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EMPiREが提示する、一歩進んだ“ダンスミュージック”と“歌モノ” 最新EPから新しい価値観=SUPER COOLを徹底解説

リアルサウンド

20/7/24(金) 12:00

 EMPiREが8月5日にリリースする『SUPER COOL EP』は精悍で貫禄と余裕に満ち溢れた、まさにそのタイトルが表す通りの“SUPER COOL”な作品だ。さらなる音楽性の広がりを見せているものの、これまで以上に統一感と芯の通ったものを感じられるのは、より強固になったグループに対する自負と各メンバーの自信が歌に表れているからだろう。昨年末、インフルエンザに伏したMAYU EMPiRE不在の『EMPiRE’S GREAT ESCAPE TOUR』ツアーファイナル、そこからのリベンジへの駆け上がり方は圧巻だった(参照:EMPiREが6人で果たした“リベンジ” MAYU EMPiREの歌声轟いた念願のZepp DiverCity公演レポ )。あのときに大きく感じた可能性と強さは、このアルバムにしっかりと落とし込まれている。

EMPiRE / This is EMPiRE SOUNDS [OFFiCiAL ViDEO]

 唸るブラスサウンドとディストーションギターが荒々しく放出される音の波に乗せ、「これぞEMPiREサウンド」と声高らかに歌う、ド派手なオープニングナンバー「This is EMPiRE SOUNDS」で本作は幕を開ける。これまでもグループ名の入った楽曲は要所要所で作られてきたわけだが、〈今は待つだけ きっかけが欲しいのです〉(「EMPiRE is COMiNG」2018年)〈完全にオリジナル作りたい〉「EMPiRE originals」2018年)と、もがいていた彼女たちが〈今見せましょう〉〈ぶちかましましょう〉と誇らしげに歌っているのだから感慨深い。続く「SUPER FEELiNG GOOD」は無国籍感漂うEMPiREニューウェーヴの真骨頂。どこかつかみどころのないメロディが、刻まれるビートの中をすり抜けていく浮遊感。ドロップの図太いリズムの間を自由闊達に行き来する合いの手がこの楽曲の一筋縄でいかない様を色濃くしている。〈Oh yeah〉〈Itʼs FiNE〉とぬるっと滑らかに潜り抜けるMAHO EMPiREとNOW EMPiRE、妖しく艶めかしく動くMAYU EMPiREとYU-Ki EMPiRE、各々のキャラクターの対比も聴きどころだ。

EMPiRE / SUPER FEELiNG GOOD [EMPiRE’S GREAT PARTY EXCEPTiON -SUPER COOL EGP-]

 「Clumsy」はライブで盛り上がる光景が目に浮かぶアッパーなロックチューン。MAHOとMiDORiKO EMPiREの共作詞だが、〈どうでもいいや どうにかなるさ〉のなだらかな語感が印象的なサビと、〈とりま〉〈嘔吐〉という突飛な言葉選びが飛び出す平歌を聴けば、それをどちらが担当したのかすぐにわかるほど、個性のあらわれた詞が絶妙なコントラストを生み出している。加えて、メロディとリズム、符割りと言葉の置き方が特徴的な曲でもあり、ノリの良いバンドアンサンブルのテンポ感ともに歯切れ良い言葉のアクセントが小気味よく響く。それでいて熱くなり過ぎずにどこか落ちつきのあるボーカルスタイルからは毅然とした強さが漲っている。間奏とアウトロで伸びやかな声に重なっていく素っ頓狂なリングモジュレーターの掛かったギターがアーシーな雰囲気を醸し出し、強烈にこの楽曲の存在感を色濃く印象付ける。

 メンバーの個性がよくあらわれている作詞曲といえば、MAYUとMAHO、それぞれが手掛けた「I don’t cry anymore」と「I have to go」は大きな聴きどころ。2曲ともに女性ならではの心持ちを表している歌だが、まったく違う感性で書かれており、両楽曲の異なる方向性と合わせて今作の多面性を象徴する部分である。「I don’t cry anymore」の作曲者oniとMAYUのタッグは過去にも「ERASER HEAD」「maybe blue」といった曲で、内向的な気持ちとダークサウンドによる抜群の相性を見せながら変化球を投げてきた。しかし、この「I don’t cry anymore」ではやり場のない気持ちと慟哭性のあるメロディがストレートに胸を抉ってくる。

EMPiRE / I have to go [LYRiC ViDEO]

 片や「I have to go」は打って変わって、ハネたリズムが印象的なガーリーポップ。ピアノとワウギターの絡みによる軽快なバンドサウンドに乗せて、MAHOのはにかんだような歌声がそうであるように、次々と転がっていくボーカリゼーションが心地よい。MAHOによる女の子らしい恋心を綴った歌詞は飾っていない言葉であるのに、なんだかとても綺麗な響きがするから不思議だ。そんな彼女の作家性も相まって、これまでにない耳馴染みの曲調を導き出している。

 MAYUの作詞曲がもう1曲。「Can you hear me?」は〈こんな僕でも たまに希望の歌 口ずさむんだ〉という、ボジティブに前へ進んでいく楽曲である。一人称〈僕〉と〈行かなきゃ〉というワードの組み合わせはWACKの伝統といっていいだろう。そして、歌い出しの刹那メロディといい、起伏の大きい音使いといい、昨今リバイバルしている’90s avexサウンド、どこか“平成の歌姫”を想起するのは的外れではないはず。WACKとavexの融合、それがEMPiREなのだから。

 ラストナンバー「ORDiNARY」はひんやりとした空気がまとわりついてくるサイケデリア。MAHOの甘い歌い出しから継がれていくそれぞれの歌声の面差しに、得も言われぬ恍惚感を覚える。ゆっくりとはためくオーロラのようなメロディとその空にシュプールを描いていくようなギターのトレモロがこの夢幻な世界を作り上げる。水中に沈んでいくようなギターソロも昂然としていて、現代音楽のオーケストラ風なポストロックアプローチが身体中に染み渡っていく。静寂の中で轟音が覚醒していく様がなんとも美しい曲だ。そんな侘び寂びを効かせたトラックとは裏腹に、あえて抑揚をなくしたようなボーカルはあたたかく優しくて包み込んでくれるように思えて、どこか感情が読み取れないような冷たさをも感じてしまう。MVとあわせてみれば、ラストを歌い締めるYU-Kiのこちらをすべてを見透かしたような表情にゾクッとしながら、この『SUPER COOL EP』は静かに幕を降ろす。

EMPiRE / ORDiNARY [OFFiCiAL ViDEO]

 4月よりスタートするはずだった全国ツアー『SUPER FEELiNG GOOD TOUR』は新型コロナウイルスの影響により延期、そして最終的には中止となってしまった。思うようにライブ活動ができない中でのリリースとなった今作。グループ最大規模であるファイナルのZepp Tokyo公演を含んだこのツアーが行われていれば、また違った形になっていたのだろうか。そんな疑問をavexの制作チームに投げたところ、2017年のグループの立ち上げからEMPiREの制作を担当してきたavexの篠崎純也氏より丁寧な回答を頂いた。前作リリース時の記事(参照:EMPiREが創り上げた独自性とライブの強さ avex制作スタッフの証言と共に2ndアルバムを紐解く)と同様、ここからは篠崎氏の話を元に、より深く本作を掘り下げていこう。

「これまでより1歩進んだ“ダンスミュージック”と“歌モノ”を提示する」

「『SUPER FEELiNG GOOD TOUR』はZepp Tokyo含め全公演が完売したこともあり、EMPiREが明確に次のステップに進むツアーと認識していたので、このツアーを最大限に盛り上げることを考えていました。当初の計画ではツアー初日に、ツアーと同名タイトルの「SUPER FEELiNG GOOD」をサプライズ披露→デジタルリリースとYouTube公開、ツアーを進めながらポイントでセットリストに新曲を順次追加、ファイナルのZeppと同日の6月10日にこの『SUPER COOL EP』をリリースする予定でした」

 EMPiREは、“アルバムを提げたツアー”という一般的な手法を取らず、新曲発表とツアーを絶妙に絡めていく斬新なリリースパターンを得意としている。今作でもそうした青写真が描かれていたようだ。しかしながら、情勢的にそうしたわけにはいかぬままのリリースとなってしまった。予期せぬ事態に陥ったわけだが、作品のテーマやコンセプトに影響はあったのだろうか。

「前作『the GREAT JOURNEY ALBUM』で目指したEMPiREなりのダンスミュージックやライブでの強さを進化させること、そしてメンバーの歌唱力や表現力、作詞力が成長したことにより、これまでより1歩進んだ“ダンスミュージック”と“歌モノ”を提示するというテーマが最初からありました。そこは変更していません。ただ、延期になってもツアーは実施できると思っていたので、発売日や新曲の公開タイミングだけ後ろにスライドしました」

多幸感を放つロックと大きな成長を見せたボーカル

 EMPiREの楽曲はエレクトロサウンドが軸となっているが、要所要所に入ってくるバンドサウンドがフックとなっている。割合は多くないが、ロックナンバーも作品やライブにおける起爆剤となっており、EMPiREを構成する大きな要素だ。今作では、「Clumsy」がそれにあたる。しかし、ロック色の強いWACKの中で、BiSHやBiSとは明らかに違う、EMPiREならではのロックの解釈があると思うのだが、どうだろう。

「EMPiREの基軸はあくまでダンスチューンで、ロックを取り入れる場合、例えばBiSHのように感情のすべてを裸でぶつけてくるような方法論ではなく、今作の「Clumsy」、過去曲でいえば「S.O.S」のような多幸感を放つようなロックを作りたいと思って取り組んでいます。松隈(ケンタ/SCRAMBLES、EMPiREサウンドプロデューサー)さんとは、ロック調の曲でも鍵盤やシンセ、キラキラしたループなどを入れていく話をすることが多いです。「This is EMPiRE SOUNDS」や前作のリードトラック「Have it my way」などはロック要素を取り入れたダンスミュージック、という認識です」

 さらに音楽性をみれば、跳ねたピアノとギターが躍動するドライな「I have to go」、ドリームポップやフォークトロニカといったウェットなポストロック「ORDiNARY」といった、これまでになかったバンドサウンドをプッシュしたナンバーが印象的である。こうした音楽性の拡げ方は意図的なものなのだろうか? それともメンバー、グループの成長に触発されたものなのだろうか?

「そのどちらもに起因すると思います。前回の記事でもお話しさせて頂いた「EMPiREの独自性」はメンバー、チームとしてずっと共有されている指針で、「ORDiNARY」はドラマチックにエモーショナルに歌い上げるのではなく、静かで優しく包まれるような楽曲を目指して制作されました。「I have to go」は、1stアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!!』に収録されている「Don’t tell me why」や「TOKYO MOONLiGHT」のような横ノリのグルーヴの楽曲で、EMPiREの初期からの武器だと思います。WACKにはあまりないラブソングコンセプトで作られたMAHOの歌詞と、SCRAMBLESとしては音数が少なく、1つ1つの楽器やメンバーの歌が良く聴こえてくる空気感がチーム内でもとても人気の高い曲です。作曲のSCRAMBLES・宮﨑吾郎さんは今ライブで使用しているSEや、「SUCCESS STORY」のトラックデザインなども担当してくださっています」

 「I have to go」「ORDiNARY」は対照的な方向性であり、ボーカルグループとしての新たな側面を見せてくれた。篠崎氏の言う「これまでより1歩進んだ“歌モノ”」はこの2曲にとどまらず、全曲を通して充分に感じられる。それは冒頭で述べたように、グループに対する自負と各メンバーの自信が歌に如実に現れているからだ。

 MAHOの、滑舌はゆるいのに耳にスッと言葉が届く豊潤で奥ゆかしい歌声。普通に考えればクセの強いスタイルであるのに愛くるしさを感じてしまう、魅力的な声だ。その表現力はここに来てさらなる飛躍を見せるほどに青天井である。MAYUの歌はより鋭く、YU-Kiは安定感と表情が増え、NOWは格段に声量が増した。MiDORiKOはよく通る発声になり、すっかりイケメンキャラを確立したMiKiNA EMPiREのハンサムボーカルの存在感は増すばかり。各メンバーのボーカル力は明らかに上がっている。

「メンバーの歌に関して、今作で大きな成長が見せられたと思います。これは、MiKiNAの低音ハモやMAHOのブレッシーな歌い方など、よりメンバーの魅力を引き出すように計算された松隈さんのディレクションと、NOWが加入して現体制になった昨年の活動や前回のツアー『EMPiRE’S GREAT ESCAPE TOUR』を通してメンバーが手に入れた自信が大きいと思っています」

EMPiREが掲げる新しい価値観

 アルバムと同様に大きなファクターを占めているのが<初回生産限定盤>と<DVD盤>に収めらている『EMPiRE’S GREAT PARTY EXCEPTiON -SUPER COOL EGP-』だ。この『EMPiRE’S GREAT PARTY』(以下“EGP”)とは、昨年より通常のライブとは別枠で開催されているクラブイベントである。Vol.0は東京・渋谷WOMB、Vol.1は大阪・梅田のOWL OSAKAで行われた。VJとライティング、音響システムを駆使したクラブならではの演出を盛り込んだこのEGPは、EMPiREというグループを象徴するような存在である。今作に収録されているのは、このイベントの無観客EGPだ。全15曲、60分強のボリュームは見所も多く、最新鋭のEMPiREを体感できる内容になっている。ライブビデオともMVとも違うテイストで、ひとつの作品といっていいだろう。

 東京で行われたEGP、そして本映像を観て、個人的には「EMPiREは“魅せていく”グループである」という主張を受け取った。「歌がうまい、ダンスがうまい、ライブパフォーマンスがすごい」といったありきたりのものではなく、グループとしてのトータルビジュアルイメージを強く打ち出していく、いわば、シルエットや立ち姿だけで魅了していくような、そんな説得力を強く感じるのだ。

「楽曲、ダンス、ライブパフォーマンスや演出を含め、トータルでEMPiREらしいエンターテインメントを届けられる、そんなグループを目指しています。EMPiREの振付に横イチのフォーメーションが多いことも、立ち姿で魅せるような狙いがあるのです」

 『EMPiRE’S GREAT PARTY』は、本来であれば今春のツアーの合間にも開催していく予定だったという。映像の中でMAYUはEGPについて「新しい価値観」という表現を用いている。通常のライブとは異なる魅力を持ったこの『EGP』で、EMPiREはグループのさらなる独自性と新たな価値観を打ち立てようとしている。

 日本のアイドルグループは、“Cute”や“Pretty”では表現できない“Kawaii”を海外に発信した。韓国のガールズグループは近年、既存の欧米スタイルである“Sexy”とは異なる新機軸、“女性が憧れる女性=Girl Crush(ガールクラッシュ)”を打ち立てた。EMPiREがいま打ち立てようとする独自性と価値観、それこそがまさに“SUPER COOL”なのだろう。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

■配信情報
EMPiRE
『SUPER COOL EP』
7月24日(金)EP全曲先行配信
配信リンク

■リリース情報
EMPiRE
『SUPER COOL EP』
8月5日(水)発売
CD購入はこちら

<形態>
【初回生産限定盤】BOX仕様 / PHOTOBOOK CASSETTE TAPE + Blu-ray Disc
¥9,091(+税)
【DVD盤】CD+DVD
¥4,500(+税)
【CD盤】
¥2,000(+税)

<収録内容>
<カセットテープ> ※初回生産限定盤のみ収録
-SUPER COOL EP
SiDE-A
01 This is EMPiRE SOUNDS
02 SUPER FEELiNG GOOD
03 Clumsy
04 I don’t cry anymore
SiDE-B
05 I have to go
06 Can you hear me?
07 ORDiNARY

<Blu-ray>
EMPiRE’S GREAT PARTY EXCEPTiON -SUPER COOL EGP-
01 This is EMPiRE SOUNDS
02 SUPER FEELiNG GOOD
03 WE ARE THE WORLD
04 RiGHT NOW
05 Clumsy
06 S.O.S
07 Don’t tell me why
08 maybe blue
09 I don’t cry anymore
10 I have to go
11 Have it my way
12 SO i YA
13 Can you hear me?
14 ORDiNARY
15 FOR EXAMPLE??

“the GREAT JOURNEY ALBUM” LiVE
01 Have it my way
02 WE ARE THE WORLD
03 A journey
04 きっと君と
05 NEW WORLD
06 曲がりくねった道の
07 I have a chance!!

Music Video
This is EMPiRE SOUNDS
Making Movie

<DVD>
EMPiRE’S GREAT PARTY EXCEPTiON -SUPER COOL EGP-

<CD>
-SUPER COOL EP
01 This is EMPiRE SOUNDS
02 SUPER FEELiNG GOOD
03 Clumsy
04 I don’t cry anymore
05 I have to go
06 Can you hear me?
07 ORDiNARY

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