Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

THE ORAL CIGARETTES、2作連続でアルバムチャート首位に 転換期迎えたバラエティ豊かな作風を分析

リアルサウンド

20/5/10(日) 12:00

参考:2020年5月11日付週間シングルランキング(2020年4月27日~2020年5月3日)(https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2020-05-11/)

 5月11日付のオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得したのは初登場のTHE ORAL CIGARETTES『SUCK MY WORLD』で、推定売上枚数は15,072枚。次いで2位にはDa-iCE『FACE』が14,003枚でランクイン。ほかトップ10内の初登場は4位BenjaminJasmine『BenjaminJasmine』、5位VOYZ BOY『ARRIVAL OF VOYZ BOY』、7位PEDRO『衝動人間倶楽部』だ。前回の担当分でも売上枚数の低調さを指摘したが、今回も15,000枚強で1位とかなり低い水準にある。THE ORAL CIGARETTESとしても、直近のリリースと比較すると心もとない数字だ。前回から今回までのランキングを遡ると、たとえば首位獲得作ではJUJU『YOUR STORY』やINABA/SALAS『Maximum Huavo』は5万枚~6万枚の売り上げを記録している。しかし2位以下の枚数の推移も含めてみると、やはり低調さは否めないように思う。緊急事態宣言の延長もあり、小売店の営業自粛が当面続くだろうことをふまえると、状況は相変わらず厳しそうだ。

(関連:オーラル、転換期を迎えたバラエティ豊かな新作

 2回連続でしみったれた話になってしまったが、気を取り直して作品をピックアップしていこう。今回は1位のTHE ORAL CIGARETTES『SUCK MY WORLD』を取り上げる。2010年結成のTHE ORAL CIGARETTESは奈良出身の4人組。リフやカッティングのタイトな絡み合いと力強いリズムに、なにより山中拓也(Vo/Gt)の色気と陰を併せ持つ歌い上げ系のボーカル。一貫して、ヴィジュアル系の系譜を感じさせるアクの強さとポップな魅力が共存した音楽性を保ち続けている。ときに変拍子や急展開を用いたケレン味ある楽曲構成を聴かせ(特に2014年の1stアルバム『The BKW Show!!』はバロック的な過剰さがユニーク)、一方ではフェスなどのライブパフォーマンスでも映えそうなストレートなロックチューンも聴きどころが多い。

 『SUCK MY WORLD』は2019年のベスト盤を経て5作目のフルアルバムとなる。サウンドには変化が多く聴き取れ、キャリアの節目を感じさせる転換期的な作品という印象だ。全体として、バンド的な生々しさは薄れ、しっかりとメイクアップされた堂々としたサウンドにまとめられている。細かく伸縮するハイハットや中低域を埋めるベース、ボーカルのハーモニー処理などに現代的なサウンドメイクへの目配せを感じる「From Dusk Till Dawn」など、バンドをどのようにアップデートするかへの布石として興味深い。

 他の楽曲に耳を傾けると存外にバラエティに富み、ファンキーなディスコ調の4つ打ち「Fantasy」はアイドルやダンス&ボーカルグループの楽曲かと思うほどにポップでダンサブル。一方イントロはビートレスのアンビエントだし、インストのテクノ「Breathe」がちょうど全体の折返しに挟まれていたりして、楽曲ごとにサウンドはあちらへこちらへと(いささか気まぐれに)展開してゆく。シングル「ワガママで誤魔化さないで」のカップリングでもあった「Color Tokyo」はホーンセクションを含んだ物憂げなR&B的なビートから始まったかと思うと、ミドルテンポのずっしりとしたロックサウンドに展開し、終盤では2つのサウンドが混線するかのように入れ替わり登場する。スムースにことを運ぶよりも、むしろ断絶を強調するかのような一曲で、このアルバム自体の似姿とでも言おうか。

 一番耳をひいたのはゴスペル的なコーラスの導入だ。楽曲タイトルからして直球の「Hallelujah」や「The Given」、アルバムの最後を飾る「Slowly but surely I go on」ではぶ厚いコーラスを従えて、山中のボーカルもヴィジュアル系的なケレン味とはまた異なる響きに至っている。こうしたコーラスが映えるような抜けの良いメロディを書いているということもあろうし、暗さよりも明るさに比重が寄るアレンジの傾向も影響しているだろう。ダークさとは相反するような明るさに振り切りつつ、「ゆっくりでも着実に進んでいく」と浮足立たないバランスは、かえってその強さを浮き彫りにしている。『SUCK MY WORLD』というタイトルから想像するものとは真逆と言ってよい。

 意欲作とも言えるが、前述したように転換期というか、果たしてこの後にどのような道筋をバンドが歩んでいくかはちょっと不明瞭であるに思う。逆に言えばもっと思い切った方向へ突っ込んでいく余地のある一枚で、ここで披露されたアイデアのどれがどのように次につながっていくかが気になる。期待のほうにベットしたくなる一作だ。(imdkm)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む