【おとな向け映画ガイド】
“闇のアマゾン”を崩壊させたアナログパワー『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』
ぴあ編集部 坂口英明
22/1/16(日)
今週末(1/21〜22) の映画公開は24本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『真夜中乙女戦争』『コーダ あいのうた』『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』の3本。中規模公開、ミニシアター系が21本です。今回はそのなかから、実在した闇通販サイトをテーマにしたサスペンス『シルクロード.com －史上最大の闇サイト－』をご紹介します。
非合法のモノも匿名で買えます
『シルクロード.com －史上最大の闇サイト－』
「世界を変えたい……」、そんな思いで27歳の天才が2011年に開設したのは、“シルクロード.com”という通販サイトでした。“アマゾン.com”に向こうを張ったネーミングです。ただし、扱うのはほとんど非合法の商品。麻薬や武器だって購入できてしまうこのサイトは、瞬く間に1日1億円を売り上げるようになりました。その実在したサイトの誕生と崩壊を、彼と、彼を追い詰めていく中年の刑事を対比させて描いています。実話から生まれた、ひと味もふた味もちがうクライムサスペンスです。
シルクロード創業者ロス・ウルブリヒトは、大学で物理学を学び、卒業後はテキサスの田舎でデイトレードをしたり、友人のオンラインビジネスを手伝ったのち、この“シルクロードのビジネス”を思いつきます。ダークウェブ上に通販サイトを作ることでサーバーの所在地が秘匿され、かつ決済は暗号通貨・ビットコインを使用する。これで、売る側も買う側も正体がわからない。2つの暗号化技術を組み合わせるのに着目したのがロスの独創的なところです。
一方、デジタルに追いつくのがやっと、日々ゼイゼイとがんばっているアナログ派の人がきっと共感するのが、ロスを追う捜査官リック。麻薬取締局の腕利き刑事でしたが重大な作戦でミスを犯し、サイバー犯罪課に異動になります。息子ほどの年の上司にパソコンを与えられ、一から勉強し悪戦苦闘するのですが……。
若き起業家であり、犯罪者でもあるロス・ウルブリヒト。その素顔は20代のごくふつうの若者です。お金を手にしても成功者風は吹かせられないし、生活スタイルも変えられません。スティーブ・ジョブズなどと同様、強い意志と天才的な頭脳の持ち主で、独特の哲学も持っているようです。アップルやfacebookの草創期を青春サクセスストーリーに仕立てた映画は多くありましたが、そうはならなかった……。そんな、やや屈折したアントレプレナーの悲劇、でもあります。演じているのは、『ジュラシック・ワールド』にも出演したニック・ロビンソン。
捜査官リックは、『ターミネーター：新起動／ジェニシス』主演後、話題作への出演が続くジェイソン・クラークが扮しています。「事件は現場で起きているんだ！」ふうの、体を張った捜査で生きてきた家族想いのデカが、この状況とどう折り合いをつけていくかも、刑事ドラマとして見どころです。その捜査は、予想を超える展開を迎えます。
監督・脚本はティラー・ラッセル。麻薬捜査官をテーマにしたドキュメンタリーや、犯罪映画を手がけたキャリアを持つ監督です。ロスが逮捕された翌日からこの映画を構想し始めたといいます。父親の仕事の関係で子供の頃から裁判所や刑務所、警察署に出入りしていたこともあり、警察内部のリアリティのある描写はお得意です。デジタル音痴の気持ちも、よくわかってます。
【ぴあ水先案内から】
佐々木俊尚さん（フリージャーナリスト）
「……まさか実話とは思えない意外な展開が待ち受けている。ここから先のシルクロード検挙劇などについては“下調べ”はしないで是非観てほしい。」
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