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みうらじゅんの映画チラシ放談

『犬部!』

月2回連載

第64回

『犬部!』

── 今回は『犬部!』という映画のチラシですね。

みうら チラシのチラ見ですが、この映画はね、大学が舞台だと思うんです。受験して合格したのはいいんだけど、キャンパスが都心にあると思っていたのに、校舎がえらく田舎にあったんでしょうね。

それでしょうがなく大学近くのアパートを借りて住んでいるこの4人。まだ、どこのクラブにも所属してなくてね。で、学園祭が近くなってきたとき、「何か模擬店とか出したくね?」って話で盛り上がったんですけど当然、「クラブに所属してない者にはテントは貸せない」って学園祭実行委員から言われたんだと思うんです。

── 予想がかなり具体的ですね(笑)。

みうら でしょ(笑)。でも今からどこかのクラブに所属するには遅いし、所属しても1年生だしどうせ仕切らせてももらえないだろうから、この中のひとりから「だったら自分たちの部活を作ろうぜ!」と、アイデアが出てね。

何をするかは別として、とりあえず部だけ作っちまえばと実行委員にかけ合うんですけど、それには顧問の先生がいるって言われちゃうんです。じゃあ急いで見つけなくちゃって、みんなで先生が部活として通してくれそうな部の名前を考える日が1日あるんですね。

牛部とか、チャボ部とか、とりあえず適当な名前を出し合った中に、“犬部”も入っていたんですね。で、たまたま顧問になってもらおうと思っていた先生のところにそれらの案を持って行くと「俺、犬好きだからなあ、犬部だったらいいよ」って言われたんですよ。それで突然、犬部が結成されて、なんとか学園祭に間に合ってテントが借りられた。たぶん、犬とは何の関係もないたこ焼き屋を出すんだと思うんですけど。

── それが映画のクライマックスですか?

みうら でしょうね。学園祭がラストシーンなんですけど。ないクラブをさもあるように作り上げる、これは僕の著作『ない仕事の作り方』と、テーマは同じです。

犬部が結成されて、顧問もついて、めでたくテントを借りられて、それで知った新入部員も入ってくる。でも自分たちは大して犬なんて好きじゃなかった。それで、慌てて犬を飼い始めたりするんでしょうね。今後、学校でドッグレースでもやろうかなんて企画も出たり、あたふたするエピソードも出てくるんじゃないでしょうか?

……というのも、この話、僕の母校である武蔵野美術大学に今でも名前だけが残っている、犬部ならぬ猫部。そもそも40年以上も前にね、在学中の僕と僕の友達が作った、ないクラブなんですよ。

── え? あまりに具体的すぎるので、おかしいと思ってました(笑)。

みうら あまり知られていないことですがね(笑)。今の猫部っていうのは猫を本当に愛好するグループみたいなんですけどね、当時は、さっきの話のように単に顧問になってくれた先生が猫だったらいいよって言うから猫部になっただけなんです。

しかし、その頃大学のチンケンクラブっていうのが話題になっていて、まず、創刊されたばかりの大学マガジンっていう雑誌から取材の電話が大学にかかってきてたんです。

── チンケンというのは、“珍しい犬”、ですか?

みうら いや、“珍研”ですね(笑)。ケン玉とか、人力車クラブとかそういった、かつてなかった研究会です。猫部もとりわけ珍研だということで、その後もいろんな雑誌からオファーがあってね。で、あちこちで紹介されて、認知が高まったおかげで今でも存続してるんだと思ってるんですけど。

テレビにも呼ばれました。『クイズダービー』や『クイズドレミファドン!』。珍研ばっか解答者を集めた回に猫部は出場したんです。

『クイズダービー』の司会だった大橋巨泉さんから「猫部って何やってんの?」って聞かれて、「猫拓を取ってます!」なんてひどいこと答えて呆れられました。たぶん、この『犬部』の原作者か監督はそれを見てらっしゃったんじゃないかと(笑)。

── ということは、主演の林遣都さんがみうらさん役ですか?

みうら 何せ猫部は当時4人しかいませんでしたから、僕ですかね(笑)。

── ちなみに林遣都さんは滋賀県出身で、バリバリ関西弁で芝居ができますね。

みうら それで合点がいきました。僕もまだ大学入りたての頃はバリバリ関西弁でしたから(笑)。このチラシでは女の子が猫抱いていますね。彼女は猫部だったんじゃないでしょうか。後にヘッドハンティングされて犬部に入るのでしょう。

── チラシの端っこに“ニャンコもね”ってちゃんと書いてありますね。

みうら あと、うちの大学もかなりの田舎にあって、当時はまだ学校の前は田んぼでしたから、このチラシのまんまですよ。僕らは日本のウッドストックって呼んでましたから。

── 今調べてみたら“武蔵野美術大学ねこ部”というTwitterアカウントがありますね。“ムサビに暮らす猫を見守るサークル”ですって書いてあります。

みうら うーん、当時は大学近くの“弁慶”っていう飲み屋に集まるサークルだったんですがね(笑)。あ、でもチラシには、獣医学部に実在した部活のノンフィクションって書いてますね。

── じゃあ、みうらさんの猫部の話ではないんじゃないですか?

みうら ですね(笑)。いやいや、そんなわけないですよ。どこかしら猫部の要素が……。

── 舞台は青森県みたいですね。みうらさんはこの連載の前回でも青森好きを公言されていましたし、青森が舞台の犬映画『わさお』についても再三コメントされています。

みうら わさおの出身校かもですね(笑)。でも、このチラシを選んだのは確実に猫部があったからなんです。これは近しいクラブとして、犬部の模擬店に顔は出さなくちゃですよね。

取材・文:村山章

(C)2021「犬部!」製作委員会

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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