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令和のアーティストとSNS 第4回 菅波栄純(THE BACK HORN)が伝える、SNSの真実

ナタリー

20/10/5(月) 18:00

菅波栄純(THE BACK HORN)

アーティストとファンのコミュニケーションの形を、SNSの観点から探るこの連載。第4回はTHE BACK HORNの菅波栄純(G)へのインタビューを掲載する。

菅波は今年4月に入ってから各種SNSの投稿が急増。1カ月で107本の動画をYouTubeにアップすると、その後もハイペースで動画を量産している。またInstagramやTikTokへも月に30本前後の投稿を行っているほか、MixCannel、Pinterest、ブログ、noteの更新にも注力。Twitterへの投稿は月に150本におよぶ。キャリア20年を誇る菅波は、なぜ堰を切ったようにSNSを更新し続けているのか。その理由とSNSを運用するうえでのアドバイスを聞くと、独自の視点からSNSの分析やSNSの真実を教えてくれた。

取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / 吉場正和

SNSの投稿が急増した理由

──4月以降に各種SNSの投稿が急増しましたが、なぜここまで積極的に行うようになったのでしょうか?

まず自分のスタンスから話したほうがいいと思うんですけど、根本的に俺は曲さえ作っていられたら幸せな人間なんです。もちろん他者からの承認欲求は人並みにはありますけど、究極的には曲を作って「いい曲ができた」と自分で思えたら、下手したら他者の評価がなくてもよくて。なので誰にでも当てはまる汎用性の高い話ができる自信はないですけど、それでもいいですか?

──もちろんです。

なぜSNSを頻繁に更新するようになったのかという話ですが、MixChannel以外のSNSはけっこう前からアカウント自体は持っていたんです。YouTubeはたぶん4、5年前かな。TikTokも始まったときにアカウントを作ったし、PinterestやTumblrも日本に上陸してすぐにアカウント作って、“ROMる”って言うんですけど、それぞれのSNSがどういう雰囲気なのか、そこでの投稿を見るのが好きで。民族学者の人が調査のためにいろんな集落に足を踏み入れる感覚に近いかもしれないです。ただ、自分が人生で一番やりたい作曲の時間を確保しながら、多岐にわたるSNSも更新していくことができなくて、一番投稿が気楽なTwitterだけやっていて、途中からInstagramも始めました。俺のアカウント上でパイが大きいのはTwitterとインスタなんですけど、その2つはなんとかやれた。そういうミュージシャンも多いと思います。1つ主戦場があって、もう1つサブでやっているような。俺も現実問題としてほかのSNSに時間をかけられなくて、アカウントは持ってるけど自分では投稿ができない状態が数年続きました。それが、新型コロナウイルスの影響でよくも悪くも大きな時間が与えられたので、今の形まで持ってこれたんですよね。

──ただ、まとまった時間ができたとしてもSNSは見るだけにしておくこともできたわけですよね。それでもここまで自分で投稿するようになったのには、何か理由があるのかなと思うのですが。

今話したのは俺が根本的にSNSに興味があるという話で、説明するにはあと2つ要素があります。1つは自分が20代中盤で精神的にめちゃめちゃ落ちたときがあって、回復できたのはメンバーやスタッフ、ファンの皆さんとか、周りの力がものすごく大きかったんですけど、そのときに時間管理とかタスク管理の勉強を始めたんですよ。当時自分が絶望していたことって、なんかモヤがかかってる気がして。

──漠然とした将来への不安のような?

そうです、漠然とした絶望。もしかしたらこれは自分のタスクを小分けにしていったら明確化されるんじゃないか、それが絶望と戦う唯一の方法なんじゃないかと思って。そのときに作ったタスク管理システムがあって、今でも使ってるんです。そう言うとロックミュージシャンのイメージと合わないと思われるかもしれないですけど、自分のクリエイティブな時間を確保するためにとても重要なことで。先のことを不安がって何も手に付かずクリエイティブな時間を浪費するくらいなら、タスク管理でもなんでもやってその時間を確保する。それが俺にとっては生きるための戦いなんです。

──例えば1日の中でここからここまでの時間は作曲に充てる、みたいな?

はい、どれだけ忙しい日でも1日の中で確実に音楽に没頭する時間をキープするということです。曲作りは筋トレに近いところがあって、3日やらないだけでものすごく弱るんです。プロ野球選手が練習しないとバットのスイングのスピードが落ちるのと同じで、毎日やらなきゃいけなくて。あと俺はギタリストなので毎日ギターの練習をする時間をキープする。もう1つ、音楽を聴く時間も必要。音楽を聴くインプットの時間、作曲するアウトプットの時間、そしてギターの練習をする時間を毎日の生活に組み込むとなると、適当だったらグチャグチャになるんです。そのうち「俺は何もできていない」って自信をなくしていくのが目に見えていて、そうならないように10年以上自分なりのシステムを使ってやっていますけど、今は成立していて。そのシステムも常にレビューして更新しているので、SNSのほうにも広げられるようになったのが今年。自粛期間中に時間があったのでシステム自体をリニューアルできたんです。

──今まで作曲、ギターの練習、リスニングに活用していたタスク管理システムにSNSの運用も組み込むことができたわけですね。

PCのOSで言ったらやっとメジャーアップデートできた感じです。この新型コロナウイルスの自粛期間がなかったら一気にできなかったので、それが今回ここまで持っていけた理由の1つです。

──では、もう1つの理由は?

俺、編集工学者の松岡正剛さんが好きなんです。松岡さんみたいに生きたいと思うくらい憧れていて。松岡さんは実に多ジャンルの本を読むんですよ。難しい概念系の本も読むし、サブカルも読む。サブカルの中でも、エロいやつもちゃんと読んで解説してくれるんです(笑)。松岡さんは「この世界はいろいろな情報の組み合わせでできていて、優劣や上下関係はない」と言っていて、俺はその考えに感銘を受けているんです。松岡さんの言うように考えれば全員が平等で、「俺はミュージシャンだからクリエイティビティがそのへんの人より上だ」みたいな、しょうもないプライドを持たなくて済むというか。俺は自分が今いる立ち位置を守りたいとはまったく思ってなくて。「20年間ロックバンドをやってきて、作曲家でギタリストで……」みたいないろんな肩書が付いていると思うんですけど、そんなものはどうでもいいと思っている。むしろ、いろんな人から見える俺のいろんなプロフィールがあって、それが重なったものが自分だと考えているから、たくさんのSNSに自分が存在していてるほうが面白いと思っているんです。

今はまだ試行錯誤の段階

──それにしても、いくらタスク管理できるようになったとはいえ、動画コンテンツはほぼすべてのSNSに投稿しているので、それだけで相当時間かかりますよね。

俺、アルゴリズムがけっこう好きなんですよ。例えばコーヒーだったら、豆を焙煎して、挽いて、淹れるという作業があるとして、「この作業と作業を入れ替えたほうが効率がいいな」とか「これをやっている間にこれをやろう」とか考えるのが好きで。それは手順なんですけど、手順を組み合わせていくとアルゴリズムになるので。投稿に関して言うと「YouTubeにこの動画をアップロードしたら、Twitterにはこの形で投稿して、TikTokは画面のサイズが違うからYouTubeの編集のときに先に画面のサイズを2つ作っておいて……」みたいなフローが俺のPC上で図になっていて、その手順を見ながら進めるだけなので慣れちゃえば実はけっこうスムーズで。

──そうなんですね。基本的に動画はどのSNSにもアップされていますが、菅波さんの中で「この動画は主にここのSNS用だな」という意識はありますか?

あります。ただ自分の中ではまだ実験段階で。川の流れを観察する感じというか、「このSNSからスタートするとこういうふうに流れていくんだ」という感じで、いろいろ試している状態です。YouTube用に作る企画とTikTok用に作る企画とでは、例えば「ギターを弾いてみた」という企画があったとしても、本来はテイストを変える必要があって。

──そうですね。

本当は全部変えたいんですけど、今はまだ試行錯誤しています。自分の時間管理の中に「企画の時間」があるので、企画を立てる段階でしっかり練り込んでおきたくて。「TikTok用の動画だから15秒で作っちゃおう」「YouTubeだったら1分くらい伸ばせるからカットを増やそう」みたいなことを事前に考えて、撮影するときにいっぺんに素材を撮って、それぞれのSNSにしっくりくる形で編集して投稿するというのが、今目指してるところです。

一番コストを支払っているのは見てるだけの人

──動画を作る上でGOサインを出す基準みたいなものはどう考えていますか?

それがけっこう面白いポイントで。ミュージシャンが「曲を作ってるだけだと広がらないからSNSをやろう」と思って始めたときに、曲の宣伝だけ投稿しても見てもらえないんですよ。みんな宣伝臭を嗅ぎ取るんだと思うんですけど、それはムードとして実際にあって。なので、ほかのことを投稿しようと考えたときに、「投稿することなんか何もないよ」と思うかもしれないんですけど、そこが考えようによっては一番面白いところで。ミュージシャンにとって最大の武器は音楽ですけど、自由に使えなかったりするんですね。

──権利の都合上で。

そう。ある意味最強の武器を封じられた状態でやることになるのがミュージシャンにとってのSNSなんです。だからミュージシャンのみんなに考えてほしいのは、自分が一番苦労せずできることをやってみてほしい。それを1つひとつ投稿してみて、ファンの反応を見てほしいんですよね。

──油淋鶏弁当を食べている動画でも全然いいわけですね(笑)。

あの動画はファンの人のリクエストでやったんですよ。油淋鶏弁当とは指定されてないですけど、「モグモグ食べてる動画が見たい」って言われて(笑)。「えー!」と思ったけど、公開してみたらけっこう人気で。ちょっと派生して話すと、SNSをやるからには、その目的は何かという話にやっぱりなるじゃないですか。結果を見て評価をしていくことになると思うので。それに関して思ってるのは、俺らミュージシャンは別にバズらなくていいんです、実は。

──そうなんですか?

俺はバズったことと曲が売れることの相関関係はかなり怪しいと思ってます。正直、あまり関係ないと思う。今から言うことは新自由主義の考えに近いんですけど、人気のある人がより人気者になってくれたほうが経済は安定するんですね。SNSでもそういう前提はあります。だけどそれだと平等感がないので、Twitterとか既存のSNSには人気のある人がより人気が出るというアルゴリズムと一緒に、表面的にみんなにチャンスがあるように見せかけるためにギャンブル性を入れてあるんです。ギャンブルは誰しも平等であると言える。それこそ毎日パチンコ屋に通っていたら1回は当たるようになってるみたいなもので。誰しもバズるチャンスはあって、だからと言ってそのバズったことに意味があるかというと、そんなにないんですよ。そういうふうにできてるから。

──人気者はさらに人気者になっていくし、そうでない人もチャンスがあるように見える。

そういうふうにできてるんです。ちなみに見てるだけの人はノーコストでやれるのかというとそんなことはなくて、実は一番コストを支払っています。なぜかと言うと、フィードを更新していく作業って、スロットマシンでレバーを引くのと同じなんですよ。次に何が出てくるかわからないまま、何かを期待して、得にもならない情報のために画面をスクロールしている。「見るのは無料だから得にならなくてもいいじゃん」って考えるとそれはSNS側の思うツボで、なんのコストを払っているかと言うと、それは時間です。スキマ時間に見てると言っても、1日10分を6回やったら60分ですよね。1時間あったら俺は1曲作れるので。SNSを見てるだけの人は時間というコストを一番消費しているんです。プレイヤーになって投稿するようになれば、投稿を作るコストは出てくるけど、その投稿を人に見てもらって承認欲求が満たされるなり、ちゃんとバックがあるので。

──今はSNSから仕事につながるケースも増えていますね。

プレイヤーはその分のリターンがあるんです。SNS側からしたら、本当は全員プレイヤーになってほしいんだと思います。俺は今ゲーム理論の本を読んでいるんですけど、例えばポーカーをやるときに、ルールをまったく守らない人が入ってきちゃったら、ゲームとして完全に崩壊しちゃうんですね。ゲーム理論を適用させるにはプレイヤー同士のリテラシーが同じじゃないと成り立たない。だからSNS側はみんながプレイヤーになって、同じ土俵に立ってもらいたいと思ってるはずです。

SNSの仕組みは頭に入れておいたほうがいい

──投稿を見てるだけの人が一番コストを支払っているという話ですが、さまざまな新しい情報が得られるというのはリターンにはならないんですか?

そこは俺の立場からは断言できないですけど、「その情報、どれくらい覚えてますか?」という話で。それと情報の正確性や深さを測るのは見てる側の人の作業になりますよね? 世の中に出るまでにいろんな人が関わってできあがる本とは違って、SNSに投稿される情報は基本的に投げっぱなしだから、もしそれが雑な文章だったら内容を翻訳するのも読む側の作業になる。俺はそれら全部がコストだと思っているので、SNSで情報を主に得るにはコストが見合わないと思うんです。

──なるほど。

ただ、これを読んでいる人に誤解されたくないんですけど、俺はSNSを否定しているわけではないです。Twitterとかが人間の本能を刺激して視聴者を集めているのを見て、俺はただ「面白い仕組みになってるな」と思ってるだけで、システム自体に別に善悪はないので。でもそういう仕組みになってることは、頭に入れておいたほうがいいと思いますね。そしてSNSは使い方が悪ければ精神的に人を追い詰めるというのも事実としてあって。THE BACK HORNの音楽はそういう心が弱った人たちのためにもあると思っているので、SNSをどんどんやっていきましょうって推奨するのはスタンスとして違うんですよね。でも俺自身はSNSが大好きという。ヤバいですよね、俺が一番わけわからない(笑)。

SNSはただの挨拶

──先ほどSNSをやる目的の話が出ましたが、菅波さんがSNSをやる目的はなんでしょう?

ちょっとそこに戻りましょうか(笑)。俺がやる目的はけっこう明確で、1つはファンと交流するためにやってます。あとは最初にお話しましたけど、いろんなSNSごとのノリを知るのが単純に好き。もう1つ、俺は何かを生み出す行為に中毒になっていて。もちろん作曲が一番なんですけど、何かを作ったらSNS上に置いておけば誰かが発見するかもしれないと思ってやっています。

──アーティストがSNSを始める場合、ファン層をより広げる方向と、すでにファンの人との関係性をさらに濃くしていく方向が考えられると思うのですが、菅波さんの場合は後者のイメージでしょうか?

いや、ちょっと違って、俺がSNSでやってるのは、毎日「おはよう」って声をかけるくらいの感覚に近いです。俺にとってTHE BACK HORNはすごく大きなプロジェクトなんですね。事務所やレコード会社がしっかり機能していて、一流のスタッフがいて、作品をリリースしたら大きい会場でライブもやらせてもらって、それを聴いてくれるファンがいる。そこで十分広くて深いファンベースがあるので、俺はSNSでファンとの関係性を濃くするということはあまり考えてないです。

──なるほど。挨拶するのに何か見返りとか期待しないですもんね。

「いつもありがとうね」とか、そういう挨拶程度の役割で十分。そういう意味ではTikTokとかMixChannelみたいに、完全にファン層も被ってなくて、下手したらTHE BACK HORNのこと知らない人がたくさんいる場所に行くのも、ただ挨拶しに行っている感覚ですね。カジュアルに「どうもはじめまして。何やってんの?」っていう感じ。俺が目をギラつかせて「新しいファンを生け捕りにしてやるぜ」みたいな感じでTikTokに入っていったらめちゃめちゃ嫌がられると思う(笑)。

──「悪い大人が来た」って警戒されそうですね(笑)。

そういう大人はすぐ見抜かれるし、そう思われたら終わりなので。楽曲提供とかしてると、自分の今までのノリとは全然違うところに行くこともあるんですよ。そういうときに「俺はけっこう大きいファンベース持ってるバンドの人間で」って入っていくのも嫌だし、逆に入って行けずにドアの前で覗き見してるような感じも嫌なんですよね。だから「どうもどうもー」って、ある意味軽々しくいろんなトライブに入っていける人間ではありたいとは思ってますね。

──そこで好奇心が刺激されて、結果的に曲作りなどにフィードバックされることもありますか?

ありますね。挨拶回りすることの一番の収穫はたぶん自分の脳みそが変わるということだと思います。入り浸っちゃダメっていうのがミソ。飲み会に一次会だけ顔を出して帰るみたいな感じですね。でも一次会のノリさえ見られれば「乾杯しないんだ」とか「肉から食べ始めるんだ」とか何かしら刺激されて、俺の人生のほぼすべてである作曲という行為において影響が出るはずなので。まあ、これだけSNSをやっていても“一次会にしか出ない人”っていうのが新種かもしれないです(笑)。

YouTubeは店を1つ出すくらいの価値がある

──菅波さんが考えるそれぞれのSNSの特徴を教えていただけますか?

いいですよ。YouTubeからいきましょうか。YouTubeはユーザーがすごく多いので、観ている人の趣味嗜好がほかのSNSと比べてフラットだと思っていたんですけど、意外とそうでもないですね。俺のチャンネルの男女比はわりと半々だけど、YouTube全体のユーザーはたぶん男性のほうが多いです。6、7割が男性と考えて投稿したほうがいいと思います。YouTubeがほかのSNSと比べて優位なのは、自分の投稿のアナリティクスがものすごく細かいところ。情報のレベルが圧倒的に違うので、YouTubeにチャンネル1つ作るのは店を1つ出すくらいのポテンシャルがありますね。YouTubeの仕組みに乗っかって運用しているうちに、一応のマーケティングの知識が身に付くと思います。ほかのSNSよりも“なんにせよやったほうがいいSNS第1位”ですね。

──YouTubeで動画をアップする際、ある程度クオリティが高くないといけない気もするのですが。

俺は試しに今年の4月に15秒の動画とか30秒の動画とか相当数上げたんですけど、思ったより観てもらえるんですよ。“バンドあるある”なんですけど、リハスタで休憩時間とかにメンバーが担当パートを入れ替えて適当に演奏している動画をアップしたらたくさん観られました。そういう意味ではカジュアルにYouTubeに上げていいと思うんですよね。最初の投稿で100万再生いくことなんてまずないので、量で攻めたほうがいい。好き放題上げても、最初は登録者数も少ないので「通知がうざい」と思われることもないし。あと著作権の問題もクリアになって、YouTube的にはどんどん弾き語りのカバーとかやってほしいと思ってるというのはお伝えしておきます。

全部の機能が集まっているInstagram

──Instagramはいかがですか?

もともとインスタは「インスタ映え」の時代があって、今はカジュアルというか、リアルなほうに舵を切ってきています。おそらくインスタ映えの時代って、ユーザー数は増えたけど投稿数はそこまで伸びていなかったと思うんですよ。それでストーリーズを投入してカジュアル路線に方向転換した。正確に言うとインスタ映えとストーリーズの時代はけっこう並行してはいるんですけど。さらに今、リールという15秒のループ動画を上げられる新機能も実装されました。要はTikTokへの対抗策ですよね。IGTVという最大60分まで動画を上げられる機能はYouTubeを意識してましたけど、とにかくインスタにすべての投稿を集めてほしいんだと思います。あれだけユーザーがいるインスタでYouTubeやTikTokの機能もあるのってかなりすごいことで。何か知りたいことはインスタで調べる人も多いですし。

──旅行や食事したいときにインスタで検索するという話はよく聞きますね。

ミュージシャンだと、コード理論とかギターの弾き方をインスタで観る人もけっこう多いです。ストーリーズに質問機能も導入されてファンコミュニティを作れるくらいの仕様になってきていて。あとはこの先、月額制の有料アカウントを作れたらインスタの機能全部使ってファンクラブを運営できるくらいのポテンシャルはあると思います。ファンとの一番の交流場所になれるんじゃないかと。

──菅波さんもインスタライブを配信してファンと交流されてますよね。

この間の配信なんてキス顔させられましたからね(笑)。そのときやって思ったのは、今はアプリでのライブ配信の主流って、コメントの読み上げなんですよ。インスタライブではそんなにコメントを読み上げる人はいないと言われたんですけど、俺はめちゃめちゃ読み上げたらいいんじゃないかと思いました。本当に会話しているくらい近い距離感でできるし、そのほうがエンゲージメントが高まるので。インスタは気持ち的に上着1枚脱ぐくらい心を開いてやるのがいいと思いますね。

今一番クオリティが高いのがTikTok

──TikTokはいろいろな意味で話題になっていますね。

俺はTikTokはけっこう誤解されていると思っていて。TikTokの情報漏洩の問題が本当かどうかは俺にはわからないですよ。そこの肩を持つ気はまったくないですけど、TikTokは今一番クオリティが高いです。なのでTikTokは絶対にチェックしたほうがいい。もちろん自分で投稿するのが一番ですけど、手が回らなければ見るだけでもいいです。TikTokに集まってるコンテンツの量が本当に多くて、TikTokで流行ってる曲はほぼ流行るので。

──最近本当に多いですね。

TikTokでだいぶ前に流行って、みんなもう飽き飽きしているような曲がようやくテレビで流れますからね。ミュージシャンだけじゃなくて音楽業界の人は本気でTikTokをやったほうがいい。TikTokのインサイト(※投稿やアカウントのアナリティクス)を見ると、本当に最初の3~5秒で離脱するかどうかが決まるんですよ。確かに次の動画に流しやすい仕様になっているんですよね。そういう意味ではめちゃめちゃ勉強になるというか、一番ハイクオリティなものが集まってるのはTikTok。ということで必修科目。まあ若い世代にしたらTikTokで音源を上げるのが普通なのかもしれないですけどね。だからTikTokはキャリアのあるミュージシャンの人ほどやったほうがいいかもしれない。

──菅波さんはカバー動画もたくさん上げていますが、それはTikTokの影響もあるんですか?

TikTokかインスタか忘れたんですけど、「カバーが見たい」というリクエストがあったので上げ始めました。そうやってコミュニケーションが取れるのがやっぱりいいですよね。

Twitterにメリットを求めるな

──Twitterについてもお伺いできればと思います。

TwitterはほかのSNSとはまったく別物だと捉えたほうがいいですね。Twitterが一番顕著にギャンブル性があります。バズるときはバズるし、炎上もするので、たぶんもっとも人生を狂わせやすい。嘘か真か、Twitterのリツイートの仕組みを考えた人がいまだに後悔しているという話を聞いたことありますけど、本当に異常なことになるときはなっちゃうので。Twitterはリスト機能を使って、リストごとに見るのがオススメですね。そうするとノイズはちょっと減るので。情報収集で使ってる人も多いだろうから見るだけだったらそれでいいと思います。先ほどYouTubeにクセがないと思ったらけっこうあったという話をしましたけど、Twitterは一番わからないですね。Twitterがもし擬人化して人間だったら相当不気味な人物だと思います。

──優しいかと思えば急に凶暴になったり?

めちゃめちゃ天才的なことを言ったかと思えば炎上するようなことを言って。Twitterを積極的にマーケティングに活用しようと言われていたのはひと昔前で、みんなもう薄々気付いてると思うんですけど、Twitterに何かのメリットを求めちゃいけない。むしろ、Twitter以外のところで作った投稿をTwitterで流すという考えにしたほうがいいです。

──ベースとなるSNSを別に持っておいて、Twitterは情報を流通させるために使うわけですね。

そう、Twitter以外で作ってTwitterで流す。若い子は自然とやってますよね。TikTokから始めて、人気が出てきてTwitterも手を付けるとか。だからTikTokのフォロワーのほうが断然多いアカウントも最近は多いと思います。

──菅波さんがTwitterで投稿するときに意識してることはありますか?

なんだかんだで俺はTwitterばかりやってきたので、腐れ縁的なところがあるんですよね。フォロワーとの間に一朝一夕ではできないノリができちゃったというか。インスタだと、「この間観たアニメのキャラクターのおっぱいがでかくて興奮しました」みたいな投稿をできる空気ではないんですけど、Twitterはなんの問題もなくて。俺が「おっぱいとかツイートしても一切動じないフォロワー 頼もしすぎるな」ってつぶやくと、「なんも問題ないんですけど、何か?」みたいなリプがつくという長年のノリがあるので。そういう意味では実家感はありますね。

本当のオススメ

──先ほどYouTubeでどんどん弾き語りのカバーをやったほうがいいというお話がありましたが、著作権の話も伺ってもいいですか?

YouTubeは著作権をチェックしてくれるContent IDという仕組みを採用しています。YouTube側で問題がないか確認してくれるので、これはカバー動画を上げる人にとってはものすごく助かる仕組みで。弾き語りしてる大多数の人がその動画を収益化していないので、ほぼ問題なくアップできます。収益化してる人の場合は一段階ハードルがあって「収益を折半しましょう」とか細かい話になるんですけど。自分の曲がカバーされてどんどん広がっていくというのは、著作権の問題を置いておけば、ミュージシャン側にとってもすごくありがたい話なんですよね。そこがある程度クリアになってきたのは本当にいいことだと思います。一方でカバー動画ってある一定の大きい需要があるので、YouTube側としても思惑通りなんですよね。

──ほかのSNSでもカバーを上げることは問題ないですか?

TikTokはそもそもリップシンク(口パク)動画としてスタートしていて、かなり初期の段階でJASRACなどとライセンス契約を結んでいるので問題ないです。インスタも、なぜか大々的に言ってないですけど、去年の終わり頃にやっと著作権問題をクリアにしました。だからインスタでも弾き語りの動画をアップしても問題はないですね。もちろん曲によって例外はありますけど。収益化の話で言うと、これから音楽活動を始める人──例えば大学生とかに俺が本当にオススメしたいのはライブ配信なんです。ライブ配信といってもSNS系のライブ配信ではなく、ライブ配信に特化したアプリ。今だったらPocochaとか17LIVEが人気ですし、ふわっちという雑談系のアプリもあります。これら後発のアプリは収益化が意識されているので、そこでやったほうがバイト感覚でできるし、話術も鍛えられるし、うまくいけばファンも付く。SNSについて話すこのインタビューの本筋とはズレますけど、これが真実ですね。

リリース情報

THE BACK HORNと小説家・住野よるがコラボレーションした「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」が発売中。10月19日には、CDの収録曲と同内容の音源集「この気持ちもいつか忘れる」をiTunes Storeほか主要配信サイト、音楽ストリーミングサービスにて配信予定。
住野よる『この気持ちもいつか忘れる』特設サイト | 新潮社

菅波栄純

1979年生まれ、福島県出身。1998年に結成、2001年にメジャーデビューしたTHE BACK HORNのギタリストで、バンドの多数の作詞作曲を手がける。みゆはんやJUNNAなど、他アーティストへの楽曲提供も行っている。THE BACK HORNとしては2020年6月に配信シングル「瑠璃色のキャンバス」をリリース。9月には作家・住野よるとコラボレーションした「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」を発売した。

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