bは、80年代に日本のヒットチャートをにぎわせたポップバンド。「彼らといえばこれ」的な「Romanticが止まらない」(1985年)との共通項を探ると、これも「モス」のイントロか。それに加え、ファルセットが混じる合いの手のようなコーラス(〈ソウゾウデキズニ〉〈ソウイウフンイキ〉等の箇所)にも通じるものを感じる。

 それからTalking Headsは70年代にニューヨークで結成され、90年代まで活躍したアートスクール出身の知性派バンド。アフロビートを解釈した傑作『Remain In Light』収録の「Once In A Lifetime」(1980年)あたりの、躍動するリズムに乗って執拗にくり返されるフレーズは、直接的ではないにせよ、「モス」の持っている要素と遠くはない。

Talking Heads – Once in a Lifetime (Official Video)

 さらに山口はKlaxonsとBloc Partyの名も挙げている。いずれも2000年代の半ばから後半にかけて目覚ましい活躍をしたUKバンド。2組とも性急なビート感や鋭いギターサウンドを特徴に持っている。

Klaxons – Gravitys Rainbow (Official Video)
Bloc Party – Helicopter

 と、ここまでは山口の種明かし的な話を元にしたが……80年代に青春を送った僕からすると、「モス」のあのフレーズはQUEENの「Back Chat」(1982年)を彷彿させる(ついでに書くと、それに寄せたと思われる田原俊彦「シャワーな気分」(1983年)も)。

Queen – Back Chat (Official Video)

 また「モス」は、2コーラス目以降に主メロ部分にサイケデリックな浮遊感やクラップ音が響く場面も訪れる。こうした広がりを持つ、スケールの大きな楽曲なのだ。ここには、山口とサカナクションなりのハイブリッドな感覚が表れている。

ヨットロックのブームと通底する「忘れられないの」

 この「モス」は、同じく6月19日にリリースされたニューアルバム『834.194』に収録され、リカットされたシングルではカップリングとなった「忘れられないの」とともに「1980年代の音楽・カルチャーに大きく影響を受けて」いるとされている。この「忘れられないの」もまた、MVともども、話題を呼んだ曲だ。

 山口はこの曲でAORやシティポップを標榜したことを明かしており、まさにそんなサウンドに仕上がっている。MVが公開されると、80年代にオメガトライブ~ソロでヒットを連発した杉山清貴が盛んに引き合いに出された。海外との連関をたどるなら、今のヨットロックのブームと通底するアプローチと捉えることができそうだ。

サカナクション / 忘れられないの

 なお、「忘れられないの」のMVの最後のあたりで登場する嶋田久作の巨大なスーツは、先ほどのTalking Headsが残した名作映画『ストップ・メイキング・センス』(1984年作/監督:ジョナサン・デミ)でのデヴィッド・バーンを意識したものだろう。

Stop Making Sense – Official Trailer

サカナクションのおける「80年代」とは

 さて、サカナクションにおいて「80年代」というキーワードは数年前から挙がっていた。現在のこのバンドを確立させた「新宝島」は2015年、そして「多分、風。」は翌2016年の発表。どちらも80年代カルチャーの影響を強く感じさせる曲だ。6年ぶりとなったアルバム『834.194』は、こうした流れも包括した作品になっている。

サカナクション / 新宝島 -New Album「834.194」(6/19 release)-
サカナクション / 多分、風。 -New Album「834.194」(6/19 release)-

 とはいえ、ここまで関係した作品の発表年を併記してきたことで気づく方も多いと思うが、着想の源になっているのはすべてが80年代の楽曲というわけではない。年代もジャンルも、さまざまだ。ただ、それらは、1980年生まれの山口がここまで生きてきたなかで接した音楽の原風景や体験に、確実にあるものなのだろう。言うなれば山口をはじめ、サカナクションのメンバーたちが通過し、体験してきた音楽が消化/昇華され、その結果、このバンド流の表現文体が生み出されていると考えられる。

80年代への意識~リバイバルは海外シーンでも

 ところで80年代への意識~リバイバルは、サカナクションに限らず、近年の世界的な動きでもあった。わかりやすいところではテイラー・スウィフトの「Shake It Off」。2014年発表のこの曲は、80年代末頃の音楽の影響を受けたことが公言されたアルバム『1989』に収録されている。

Taylor Swift – Shake It Off

 また、ベテランのパワーポップバンドのWeezerはこの頃a-haの「Take On Me」やTOTOの「Africa」をカバーしており、先日の『SUMMER SONIC 2019』でもパフォーマンスしていたほどだ。

Taylor Swift – Shake It Off

 こんなふうに80年代リバイバルは特別な事象ではない。あえて言えば、80年代に限らず、ポップミュージックが懐古されながらも新しい世代にも親しまれていくことは現代の音楽シーンのひとつの側面になっている。

 ただ、海外で80年代の音楽が振り返られる際は、ポップスやロックのスタンダード/定番としての良さや楽しさが評価されている感が強いのに対し、日本では多くの場合、どことなくユーモラスで、笑いの要素が含まれているように感じる。大人世代であれば「あったね、こういうの!」と、笑いながら接するような。若い世代なら「なに、このファッション?」と驚くような。

 一昨年、荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」が大阪府立登美丘高校のダンス部によってリバイバルヒットした要因のひとつは、彼女たちが80年代のファッションを再現していたのも大きかった。バブルに向かっていった時代の、気恥ずかしくなるようなブランド服のコスプレだ(ちなみに80年代にはあそこまでのスピード感やキレの良さを持つダンスはなかった。やはり2010年代的な解釈である)。

サカナクションの楽曲にある“コミカルさ”と“シリアスさ”

 80年代を意識したサカナクションの一連のMVにもコミカルな要素はある。山口の衣裳やメンバーの動きに笑ってしまったファンも多いだろう。しかし大切なポイントは、楽曲に潜むテーマはあくまでシリアスであるという点だ。「モス」においても、それは同様である。

「この曲には、もともと「マイノリティ」という仮タイトルが付いていたんです。歌詞の中にも「マイノリティ」って言葉が出てくるんですけど、結構この言葉ってセンシティブじゃないですか。性的マイノリティや民族的マイノリティも含まれるから。でも、僕が言いたかったのは、みんなが好きと言うものを好きと言いたくない……自分の中に本当に好きなものがあるっていう、それを選ぶっていう性質のマイノリティだったんだけど。でもそれを「マイノリティ」というタイトルにしちゃうと全部含んでしまうので、違った表現ということで「モス」……虫の蛾ですね。それをタイトルにして完成させた曲です」(山口)

TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK! UNIVERSITY サカナLOCKS!』6月14日放送分

 「モス」のMVは非常にコンセプチュアルだ。映像は繭と、それを割って外に出ていこうとする山口を淡々と映すばかり。最後に彼と見つめあうのは、男性でありながら性別を超えた美貌を持つ16歳のモデル、井手上漠。ここにもメッセージ的なものを感じる。そしてそのシリアスな視点は、確実にこの2019年のものである。

 この「モス」は8月23日放送の『ミュージックステーション』で披露されるとのこと。どんなパフォーマンスが展開されるのか? それはコンセプト的なものなのか? 楽しみに待ちたい。

(文=青木優)

アプリで読む