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田中裕子の気遣いで難関カットも見事OKに、「おらおらでひとりいぐも」制作レポート

ナタリー

20/9/1(火) 17:00

「おらおらでひとりいぐも」メイキング写真

沖田修一監督作「おらおらでひとりいぐも」の制作現場レポートとメイキング写真が到着した。

若竹千佐子の同名小説をもとにした本作では、夫・周造に先立たれた主人公・桃子さんの日々が描かれる。田中裕子が75歳の桃子さん、蒼井優が20歳から34歳までの桃子さんを演じた。

2019年11月21日、沖田組は埼玉・飯能市の能仁寺でロケ撮影を行っていた。雲1つない空の下で撮り進められていったのは、桃子さんが周造の墓参りをするシーン。17時頃に日が沈んでしまうことと撮るべきカット数を考えると余裕はない。さらにこの日は、墓地へと1人歩いていく桃子さんのカットだけではなく、若き日の周造や幼い頃の子供たち、そして桃子さんの心の声を擬人化した“寂しさ”や“さとり”たちが合流して練り歩く、ファンタジックなシーンも控えている。加えて日没間際には、現在と若い頃、そして少女時代の“3人の桃子”が夕景を前にそろい踏みするショットを撮るため、空が茜色に染まるまでに撮影を進める必要があった。しかしそんなタイトなスケジュールでも、現場に流れる空気は穏やか。どんなときでも声を荒げない沖田の温和な人柄が反映された雰囲気の中、ロケは小気味よく進行していった。

田中が1人で歩くシーンから一転、大勢での行進の撮影ではキャストも増えて現場がにぎやかに。周造役の東出をはじめ、桃子さんの分身的存在である「寂しさ」1、2、3を演じる濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎、諦念的な感情が分身となった「どうせ」役の六角精児、桃子さんの祖母「ばっちゃ」役の大方斐紗子、そして子役たちが一堂に会するということで、衣装部とヘアメイクチームは大わらわ。蒼井も現場入りして一部始終を見守る。そんな中、沖田が「ここでは桃子さんを、皆さんが一緒になって 『がんばれーっ』と応援するような感じにしたいです」と演出意図を伝え、段取りからカメラテストへ。「寂しさ」トリオが桃子さんの背中を押したり掛け声をかけ、六角と大方が息を弾ませながら坂道を歩いては「ホレ、ホーレ」と場を盛り上げるさまを、沖田が楽しそうに見つめる。

続いては、周造の墓前に“3人の桃子”が並び、夕焼けを見つめる情緒的なシーン。あたりが暗くなるにつれ、小高い丘の墓地に吹く風の冷たさが身に染みてくる。それでも蒼井は自身の出番がない時間も現場に残り、その動きやしぐさを焼き付けようとしているかのように、田中の一挙手一投足を目で追う。そして迎えたラストカット、3人の桃子が同じタイミングで夕日のほうへ振り向く芝居に、沖田の「OKです!」の声が響いた。

12月3日に神奈川・横浜市のダンスホール「クリフサイド」で撮影されたのは「人生に大切なのは自由か、愛か?」という桃子さんの自問自答が妄想となって膨らみ、居間の襖を開けた先で“脳内コンサート会場”となっていく場面。バックバンドを従え、50人から60人の観客を前に、桃子さんが周造との永遠の別れに対して抱いた思いを歌い上げる。しかしコンサート会場の雰囲気は、1人の客のヤジによって一変。桃子さんの擁護派と非難派が揉み合い、警備員に扮した「寂しさ」トリオが止めに入るという展開を見せるのだが、いつもの沖田組よりも若干テイクを重ねたのが、客の投げたペットボトルが桃子さんの額に当たるカットだ。

実はペットボトルを投げているのは沖田だが、なかなか狙い通りに当たらない。田中の頭上では「寂しさ」トリオが紙吹雪を散らしているので、撮り直すたびに一度それを回収しなければならず、沖田にも次第にプレッシャーがかかり始める。しかし田中が「思いきり当てちゃってください」と気遣いを見せると、その直後のテイクで見事ヒット。モニターチェックでもOKが出て、 観客席のエキストラ陣から拍手が起こった。

「おらおらでひとりいぐも」は、11月6日に全国で公開。

(c)2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

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