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みうらじゅんの映画チラシ放談

『モンスターハンター』 『フロッグ』

月2回連載

第57回

『モンスターハンター』

── 今回の1本目は、『モンスターハンター』を選んでいただきました。

みうら これは劇場に『スカイライン-逆襲-』を観に行ったとき予告編を観たんですね。ちなみに『スカイライン』は低予算の極みですっごく面白かったですし、最後にジャッキー・チェンもやらないようなNG集もついてましたよね(笑)。

で、『モンスターハンター』なんですけど、僕、ミラ・ジョヴォヴィッチって、たぶん人生で最後に記憶した海外の女優さんの名前になると思うんですよ。あともうひとり、クロエ・グレース・モレッツでたぶん限界。そのふたりの記憶を持って、僕は墓場に行くつもりです。

ミラ・ジョヴォヴィッチは、『バイオハザード』のときに「これはシュワルツェネッガー以来の珍名出たな!」と思って何度も繰り返し唱えて、ようやく覚えました。だいぶかかりましたけどね(笑)。

たぶんこの人は、今ではホラーにおけるクリストファー・リーくらいの位置なんでしょ? 予告編でも、堂々たる風格を持たれていましたから。僕にしても、スラッと出てくる最後に名前を覚えた人だし、これは観ておかなければと思ったんですよ。

クロエ・グレース・モレッツも前回取り上げた『トムとジェリー』に出てましたでしょ。やっぱり“老いるショック”でギリ覚えた名前には馴染みがあるというか。

── 原作になったゲームで遊んだことはありますか?

みうら 僕、最初の『モンスターハンター』が出たときに、ゲームをプレイして原稿を書く仕事をやったんです。けどね、僕はどうもモンスターを倒して点を稼ぐみたいなことが苦手で。

僕、アクションゲームは得意だったんですけど、だんだんロールプレイングゲームの要素が入ってきたじゃないですか。

── 経験値を稼いでレベルを上げるみたいなことですか?

みうら そうそう。その経験値ってやつ。僕、もう画面上に数字が出てきた段階で、気が遠くなるんです。この映画も画面の右上に数字とか出て来ないですよね? 僕、数字で好きなのは“0(ゼロ)”だけですから(笑)。出ないんだったら安心なんですけど。

あ、トニー・ジャーが出てるんですね! “!”がいくつ付くのか『マッハ!!!!!!!!』のトニー・ジャー。

── 一時は引退騒ぎもありましたけど、近年はハリウッドでも活躍してますね。

みうら 『マッハ!!!!!!!!』では仏像が盗まれて、それを取り返しに行っていたと思うんですよね。続編の『トム・ヤム・クン!』では、愛する象をね。

だから今回は、ミラ・ジョヴォヴィッチがハントしたモンスターを、トニー・ジャーが取り返しにいくのでは? で、ミラ・ジョヴォヴィッチに対して「ダメだよ、大切な自然のモンスターを捕まえちゃダメだよ!」って説教する役なんじゃないかな。

タイは仏教国ですし、殺生はとにかくダメですよ。トニー・ジャーも、最初この話が来たときにはハンター側だったけど、「僕、それは無理だよ」って言ったと思うんです。だから脚本を変えた可能性がありますね。

── チラシには“狩猟解禁”って書いてますけども(笑)。

みうら だからこそトニー・ジャーが止めに行かないといけないですよね! 自分よりも強いものをすぐに敵と見てしまうのは、人間のよくないところです。なにか折衷案はないものかとトニー・ジャーが悩む話でしょうね。

話、変わりますがね、こないだ上野の国立科学博物館に『大地のハンター展』っていうのを観に行ったんです。

── やっぱりハンターにご興味があるんですか?

みうら いや、そういうわけじゃないんです。たぶんそこには、僕が最近集めているワニのグッズが売ってるんじゃないかと思って行ってみたんですけど(笑)。いや、恐ろしいほどたくさん売店に並んでいて、ワニグッズだけで2万8000円も使っちゃったんですよ。

── みうらさんのワニハンティングはまだ続いていたんですね。

みうら 続けてますね。どこまでいけば好きになるんだろうと試行錯誤してる段階ですけどね。そんな僕に『大地のハンター展』はすごく力をくれました。

最初はてっきりハントする人間側にフォーカスしている展覧会かと思ってたんです。でも、安心しました。野生でハンティングしている動物たちの展示だったんですね。それなら自然の摂理でやってることですから仕方ありません。

人間にはしたたかな邪念があって、それが問題でしょ。だからこそ、『モンスターハンター』ではトニー・ジャーに「それはいけないよ」って言ってほしいですね。

── トニー・ジャーへの期待値がものすごく高いですね(笑)。

みうら 『ワイルド・スピード』では、悪い役もやってましたけど、仏教国の人だから、きっと忸怩たる思いだったんじゃないかな。トニー・ジャーがどういう役どころなのかがとても気になってきました。スラッと言えるミラ・ジョヴォヴィッチ同様、これは観たい映画ですね。

『フロッグ』

── 続いては『フロッグ』ですね。

みうら 僕、上京したての頃、初めて銀座で『吸血の群れ』っていう映画を観たんです。確か巨大なトノサマガエルみたいなのが人の手をくわえているポスターだったと思うんですけど、本編にはまったくそんなシーンが出てこない。内容はもう全然覚えてないんだけど、ポスターに偽りアリだったことはすごく覚えてるんですよ。

でもこの映画はダイレクトに『フロッグ』と名指ししてるわけですから、当然カエルが大活躍してくれるんですよね? 

── 邦題は『フロッグ』なんですけど、原題は『I See You』だと書いてあります。

みうら え? またですか(笑)。これは日本の配給会社が勝手にカエル推しにしている可能性がありますね。以前にカエルのお面をつけた殺人鬼の映画がありましたよね?

── 『ミュージアム』は、ちゃんとカエルのお面をつけた人が出てきましたよ。

みうら でも、よくよく見ると『フロッグ』のお面はカエルじゃないですね? コレ。

僕、自画像っていうのも変ですけど、サイン会のときは、必ず名前の横にカエルのキャラを描いてるんです。いとうせいこうさんと出している『見仏記』って仏像を見る本を出したときもそうでしたが、仏像だからってサイン会には年配の方も並んでおられて、ある方に「これは豚なのか?」って言われ、仕方なく「そうです」って答えたことがありました(笑)。

だから、僕も言えないんですが『フロッグ』のお面はカエルじゃないですね、コレ。

小学校の頃、第一期カエルブームっていうのがあったんです。それこそコルゲンコーワのカエル人形が流行って、その頃からカエルを描き始めたんです。ただ、当時はまだ学校の授業でカエルの解剖があった時代で、カエルファンだった僕は本当に耐えられなくてね。

あるとき、下校時に、公園の隅の方に上級生が集まっていて、捕まえてきたカエルの腹をガラスの切れ端みたいなもので裂こうとしてたんです。僕は勇気を出してそのカエルを譲ってくださいって言って、確か50円くらい出したと思うんですよね。

── その頃の小学生には50円も大金ですよね。

みうら カエルの命と引き替えですからね。それで家に持って帰って、自宅にあった小さな庭にそのカエルを離しました。家の離れにボットン式のトイレがあって、そこの向かいの狭いスペースなんですが、翌日から僕がトイレに行くために廊下を渡ると、奥の茂みにいたカエルがピョンピョンと飛び出てきて、手を洗うところに止まってじっとしてるんですよ。

以来、僕がトイレに行く度、庭からカエルが飛び出してくるようになりました。親のときには来ないんです。両親も「これはカエルの恩返し。助けてもらったことを覚えていて、あんたに挨拶しにきてんねんな」って言って。

とてもいい話だったんですけど、最後は床下にいた蛇がそのカエルを食っちゃったらしくて。ま、この映画は、そんなストーリーではないですよね?

── “その恐怖は快感に変わる”と書かれてますから、むしろみうらさんのお話とは順序が逆ですね。

みうら カエルの恩返しだけでは映画になりませんもんね。

── ホラーテイストの映画のようです。

みうら じゃ、このフードをかぶった犯人が、いつもカエルっぽく見えるマスクをして、殺人を繰り返すという話じゃないですかね?

── ものすごく順当なところに落ちつきましたね(笑)。

みうら ま、それしか考えられません(笑)。やっぱ、これカエルじゃないですよね。むしろ伎楽面の猿じゃないですかね? 配給会社の人も、これをカエルにするのは無理があるって思ってらっしゃるのでは?

── チラシの文言にも“カエル”って言葉は一切出てきてませんしね。

みうら ストーリーにも“雨のジトジト降る日に、池の近くで殺人が……”とは書いてないですもんね。チラシの裏面には“フロッグ”とさえ書かれてないですから。

── 映画を観ればなるほどと思うんでしょうか?

みうら どうなんでしょう。

そもそも欧米ではカエルってどんなイメージなんですかね。日本だと、“蛙飛び込む水の音”じゃないですけど、カエルに対して昔から親近感がありますよね。

── 『柔らかい殻』というアメリカ映画では、子供がイタズラでカエルを破裂させてました。

みうら ああ、マジですか? 実は僕も子供の頃にカエルに何度かイタズラしたことがありまして……。

── あれ? さっきはカエルを助けた話でしたよね?

みうら ええ、だからカエルに対しては同時に罪滅ぼしの気持ちもあるんですね。まさかその愚行を覚えていて、“アイシーユー”と言うのでは?

── アイシーユーは“I See You”なんで、みうらさんに会いに来たカエル側の目線かもしれないですよ。

みうら 恩返しに来たカエルだったらいいなぁ。かつて、破裂させられたカエルの霊が集まって、人間に恨みを晴らすのは恐怖過ぎますから。

取材・文:村山章

(C)Constantin Film Verleih GmbH
(C) 2019 ISY HOLDINGS LLC

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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