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『ONE PIECE』『ヒロアカ』『キングダム』……映画ヒットの裏に原作者の監修あり?

リアルサウンド

19/8/17(土) 12:00

 劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』が夏休みの映画館を賑わせている。2019年に公開された数多くの人気シリーズなどを抑え初日動員数は今年1位のスマッシュヒットを記録しており、最終的な興行収入もシリーズ最高を更新する勢いだ。近年の『ONE PIECE』の劇場版作品は評価も高く、見応えがある作品が続いている。この高評価の一端を担っているのは、原作者の尾田栄一郎が監修や総合プロデューサーとして作品制作で大きな存在感を発揮していることが大きいだろう。今回は、批判されがちな漫画原作映画に対して、原作者がどのようなアプローチをして映画をより面白いものにするために尽力しているのか注目していきたい。

参考:劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』特集 3本のインタビューからその魅力に迫る

 漫画原作の映画の場合、多くのファンが気にしがちなのは原作にどれだけ忠実に再現するのか? という問題だ。原作のファンとしては魅力を一切損なうことなくそのまま映像化することを望む声をあげてしまいがちだが、漫画で最適な表現となっている原作に対して2時間前後の映画で物語の流れを完全に再現したり、魅力をそのまま詰め込むことは難しい。そのため物語の一部を削ってしまったり、原作を知らない方向けに過剰に説明することによって魅力を損なってしまうこともある。

 『ONE PIECE』も原作との整合性という問題を抱えている。尾田栄一郎が総合演出などの制作スタッフとして名を連ねた『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』以降の敵キャラクターに注目してみても、海賊王ゴールドロジャーのライバルだった金獅子のシキ、元海軍大将のゼットなどの当時のルフィでは到底太刀打ちできないと思われるほどの大物が相手であり、原作にも重大な影響を及ぼすであろう設定でもあるキャラクター達であった。また『ONE PIECE』は海賊の物語であり『ONE PIECR FILM Z』のように、敵である海軍をメインとして物語を構築することはファンの反感を買う可能性もある。

 本来は映画版というのはあくまでもスピンオフであり、原作しか読んでいないファンも大勢いるであろうことから、本筋の物語に大きな影響を与えないことが求められる。『ONE PIECE STAMPEDE』で登場するお宝は、原作にも大きな影響を与えるものではあるが、その扱い方なども含め今後の展開に支障をきたさずに終えるものだった。『ONE PIECE』の映画の場合は原作の世界観や展開に影響を与えかねないほどの重要な設定やキャラクターを惜しげもなく使っており、またお馴染みの麦わらの一味以外に焦点を当てても高い支持を得ているのも、原作者が主要な制作スタッフとして参加していることが大きいだろう。

 ただしあくまでもスピンオフのような扱いのために今作の『ONE PIECE STAMPEDE』も原作の流れや設定を考えると、違和感がどうしても生まれてしまう。海賊万博に参加するために多くの海賊や海軍が集まったという設定であるが、麦わらの一味が全員揃っており今作に登場する海賊や海軍が自由に動き回れる時期は原作のどの時期を考えても存在しないように思われる。

 近年は映画化の際に原作者が重要な制作スタッフとして参加する例が増えているが、その中でも特筆したいのが同じく『週刊少年ジャンプ』にて連載中の『僕のヒーローアカデミア THE MOVE ~2人の英雄~』だ。原作者の堀越耕平が総監修、キャラクターデザインなどを担当しているが、主人公であるデクと、師匠にあたるオールマイトが共闘するという物語は今の原作では絶対にできない展開だった。このように”原作ではできなかった物語”を改めて映画で示すことにより、原作ファンにも高い満足度を与えている。

 原作者が作品制作に関わり成功した例は実写邦画にもあるが、2019年公開では『キングダム』を特筆したい。原作者の原泰久はまず原作ファンに納得してもらうためにも、映画制作にあたり自ら初期の段階から積極的に参加し脚本制作に関与していると明かしている。時には映画制作にあたり時間内に収めるために重要人物である王騎を出さないという提案をするなど、原作者だからこそできる、大胆なシナリオの変更も相談したという。また中国へのロケも同行し、各種インタビューなどに積極的に答えていくことで原作者という枠組みを超えて主要スタッフの一員として活躍し、結果的に高い評価と興行収入を記録した。

 実写映画の『空母いぶき』も興味深い。原作では、中国が尖閣諸島に上陸するという設定だが、実写映画化の際に国籍不明の軍隊から攻撃を受けるという設定に変更されている。この変更に対して激しい賛否が巻き起こったものの、自衛隊の行動はどこの国の軍隊が相手でも変わらずに国民を守ることを第一とするというメッセージが強く打ち出されており、原作とは違う新たな展開を原作者が提示した興味深い一例になっている。

 全ての作品において原作者の意向が取り入れられればそれに越したことはないのであろうが、必ずしもそうはいかない。あくまでも漫画家の仕事は漫画を描くことであり、自分の作品とはいえ映画化などは専門の監督やアニメーターに任せなければいけない場面も多いだろう。その中でも多くのファンを楽しませながらも、普段作品に触れない新規のお客さんを巻き込みながら魅力的な物語を作り上げる、原作者とスタッフの緻密なやり取りにより生まれた傑作たちをぜひ劇場で楽しんでほしい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。

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