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樋口尚文 銀幕の個性派たち

須森隆文、銀幕を乗っ取るディープインパクト(インタビュー前篇)

毎月連載

第62回

20/11/12(木)

撮影:樋口尚文

2014年の山本政志監督『水の声を聞く』を試写で観ていた時、舞台となる新興宗教の本部の信徒役にひと目見たら忘れない異様な風貌の俳優がいた。その須森隆文という若き俳優は、これだけ均質なこぎれいさでデオドラントされた俳優がひしめくなか、孤高に屹立する「異形のひと」である。その初主演作『ぼくらの亡命』に寄せたコメントで、私は「須森隆文を起用する時は心してかからねばならない。ややもすると彼はその強烈な個性で、瞬時にして映画を乗っ取ってしまう」という逆説的な、しかし最大の讃辞を贈った。

そしてようやくかなった興味津々のインタビューで、須森は演技の折の風貌とはギャップも甚だしい温和でジェントルなまなざしと口調で「怪人の素顔」を語ってくれた。

── 須森さんの風貌を見ているとあまりに出処不明感あるので、いったいどんなご家庭に育ったのかを(笑)つい伺いたくなりますね。

うちは父母と四人きょうだいで姉が二人いてその下に兄がいて、末っ子が僕なんですが、晩年の子なのでいちばん上の姉とは十五歳くらい離れているんです。だから姉たちとはきょうだいという感じでもなくて、五つ上の兄とだけはきょうだい喧嘩みたいなこともしていたかな、という感じです。

── 私は蕎麦好きなのですが、気になっていた富士山のふもとの風情あるお蕎麦店さんが須森さんのご両親の経営だと知って驚きました。

父は証券会社にいたこともあるようなんですが、すぐに辞めて親戚がやっていた蕎麦店を手伝ったりしていたんです。そのうちに自分で店を持とうと決意して蕎麦打ちの修行をしまして、今の店(裾野市の蕎仙坊)を開いたんです。1988年、僕が生まれた直後に開店したんですが、山形からもともとはお蚕を育てていた農家の、とても古い古民家を移築して凝りまくっているせいか、山の中なのにけっこう当初からお客さんが来てくださっていました。

── かなり山の中ですよね。お住まいはお店とつながっているんですか。

そうなんです。近くに富士サファリパークや自衛隊の演習場や、それこそ黒澤明監督がよく使われた御殿場のロケ地などもあるんですが、とにかく山の中で。住まいはごく普通の住居なんですが、なにしろ山の中で学区のはずれもはずれなので、保育園や小学校に行くにしても車で送り迎えしてもらわないと通えなかったんです(笑)。バスも数時間に一本、という感じでした。

── じゃあお友だちとも遊べなかったでしょう。

友だちもまるで近所にいなかったので、だいたい一人で自然の中で遊びまわったり、家でゲームボーイやったり、そういうのがひとしきり終わると店の厨房に行って親と一緒にいたり。

── そうやって厨房で当たり前のように美味しいお蕎麦を食べていると、なかなかそこらの蕎麦は食べられなくなるのでは。

そうですね。蕎麦に限っては、もうおやつのように気軽に美味しいのをつまんでいましたから、そもそもよそではお蕎麦屋さんに行かないですね。きっと美味しいお店はたくさんあると思うんですが、蕎麦の味だけでなくロケーションも含めるとなかなか実家のようなお店はないので、どうしてもそうなってしまいます。

── しかしなかなかお友だちとも近所では遊べず、お店も人気で繁盛するとご両親もなかなかお子さんにかまっている暇がなかったでしょうから、子どもの頃に孤独ということはなかったんですか。

両親は確かに忙しかったんですが、けっこう僕と一緒にいる時間を大切にしてくれていましたし、好きなことは自由にやらせてくれました。

── 何か須森さんを見ていると、風貌は怪人なんだけど(笑)この人はそういうあたたかいご家庭で育った人かなという印象を持ちますね。そんな須森少年が映画に興味を持つきっかけは何だったんですか。

子どもの頃はそんなに進んで映画を観る子ではなくて、むしろ凄いテレビっ子だったんです。ドラマを本当にたくさん見ていました。最初に心に残ったドラマは『白線流し』(’96/フジテレビ)や『聖者の行進』(‘98/TBS)ですね。『大好き!五つ子』(‘95/TBS)とか昼ドラもよく見ていました(笑)。夏休みに家にいると、地方だったせいもあるかもしれないけれど、午後はずっとドラマの再放送をやっていたので、ずっとそれを見ていたんですが、なかでも『お金がない!』(‘94/フジテレビ)は惹きつけられました。そうそう、『お金がない!』もそうですけど、織田裕二さんの出ているドラマはほとんど見ていましたね。『ひとつ屋根の下』(‘93/フジテレビ)もよく覚えていますし、あと印象的だったのは『金八先生』シリーズですね。

── 『金八先生』シリーズは私のティーンの頃に始まって(笑)当時は中学生の妊娠や牧歌的な校内暴力がモチーフになっていましたが、だんだん生徒の抱える問題もエスカレートして老けてゆく金八先生も心身にこたえる(笑)ようになっていったと思うんですが、須森さんが見ていた頃はどんなテーマでしたか。

それがちょうど僕が『やすらぎの刻~道』(’19/テレビ朝日)でご一緒した風間俊介さんが問題児を演じていたシリーズ(『3年B組金八先生』第5シリーズ、’99/TBS)だったんです(笑)。その風間さんもよく覚えていますが、ジャニーズの八乙女光さんが出ていたシリーズ(同第7シリーズ、’04/TBS)も鮮烈でした。ドラッグ問題を扱っているのが衝撃的だったのですが、生徒たちが囲んで見守るなかで武田鉄矢さんが八乙女さん扮する丸山しゅうという生徒を抱きかかえて「よく見ておきなさい、これがドラッグだ!」「ドラッグを憎め!」と叫ぶのが凄かった。

── ぼくらのティーンの頃の『金八先生』では中島みゆきの『世情』をバックに校内暴力の制圧を描いた悲痛なシーンがありましたが(第2シリーズ、‘80/TBS)、そのドラッグの回は並んで伝説的な回と言われますよね。ところで、そんな須森少年が初めて自分で買ったCDは何ですか。

それもドラマから来ているんですが、実はその頃、菅野美穂さんや篠原涼子さんが好きだったので、菅野さん主演のドラマ『愛をください』(’00/フジテレビ)を見ていたんです。主題歌がECHOESの『ZOO』だったんですが、これが初めて自分の意志で「これが欲しい」と言って親に買ってもらったCDなんです。ドラマでは菅野美穂さんもカバーを唄っていましたが、『ZOO』は本当にいい曲だなあと思いました。

── ドラマをたくさん見ていたほかに、好きなアニメなどはなかったんですか。

アニメも好きでした。最初は『ゲゲゲの鬼太郎』(第4シリーズ、‘96/フジテレビ)で、次が『デジモンアドベンチャー』(‘99/フジテレビ)でした。実は小さい頃、その山の中でいつも下駄をはいていて、鬼太郎にあこがれていたんです。胸に水疱瘡の跡があったんですが、それを「親分」って呼んでたり(笑)、蟻みたいな虫を食べたり、囲炉裏に落っこちたり、ちょっとおかしな子でしたね。

── 小学生の頃に『ゲゲゲの鬼太郎』や『デジモンアドベンチャー』が好きだったとすると、映画版を東映まんがまつりでやっていたので、きっとそれ目当てに映画館にも行きましたよね。

そうですね。当時は映画を観るというとアニメです。やはりジブリ作品が人気でしたし、裾野市には映画館がなかったので沼津市まで行って『デジモン』の映画版を観たりしていました。両親に連れて行ってもらった映画は『グリーンマイル』で、初めて自分で買いたいと言ったDVDも『グリーンマイル』でした。

撮影:樋口尚文

── 富士山のふもとの自然児だった須森さんが俳優になろうとどうやって思い立ったんですか。

実は俳優になろうと思うどころか、小学校に入ったあたりからぐんぐん肥満児への道を歩み始めたんです。僕が初めてお芝居の主役をやったのは小5の頃の学芸会なんですが、これがプーさんの役で、台詞なんて「僕の名前はプー」しかない(笑)。要は肥ってるからプーさんをやらせとこうということなんですが、ピークの17,8歳の頃は最高で93キロあったんです(と、スマホで小6当時の写真を見せる)。

── ええ!これは全く別人ではないですか(爆笑)。全然須森さんだとわかりません。特殊メイクかVFXを施して他人にした感じです。

しかも中学・高校は静岡にあるキリスト教系の男子校に入って寮生活をしていたので、全く女性の目を気にすることもなく順調に肥っていったんです(笑)。こんなふうなので、俳優なんて全く別世界のことだった。ところが実家の蕎麦屋が時々雑誌の取材に使われることがあって、ちょうど『ハチミツとクローバー』が公開された2006年に加瀬亮さんがいらしてた。僕は高3くらいでまだ加瀬さんのことも詳しくは存じ上げなかったのですが、その加瀬さんが主演されているというので翌年の映画『それでもボクはやってない』(’07/周防正行監督)を観たんですね。ちょうどその頃、社会派の映画全般に興味を持っていろいろと観ていたんですが、とてもいい作品であることはもちろん、加瀬さんの自然体の演技を見て「ああ、俳優という仕事は凄いな」と感じたんです。ぼんやり加瀬さんに憧れて、ということではなくて加瀬さんの演技の表現に驚いたんですね。

最新出演作品

『青春夜話 Amaizing Place』
2017年12月2日公開 配給:シネ☆マみれ
監督・脚本:切通理作
出演:深琴/須森隆文/飯島大介/川瀬陽太

『プレイルーム』
2018年12月8日公開 配給:東京想舎
監督:ナリオ/松蔭浩之/中村真夕/佐々木誠/福島拓哉中村 真夕
出演:若林美保/渋川清彦/佐伯日菜子/須森隆文

『世田谷の優ちゃん』
2020年12月12日 名古屋シネマスコーレにて公開
監督・脚本:柳英里紗
出演:小園優/柳英里紗/木口健太/川村紗也/須森隆文/雨宮沙月/三浦貴大

『激怒』
2021年公開
監督・企画・脚本:高橋ヨシキ
出演:川瀬陽太/⼩林⻯樹/彩⽊あや/奥野瑛太/渋川清彦/須森隆文

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』『葬式の名人』。新著は『秋吉久美子 調書』。

『葬式の名人』

『葬式の名人』
2019年9月20日公開 配給:ティ・ジョイ
監督:樋口尚文 原作:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子/高良健吾/白洲迅/尾上寛之/中西美帆/奥野瑛太/佐藤都輝子/樋井明日香/中江有里/大島葉子/佐伯日菜子/阿比留照太/桂雀々/堀内正美/和泉ちぬ/福本清三/中島貞夫/栗塚旭/有馬稲子

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