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高木洋が語る、『ルパパト』音楽に散りばめられた挑戦「主題歌は盛り上げすぎても困ることはない」

リアルサウンド

19/3/17(日) 18:00

 2019年2月に最終回を迎えた後も”ルパパトロス”の声が上がり人気を集める『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』。42作あるスーパー戦隊シリーズの歴史で初となるダブル戦隊、 義賊と警察の両方の視点から正義とは何かを突き詰めるストーリーなど、 放送当時は子どものみならず、 大人まで巻き込み大きな話題を呼んだ。

 また、 音楽面も通常の戦隊シリーズとは異なり、ルパンレンジャーとパトレンジャー双方の主題歌や劇伴を制作。『秘密戦隊ゴレンジャー』以来、43年ぶりの男女デュエット曲であり、二つの歌を合体させたオープニング主題歌「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」をはじめとする楽曲も高い人気を誇り、すでに放送終了しているにも関わらず、3月からはライブツアー『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー ファイナルライブツアー2019』もスタートした。

 リアルサウンドでは、『ルパパト』の主題歌や劇伴を手掛けた作家・ 高木洋氏にインタビュー。高木氏は、戦隊シリーズでは『爆竜戦隊アバレンジャー』や『侍戦隊シンケンジャー』、アニメでは『プリキュア』シリーズの音楽を担当。本人も制作にひと苦労したと語るオープニング主題歌や劇伴の制作秘話をはじめ、 アニメと実写での音楽制作の違い、『ルパパト』がヒットした理由などを聞いた。(編集部)

オープニング主題歌は「かつてないチャレンジ」

――『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は放送から1年以上経った今聴いても驚くような主題歌です。一体、どのようにして作ったのでしょう?

高木 洋(以下、高木):日本コロムビアの八木仁プロデューサーから「2つの歌が混じるような感じの歌を作ってほしい」というオファーがあったのが始まりです。最初は僕もせいぜいサビでボーカル2人が追っかけ合うぐらいの曲なのかな、と思っていたんです。(藤谷美和子・大内義昭の)「愛が生まれた日」という曲がありますが、あんな感じでAメロをルパン側がワーッと歌って、Bメロをパト側がワーッと歌って、という感じの曲を2案作りました。ところが八木さんから「Aメロからぜんぜん違う歌が混じっているような歌がいい」と言われまして。そんなの、できるのかなぁ? と……。

――想像がつきませんよね。

高木:僕も40数年生きてきましたが、そんな曲は1曲も聴いたことありません(笑)。八木さんや制作の方たち、作詞家の藤林(聖子)さんを含めてかなり密に打ち合わせをしましたが、誰も出口が見えていない(笑)。僕も「これ、誰も出口をわかってないぞ……」とすごくドキドキしていました。それぐらい、かつてないチャレンジでしたね。

――どうやって出口を見つけたのでしょう?

高木:男女ボーカルにして、それぞれのキーを変えれば上手くいくんじゃないかとひらめいたんです。打ち合わせでも「この方法なら上手くいきそうだ」と言ったのですが、やってみたらぜんぜん上手くいかなかった(笑)。「やっぱりできませんでした」と3回ぐらい言おうと思いましたね。

――どう考えても難しいですよね。

高木:あっちを立てればこっちが立たなくなるし、両方立てれば合わさったときに崩壊する。何度も諦めそうになりましたが、意地でも作ろうと思ってメロディをひねり出したのが今の曲です。

――主題歌「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」、両戦隊のテーマソング「ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ」「Chase You Up!パトレンジャー」は、どういう順番で作ったのでしょう?

高木:3曲同時進行です。本当にパズルのような作業でした。今までにない曲ですから、出来上がりを聴いて、みんな戸惑ったと思いますよ。東映の宇都宮(孝明)プロデューサーもよくこんな前例のない曲を押し通してくれたと思います。

――どんどん新しいことを採り入れていくところが戦隊シリーズのすごいところですね。そもそもこれは“デュエット曲”なんですか?

高木:デュエットではないですね。サビを同じにしたり、サビをハモらせたりするパターンも作りましたが、そうするとぜんぜん2人が戦っていないし、仲良くデュエットしているようになってしまう。どっちの歌詞も聴こえなくなってしまう可能性もありましたが、戦っている感じのほうを優先させました。キーを変えたのも、ルパンレンジャーとパトレンジャーが絶対仲良くならないということを音楽的なコンセプトとして打ち出したものなんです。2つの歌は絶対に交わらないぞ、と。

――歌手の吉田達彦さんと吉田仁美さんは一緒に録音されたのでしょうか?

高木:いえ、別々に録音しています。しかも、それぞれの曲を歌っているんですよ。それを後で合体させました。ここでも戦いなんですよ。

子ども向け番組でここまで生楽器の音を聴かせる機会はない

――「ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ」はビッグバンドジャズ、「Chase You Up!パトレンジャー」はデジタルビートが強調されたアレンジでした。このアイデアはどのように生まれたのでしょう?

高木:劇伴について、監督(杉原輝昭氏)と戦隊別に音楽の色分けをしようと話していたんです。いろいろな案がありましたが、最終的にルパンはジャズに決めました。ルパンが生楽器なら、パトにはまったく違う打ち込みがいいだろう。それなら劇伴だけじゃなく、主題歌も色分けをしたら面白いんじゃないか、という発想ですね。

――まったく違うサウンドを融合させるのは、メロディを考えることと同じぐらい難しかったのではないでしょうか?

高木:これまでに作った歌でも生楽器の後ろでシンセが鳴っていたりループを使っていたりしていたんです。そういうハイブリッドなことはよくやっていたので、アレンジは歌のメロディほどの苦労はなかったですね。

――完成した曲は、男女2つのボーカルとブラスサウンドとデジタルビートが渾然一体となっていますね。

高木:ごちゃごちゃしてますよね(笑)。

――いえいえ、とにかくすごい迫力なのですが、特に終盤の怒涛のようなオーケストレーションが大変印象に残りました。これはどのような効果を狙ったものでしょうか?

高木:僕、弦を書くのが大好きなんです。そうそう主題歌を書くこともないですから、入れられるものは全部入れてしまおうと。弦を入れるとどう盛り上がるかもわかっていますから勝算もありました。主題歌は盛り上げすぎても困ることはありませんからね(笑)。

――演奏を担当しているLowland Jazzとのコラボはどのような経緯で実現したのでしょう?

高木:『ルパパト』の仕事に入るちょっと前にLowland Jazzとお仕事をしていたエンジニアの三浦(克浩)さんに紹介していただいて、ご一緒させていただきました。劇伴は70曲以上書かなければいけないのですが、ジャズはドラムやピアノを打ち込みで処理するのがすごく時間がかかる音楽なんですよ。Lowland Jazzに劇伴の演奏を担当していただけて、僕はものすごく助かりました! ずっと一緒にやってきた仲間たちならではの、熱くてイキイキした演奏ですよね。

――『ルパパト』を見ていた子どもたちにとっては、初めてのジャズ体験だったかもしれません。

高木:ああ、そうだと思います! 子ども向けの番組で、なかなかここまで生楽器の音を聴かせる機会はないので新鮮でしょうね。

――シングルにも収録されているBGM「快盗戦隊ルパンレンジャーのテーマ」もLowland Jazzのノリの良さが活かされた楽曲だったと思います。

高木:彼らのお互いの演奏での会話はジャズバンドならではでしたね。譜面に書いていないことでも上手くアドリブを入れていただいたり、いろいろな合いの手を入れていただいたりなど、すごく助けられました。

――BGM「警察戦隊パトレンジャーのテーマ」は、『西部警察』のテーマを連想しました。

高木:はい、わりと昭和の時代の刑事ドラマの古い感じは入れてますね。その中にデジタルっぽいところも入れたりしています。

――『西部警察』といえば高木先生の恩師である羽田健太郎さんの作品です。

高木:長年一緒にお仕事させていただいたので、どこかしら色を引き継いでいるのかもしれません。逆に、僕がそういうところを匂わせると面白いかな、と思って、意識的にやっている部分もあります。

一番大切にしたのは“作品を好きになること”

――『ルパパト』の劇伴の制作では、どのようなことを意図されていましたか?

高木:僕は普段から大編成のオーケストラを使うことが多いので、敵と戦うシーンやピンチのシーンなどはオーケストラっぽいサウンドになっていますね。そこにジャズが入り、デジタルっぽいサウンドも入っているので、三つ巴の面白さが表現できているかと思います。

――これはハマった! と思われた劇伴がありましたら教えてください。

高木:戦闘シーンをジャズで表現した曲(M-27b)ですね。最初は戦隊シリーズらしい戦闘シーンの曲を作ったのですが、「もっとLowland Jazzっぽく戦えないかな?」と思って、ジャズのドラムソロで戦うとか、トロンボーンソロで戦うとか、今年ならではの試みをやってみました。僕の中で思い入れのある曲です。

――高木さんは挿入歌も数多く作曲されていますが、印象に残っていることはどのようなことでしょうか?

高木:例年は主題歌が1曲、ロボットの歌も1曲なんですが、今年に限って主題歌は3曲、ロボットの歌は2曲(「快盗ガッタイム!ルパンカイザー」「警察ガッタイム!パトカイザー」)あったので(笑)、劇伴を作るスケジュールがとれなかったのがすごく大変でしたね。毎日どうやって過ごしていたか、よく覚えてません(笑)。

――初美花役の工藤遥さんが歌う「秘めた想い」がモーニング娘。ファンの間で話題になりました。この曲はどういう感じで作っていったのでしょう?

高木:作中でピアノを弾く女の子が圭一郎と出会うのですが、その女の子の曲を作りたい、というところから始まりました。それを初美花ちゃんが口ずさむから歌にしちゃおうよ、と。監督が「クラシック風がいい」と要望されたので、彼女の音域の中でクラシック風のメロディを作っていった感じですね。みんなが好きなショパンのピアノ曲のようなテイストを取り入れてます。

――主題歌、挿入歌、劇伴など、たくさんの曲を作られる中で、高木先生が大切にしたことは何でしょう?

高木:他の作品でもそうですが、一番大切にしたのは“作品を好きになること”です。作品に愛情がないと、いい曲にはなりません。たとえば、悲しいシーンの曲なら悲しそうな曲を作ればいいのではなく、脚本や設定資料を何度も何度も読みこんでキャラのことを知った上で「この人が悲しんだらどうなるのか」ということを考えて曲を作ります。

――ちなみに高木先生が『ルパパト』のお好きなポイントはどこでしたか?

高木:キャラクターはみんな大好きですね。ずっと圭一郎が大好きでしたけど、最終回は魁利くんがすごい演技をしていて、1年間の成長を感じました。最後の3話ぐらいのみなさんの演技は本当にすごかったです。何回見返しても飽きないぐらい。終わって寂しくてしょうがないですよ!(笑)。

――主題歌も劇伴もとても激しい曲調ですが、一方でメロディがすごく耳に残ります。

高木:ありがとうございます。主題歌も劇伴も最初に強いメロディを作っておかないと、後からバラードにしようとしても成立しなくなってしまうんです。今回も「このメロディで1年間やるんだ」というメロディを作ることができたので、ギター1本でも成立しますし、いろいろな場面の劇伴で入れてみました。

――強いメロディを作るコツは何かあるのですか?

高木:1回作って「いいメロディができた!」と思っても、すぐにアレンジしないと決めています。70曲あったら、最初からアレンジしていくのではなく、70曲全部一度ピアノスケッチを作ってみて、もう一度1曲目に戻って、「これは使おう」「ああ、これはダメだ」と判断していきます。それを何周か繰り返すとクオリティーが上がっていきますよ。

――今回は主題歌と劇伴を両方担当されましたが、どのような想いがありますか?

高木:今は主題歌と劇伴は分業制のようになっていまして、戦隊シリーズでも主題歌と劇伴を同じ人が手がけるのは『百獣戦隊ガオレンジャー』以来17年ぶりのことなんです。そんな貴重な機会をいただいたことがすごく嬉しかったですね。劇伴は裏方仕事という部分がありますが、主題歌を担当することでたくさんの人に喜んでいただきました。6歳の娘も1年間、喜んで見てくれまして、2人でカラオケに行って主題歌をデュエットするのですが、いつの間にか2人ともパトレンジャー側を歌っちゃうんですよ。「こんな難しい歌だったんだな」とあらためて感じました(笑)。

『プリキュア』は絶対に見ている女の子を怖がらせない

――高木先生は『プリキュア』シリーズなどのアニメ作品も多数手がけていますが、特撮作品とアニメ作品の音楽制作の違いはありますか?

高木:実写とアニメの最大の違いは、実写は役者さんが演技をするので、あまり音楽がやりすぎると演技の邪魔になってしまうというところです。ただ、戦隊シリーズは役者も頑張りますが、音楽も頑張ります。役者を邪魔するぐらいの音楽を書いて、ぶつかり合うぐらいがちょうどいい、と。それは(高木さんが劇伴を手がけた)『爆竜戦隊アバレンジャー』や『侍戦隊シンケンジャー』でも同じです。

――戦隊シリーズは音楽と役者の演技も戦っているんですね。

高木:ただ、『プリキュア』は絶対に見ている女の子を怖がらせないように気をつけています。戦隊シリーズも子どもが見るものですが、男の子は泣かせてもいい(笑)。容赦しません(笑)。『プリキュア』はとにかくキラキラさせてますね。最初に『ドキドキ!プリキュア』の劇伴を作ったときは、つい戦隊シリーズっぽくなっていました(笑)。

――とはいえ、『映画 ハピネスチャージプリキュア!人形の国のバレリーナ』の挿入歌「勇気が生まれる場所」やテレビ『Go!プリンセスプリキュア』の挿入歌「プリンセスの条件」やなどはキラキラだけではないと感じました。

高木:熱い感じの歌ですよね。「勇気が生まれる場所」は、映画のクライマックスで敵をやっつけるカッコいい曲だと聞いていまして、とはいえ、ちょっとサビで明るくなるような曲を作ったのですが、監督の今千秋さんから「もっと激アツなのでお願いします」と言われて作った曲です(笑)。その曲が好評だったので、翌年「プリンセスの条件」を作りました。

――激アツなのが高木先生の持ち味なのですね。もともと何がきっかけで劇伴を志すようになったのでしょう?

高木:小学生の頃にジブリアニメを見て久石譲さんの曲を聴いていましたが、決定的だったのは、中学生のときに見たエンリオ・モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』です。「映画でこんなにいい音楽があるんだ」と、すごく心に残りました。菅野よう子さんがゲームに提供していた音楽もよく聴いていましたね。その後、東京音大に入学しました。

――そこで恩師である羽田健太郎さんと会われるんですね。

高木:3年生のときに教えていただきました。まわりの学生はポップスを出していましたが、せっかくなので僕はオーケストラ曲を出したら、卒業後に声をかけていただいて羽田先生が所属する事務所に入らせていただきました。プロとして生きていく1から10まで教えていただきましたね。とっても優しい方なんですけど、僕が至らなさすぎて……よく叱られました。でも、辛抱強くいろいろ教えていただいたおかげで、今の僕があります。生きていらっしゃったら、いろいろお聞きしたかったですね。

――羽田先生の曲の中で一番お好きな曲は何ですか?

高木:たくさんありますが、一番好きなのはアニメ『宝島』の主題歌です。すごくいい歌で、いいメロディですよね。あとは、『宇宙戦艦ヤマト』の宮川泰先生の曲をアレンジされた「交響曲 宇宙戦艦ヤマト」はすごかったです。30代の頃のお仕事ですからね。僕もなんとか近づけるように頑張っていきたいと思います。

――戦隊シリーズや『プリキュア』シリーズなどを通して、高木先生の作品をたくさんの方が聴いています。今後どのような音楽を届けていきたいですか?

高木:僕は「嫌がられてもメロディを書く」を一番のコンセプトにしています。曲を書くこととはメロディを書くことだと思っていて、これからも大事にしていくつもりです。もちろん、日々勉強を欠かさずに、メロディを大事にしつつ、自分の音楽をアップデートしていきたいですね。

――最後に、これから『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー ファイナルライブツアー2019』が開催されます。高木先生から見どころを教えて下さい。

高木:全国8都市をまわりますので、これまで主題歌をライブでお聴きになれなかったにぜひ楽しんでいただきたいですね。吉田達彦さんと吉田仁美さんがいかに凄いかを、生で見て実感してください。僕も歌えない曲ですからね(笑)。

(取材・文=大山くまお/写真=林直幸)

■リリース情報
『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー VSコンプリートソングコレクション』
価格:¥3,800+税
ルパンレンジャーディスクとパトレンジャーディスクの2枚組
主題歌、挿入曲、キャラクターソングが大集合。コロムビアの権限において実力を行使してルパパトのすべての歌を集めた豪華アルバム。

『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー VSサウンドコレクション2,3,4 ファイナルストライク』
価格:¥4,500+税
快盗VS警察!作品を彩るBGMと主題歌・挿入歌のインストルメンタル全65曲を網羅したサウンドトラック完全版。音楽家・高木洋が紡ぐスコアをあますことなく収録。テレビシリーズ追加録音分、劇場版「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー en film」のBGMを中心に未CD化BGM全てを収録したオリジナルサウンドトラックCD。

■イベント情報
『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー ファイナルライブツアー2019』
3月17日(日)静岡市民文化会館
3月21日(木・祝)アクトシティ浜松
3月24日(日)札幌文化芸術劇場 hitaru
3月31日(日)仙台サンプラザホール
4月6日(土)日本特殊陶業市民会館フォレストホール(名古屋)
4月7日(日)日本特殊陶業市民会館フォレストホール(名古屋)
4月13日(土)広島文化学園HBGホール
4月14日(日)福岡サンパレス
4月20日(土)オリックス劇場
4月21日(日)オリックス劇場
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