Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

和田彩花の「アートに夢中!」

STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ

毎月連載

第46回

現在、森美術館(東京・六本木)で開催中の『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』(2021年1月3日まで)。戦後の高度成長期、オリンピックや万国博覧会といった国家規模のイベントが続き、国際化が推進された日本。その間、現代美術の世界でも、脱植民地主義、多文化主義などさまざまな議論が重ねられ、ビエンナーレやアートフェアなど新たな作品発表の場が拡がった。同展は、この間に日本という枠を超えて広く国際的に活躍し、今日、多様な地域や世代から高い評価を得ている6名のアーティスト(草間彌生、杉本博司、宮島達男、村上隆、奈良美智、李禹煥)を選出し、その活動の軌跡を初期作品と最新作をつなぐかたちで紹介するもの。現代美術のスター作家が揃ったこの展覧会を、和田さんはどう見たのか。

それぞれの個展が連なるように
ガラリと変わる展示空間

とにかく贅沢な展覧会です! 日本の現代美術を代表する6名の作家の作品を、しかもその初期作品と最新作とを並べてみせるというのもおもしろいですし、それぞれの作家の個展のように、各作家ごとに展示空間の作り方や作品の見せ方がガラリと変わっていって、すごいなと思いながら展覧会を見ていきました。

奈良美智さんが描く少女たちとの対峙

展示風景:奈良美智《Miss Moonlight》 2020年 アクリル絵具、キャンバス 220×195cm

今回の展覧会を通して、一番心を惹かれたのが、奈良美智さんの作品です。実は私、奈良さんの実物の作品ときちんと向き合って見たのが初めてだったんです。もちろんこれまでにも、例えば『THE ドラえもん展 TOKYO 2017』などで作品を目にしたことはあったのですが。今回じっくりと見るまで、奈良さんの作品には、絵画というより、色も柔らかく、キャラクター的、イラストレーション的というイメージを持っていました。それに奈良さんの作品の代名詞でもある、こちらを直視するような鋭い眼差しと怒ったような表情の少女たちに、ちょっと関心を持ちづらかったんです。でも今回の展示空間の中で、そんな少女たちとじっくりと対面してみて、一気にその虜になってしまいました。

少女たちはただ睨んだり、不機嫌だったりするわけじゃなくて、もっと奥深くにいろんなものを秘めているんだろうなって、やっとわかったからです。ただ表面的なイメージだけをこれまで受け取っていたけど、そこには奈良さんのその時々の心情なんかが反映されていると思うんです。そういうふうに作家と少女をリンクさせて作品を見てみるのも面白いんじゃないかな、と思いました。

奈良美智 展示風景
展示風景:奈良美智《Voyage of the Moon (Resting Moon) / Voyage of the Moon》2006年
部屋の中には、レコード、CD、ぬいぐるみ、人形、小物、書籍などが並んでいる

それとこの大きな小屋も素晴らしかったんです! この小屋の中には、椅子に座っている女の子がいるんですが、その子が見つめる空間には、奈良さんの存在を感じられるさまざまなアイテムが所狭しと並んでいます。そういった奈良さんのある種の断片が、この小さな家の中に置かれることによって、一つの世界が出来上がっています。そしてそれを女の子の目を通して追体験させてもらえました。

そのほかにも奈良さんの会場には、奈良さん本人の多様なコレクションなども展示されていて、奈良美智さんという人がどんな人なのか、ということを知ることができたのも貴重な体験でした。

李禹煥さんや宮島達男さんの
静謐な展示空間

李禹煥 展示風景

会場の作りがすごいといえば、李さんの会場は床には砂利が敷き詰められ、空間そのものがすべて作品になっていました。

正直、李さんもこれまであまり触れてこなかったし、作品をあまり理解できていなかったんです。でも今回、この6名で展示されることによって、その個性が際立ち、めちゃくちゃ面白いなって思いました。とにかく誰よりもシンプルだし、ミニマルな感じがすごくよかったです。

李禹煥 展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

特に私が好きだったのが、奥に飾られた絵画作品《対話》。描かれているのは、左右ともに色のグラデーションなんですが、それがこのタイトルをとてもよく表しているなと思いました。それはどういうことかというと、このグラデーションは人や、会話、コミュニケーションなどについてを表していると思うんです。コロナ禍にあって、特に最近議論になることが多いコミュニケーションの問題とか、そういうこととすごく合致しているというか、まさしく「いま」を示した作品なんじゃないかなって。

いまって「対話」の形も大きく変わってきていますよね。対面する機会が少なくなって、オンライン上や、SNSなどでの文字だけの対話が増えてきていたり。そんないまだからこそ、人にも環境にもいろんなグラデーションがあるということを理解するべきじゃないかな、ということを思わされました。

宮島達男 展示風景 《「時の海—東北」プロジェクト(2020 東京)》

あと、宮島さんの最新作《時の海―東北》も圧巻でした。これは2017年からは、東日本大震災犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、最終的に3,000個のLEDカウンターを東北地方に恒久設置することを目指した作品ですが、実はこれ、下に水が張られているんです。なかなか美術館で、しかも森美術館という高層の美術館で水を大量に使用する展示というのは簡単なことではないと思うのですが、作家の意図に合わせて展示させてくれる、というもの素晴らしいことだなと思いました。

既存の作品の視点を変えた
杉本博司さんの写真作品

杉本博司 展示風景

杉本さんの《Revolution》シリーズも大好きでした。作品自体とてもシンプルで、削ぎ落とされた感じが自分の好みに合っているんだと思います。

このシリーズは、海と空が水平線でちょうど分割された《海景》シリーズを90度回転させたものなんだそうです。回転させることによって、水平線は地球の輪郭線となり、海を撮影しているのに、それはまるで宇宙を撮影しているような、宇宙飛行士が見ているような風景になるんだとか。でも私は最初、《海景》と思って見ていたので、首を90度曲げて見ていました(笑)。

実際、どうしてそれが宇宙とつながるのか、私にはまだいまいちわからなかったんですが、でも作品を見ていると、空間がどんどん広がっていく感じや、何かとつながっていく、果てしない感じはすごくしましたね。

いままで《海景》として発表されていた作品が、90度回転させるだけで違う作品になり、違う意味を持つ。でもなかなか作家って、一度完成とした作品を縦にしたり横にしたりと変容させることってできないと思うんです。もともとある作品を、視点を変えて別のものにするというその行為もさすが杉本さんだなって思いました。

共通していること、異なること

私にとってこの6名はあまりにビッグネームな方たちばかりで、これまでなんとなく目に、耳に入ってきて知っている気になっているという感じでした。でもこうやって6名の作家が並んだことによって、それぞれ芸術の方向性も、表現の仕方も全然違うことがよくわかりました。みんな突き進んでいる方向が違うんですよね。

でも一方で、テーマにしていることは、どこか根底で共通しているんじゃないかなっていうことも思ったんです。あれだけ表現方法が違うにもかかわらず、「永遠性」や「時間」など共通するテーマも浮かびあがってくるんですよね。

例えば宮島さんは「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、1980年代半ばからLEDを用いて1から9までの数字が変化するデジタルカウンターを使ったインスタレーションや立体作品を中心に制作していて、0(ゼロ)は表示されずLEDは暗転するんですが、これは死を意味していて、生と死が繰り返されることを表現しているそうです。それに杉本さんは、今回展示はありませんでしたが、《劇場》というシリーズで映画が上映されている間中、シャッターを開き続け、その「時間」を閉じ込めた作品を制作しています。それに《Revolution》のもととなった《海景》も、古代人が見ていた風景を、現代人も見ることは可能なのか、という問いから始まっているそうですから、やはり時間や永遠性と関わっているんじゃないかなって。

皆さんはこの6名の作品から何を感じ取るのでしょうか。トップランナーたちは現代美術の中でどういう役割を果たしてきたのか、成功ってなんなのか、世界で有名になるということはどういうことなのか。各アーティストのこれまでの展覧会に関する資料や、1950年以降に海外で開催された日本の現代美術展を紹介するコーナーもあるので、そういったことも教えてくれる展覧会だと思います。こんなに豪華な展覧会が開催されることはなかなかないと思うので、日本の現代美術を代表するスーパースターたちの作品をぜひ見に行ってほしいですね。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

アプリで読む