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木村拓哉の料理シーンが映える理由 『グランメゾン東京』はグルメドラマの限界を押し上げる

リアルサウンド

19/12/26(木) 6:00

 日曜劇場『グランメゾン東京』(TBS系)が12月29日に最終回を迎える。同作では、チームプレイに徹する木村拓哉の演技やかつての仲間が再集合するストーリー展開が話題になっているが、料理に関するシーンも注目を集めている。

参考:『グランメゾン東京』“フレンチの鬼門”に挑戦 三ツ星の流儀と木村拓哉が抱く料理の哲学

 「食」を扱ったドラマは近年増加傾向にある。しかし、実はプライム帯(月-土曜20時~23時と日曜19時~23時)に限るとその数は決して多くない。民放キー局で2010年代に放送されたグルメあるいは料理が主要なモチーフとして登場する作品は『高校生レストラン』(2011年・日本テレビ系)、『ハングリー!』(フジテレビ系・2012年)、『dinner』(フジテレビ系・2013年)、『問題のあるレストラン』(フジテレビ系・2015年)、『天皇の料理番』(TBS系・2015年)、『ヤッさん~築地発!おいしい事件簿~』(テレビ東京系・2016年)、『Chef~三ツ星の給食~』(フジテレビ系・2016年)など様々だが、1年あたりで計算すると1、2本ほどと、医療ドラマや刑事ドラマと比べるとその数は遥かに少ない。

 地上波ドラマの主戦場であるプライム帯でグルメまたは料理に関する作品が少ない理由は、大きく3点に集約できる。1点目はドラマの構成だ。料理人と言えば食文化の担い手だが、調理そのものは地道な作業の繰り返しであり、熟練の技術を要する。そのこともあって、調理シーン単体でドラマ的な起伏のある展開を生むことは難しく、登場人物や舞台設定との組み合わせで物語の推進力を生む工夫がされてきた。

 2点目に、映像作品特有の「味をどのように伝えるか」という問題がある。テレビの前の視聴者は作品に登場する料理を味わうことができない。そのため、高級食材を扱う場合には、味と反比例するようにリアリティを欠いた描写になりがちだ。3点目は、制作サイドの課題である。一般的に料理のグレードが上がると食材の管理や調理の手順が複雑化し、準備の手間もかかる。ロケやスタジオの環境に合わせて提供体制を整え、食材や調理スタッフ、配膳の専門家を確保しなければならない。

 『グランメゾン東京』はこれらのハードルをクリアしている。1点目の構成については、ミシュランの三ツ星を獲得するという明確かつシンプルな目標が示される。木村演じる尾花たちが作る料理はこの目標を達成するためのツールであるが、同時に群像劇としての物語のキーも担っている。たとえば、第1話では、尾花が倫子(鈴木京香)のために作ったエチュべは2人がグランメゾン東京を立ち上げるきっかけになった。また、調理シーンで流れる音楽はゲームのバトルシーンを想起させ、エンターテインメントとしての料理を演出する。このように、料理によって仲間との絆を深めながら、最高評価を目指して腕を競うというドラマの基本フレームが確立されているのだ。

 2点目の「味をどのように伝えるか」という課題の解決策は、ここ10年のテレビドラマでもっとも進展が見られた部分かもしれない。「メシテロ」という言葉を定着させ、深夜帯の視聴者を魅了し続ける『孤独のグルメ』シリーズ(テレビ東京系)が新しかったのは、情報が氾濫する時代にあって路地裏や住宅街にある知られざる名店を発掘した点もさることながら、「美味しいものを美味しく撮る」技法をとことん追求した点にある。2012年から始まった同シリーズは、インスタ投稿で体験をシェアする「映え」の感性を先取りするものだった。

 『グランメゾン東京』でも、調理や盛り付けには細心の注意が払われている。新鮮な食材を彩り良く見せるためのライティングや、調理手順をつぶさに観察できるカメラの配置、テロップによる食材紹介には、昨今のレシピ動画の影響を見て取ることができる。作り手の視点から構成された臨場感あふれる映像には、視聴者の没入感を誘う効果もあるだろう。さらに、実際に使われる料理も一流レストランが監修。尾花たちのグランメゾン東京は三ツ星フレンチレストラン「カンテサンス」の岸田周三シェフ、ライバルであるgakuには「INUA」のトーマス・フレベルシェフがレシピを提供するなど、最高級の料理が惜しげもなく投入され「本物感」の演出に貢献している。こうした「食」の体験をトータルで差配するフードコーディネーターの存在も見逃せない。

 3点目はなんといっても日曜劇場であることが大きい。前期クールの『ノーサイド・ゲーム』で元日本代表を含むラグビー経験者をキャスティングし、本番さながらの試合シーンを再現したように、伝統枠でありながらチャレンジングな姿勢を貫いている日曜劇場。食のテーマはすでに『天皇の料理番』で経験済みであり、『グランメゾン東京』は同枠が培った経験値の上に成立した企画と言える。これらに加えてSMAP時代にバラエティ番組で豊富な調理経験を重ねた木村拓哉の包丁さばきや、飲食店等とのタイアップ企画など、敷居の高いフレンチを視聴者が身近に感じられる仕掛けが随所に施されている。

 再起を賭ける料理人の群像劇に「食」のクオリティを持ち込んだ『グランメゾン東京』は、これまでのグルメドラマの限界を押し上げた作品として位置付けられる。動画大手Netflixで『シェフのテーブル』が人気番組となったように、最高級のガストロノミーがコンテンツとして映えるという事実は、あらためて食とエンタメの親和性の高さを示すものだ。『グランメゾン東京』を見て抗えない魅力を感じるのは、その両方を高いレベルで実現する妥協のなさとSNS時代の真理を体現しているからではないだろうか。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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