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10月に再開か? 宇多田ヒカルが“自家製ラジオ番組”で語ってきた、母・藤圭子への想い

リアルサウンド

13/9/15(日) 12:15

 今度の火曜日(9月17日)は、本来ならば宇多田ヒカルのファンにとって月に一度だけ、宇多田ヒカルの存在を近くに感じることができる貴重な1時間がやってくるはずだった。今年4月から毎月第3火曜日にInter FMで放送されている『KUMA POWER HOUR with Utada Hikaru』。自宅で収録されて、完パケ状態で放送局に送られるというその番組は、2010年12月から音楽活動休止に入っている宇多田ヒカルにとって、現在唯一の対外的な活動となっている。

 先月22日、4回目の放送(5月は体調不良のため放送休止だった)があった20日の直後に起こった、母親・藤圭子の死と、その後の一連の報道。まったく予期してなかったかたちで、テレビや新聞やネットに宇多田ヒカルの映像と音楽と情報が洪水のように溢れ出したことに、心を痛めたファンは多いだろう(自分もその一人だ)。ホームページから2度にわたって発表された本人からのメッセージも、真摯にして、とても悲痛な内容だった。

 9月の『KUMA POWER HOUR with Utada Hikaru』の放送がお休みとなることが告知されたのは、ちょうど放送日の1週間前、9月10日のことだった。今回の休止に関しては、きっと誰もが当然のこととして受け止めたと思うが、そこに「次回、10/15(火)の放送をお楽しみに」という一文が付け加えられていたことに、自分は心底ホッとした。この番組がスタートするきっかけを作ったピーター・バラカン氏(昨年、Inter FMの執行役員に就任)によると、宇多田ヒカル本人から、「ラジオでみなさんの前に出るには、少し気持ちを整理するための時間が欲しい」と連絡があったという。もちろん、その「時間」は問題じゃない。無理をして10月に復活しなくても、それが11月になっても12月になっても来年になってもいい。ただ、宇多田ヒカルがこのまま再び(もしかしたら今度は完全に)公の場から姿を消してしまうことはないのだということが、そのアナウンスからはうかがい知ることができた。

 おそらく、宇多田ヒカルの音楽に長年深く親しんできた人間ほど、今回、彼女の身に起こった一連の出来事をシリアスに受け止めているのではないか。テレビの情報番組で延々と流され続けた「嵐の女神」、あるいは「Be My Last」のような、直接的に歌詞の中で“お母さん”を歌った曲の他にも、宇多田ヒカルが母との関係について歌ったと思われる楽曲はこれまでにたくさんあった。そして、今回の出来事によって本人から明らかにされたいくつかの事実は、そんな推測をより確信に近づけることにもなった。

 『KUMA POWER HOUR with Utada Hikaru』でも、宇多田ヒカルはこれまでにないほど率直に、母について愛着を込めて語っていた。この番組では毎回宇多田ヒカルがテーマに沿った選曲をして、日本語と英語でその曲への思い入れやエピソードを語るのだが、4月の1回目の放送では「西欧人の友達にウチの母の曲を聴かせると、みんな気に入るのね。西欧にも共通するブルーズの感じがあるのかも。Inter FMで演歌を流していいのかわからないけど(笑)、聴いてください」という紹介とともに藤圭子「新宿の女」をオンエア。続く6月の2回目の放送では、シャーデーの曲を流した後に「私が小さい時に母が『光の声は素晴らしいわ。なんかもう、シャーデーみたい』って言ってくれて、それが嬉しくて、そこから自分もファンになった」と語っていた。その時にオンエアされたのは、決してシャーデーの代表曲とは言えない、初期の「I Will Be Your Friend」。「最近、あまり調子が良くないみたいだけど、いつも言ってきたでしょ、どんな時でも私が助けになってあげるから」。そんなふうに歌い出されるその曲は、まるで宇多田ヒカルがラジオを通して秘密のヘルツ(©「Heart Station」)で伝えた、母へのメッセージのようにも思えた。

 ここ数週間、芸能メディアを中心に様々な情報が飛び交い、無神経な詮索がされている宇多田ヒカルと母・藤圭子の関係。しかし、その前からずっと彼女の音楽を愛し続け、4月からのラジオ番組を聞いてきたファンは、何が“本当のこと”なのか、情報ではなく感情のレベルで理解している。あとは、静かに彼女の帰りを待つだけだ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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