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草彅剛、再び挑む『アルトゥロ・ウイの興隆』で、さらに不気味に人々を熱狂させる

ぴあ

草彅剛  撮影:藤田亜弓

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『アルトゥロ・ウイの興隆』は、ナチスに追われて亡命の旅に出たブレヒトが、ヒトラー率いるナチスがあらゆる手段を使って独裁者としてのぼりつめていく過程を、アメリカのギャングの世界に置き換えて描いた作品。2020年1月、KAAT神奈川芸術劇場で、白井晃演出、草彅剛主演にて上演されるや、ギャングのボスを演じた草彅のこれまでにない姿と、舞台に渦巻くエネルギーに、興奮する声があふれた。公演場所も公演回数も増えた今回の再演で、その興奮をさらに広げるべく、稽古に入った草彅。暴れる準備はできているようだ。

自分のすべてがかかっている

――今、どんな気持ちで2度目の『アルトゥロ・ウイの興隆』に臨んでおられますか。

大げさではなく、自分のすべてがかかっている舞台だと思っています。いや、いつもそう思っているんですけど(笑)、とくにこの作品は、歌って踊って芝居してと、これまでやってきた活動がすべて入っているので。自分の原点でもあり、自分の集大成になるなと改めて思っていて。自分の人生をかけて演じなきゃいけないなと思っています。

――その思いが強くなっているんですね。

初演よりブラッシュアップしなきゃいけないですからね。実際、稽古をしていると、より鋭く、エッジのあるものになっている実感もあって。恐怖が増していて、底知れぬ雰囲気があるというか。それでいてブラックジョークが効いたユーモラスなところもあって。初演があったからこそまた次の高みにのぼれるんじゃないかという気がしています。

――その恐怖の大元が、草彅さんが演じられるシカゴのギャング団のボス、アルトゥロ・ウイです。ゆすりなどの手を使ってどんどん勢力を拡大し、人々が恐れる存在になる人物ですが、再び向き合ってみていかがですか。

どんどんどんどん人を裏切って、のし上がっていく。ここまで残虐な役はやったことはないんですけど、悪いヤツであるがゆえに演じるのは楽しいんですよね。普段言えないこととか、発することができないエネルギーとか、そういうものを暴れるように出せるので。そして、汗をかくから新陳代謝が良くなる(笑)。

――心にはどんな影響がありますか。

心のほうも爽やかですよ(笑)。もちろん作品全体を見ると、大変なことになっていくな、残酷な世界だなとは思うんですけど、悪いヤツを演じているから気持ちが重くなるとか、そういうことは全然なくて。大きな声を出して、動いて、スポーツをしているような感覚なんですよね。タガを外して芝居しないといけないところがあるので、気持ち的にも解放されますし、ストレス発散になりますね。

筋肉は裏切らない。ウイは裏切るけど(笑)

――ご自身で、心のストッパーを外すのは上手なほうだと思われますか。これまでも、外さなければできなかったり、外して全部を出すから観る人に響いたり、といったお芝居を見せてこられたように思いますが。

どうなんだろう。でもそれも、難しく考えないで、「やってみよう!」みたいな感じなんだと思います。躊躇して、これできるかなと思うときもあるんですけど、とりあえず、「踊ってみよう!」「歌っちゃえ!」みたいな。そういう心がけは大事かなと思っています。だから今回も、とにかく大きな声を出して、どんどん人を裏切っていきたいと思います(笑)。

――演出の白井晃さんからは、どんなことを言われていますか。

やっぱり「大きな声出して」と言われます(笑)。あとは、「もっとおどろおどろしく」とか、「苦々しく」とか、そんな感じです。だから、言われた通りに一生懸命やる。本当にスポーツみたいなんですよね。

――今年は、大河ドラマ『青天を衝け』で徳川慶喜を演じられました。ウイとはまったく違う人物ですが、トップに立つ人間を演じてみて、ウイの捉え方に変化があったりしますか。

ないです。すみません(笑)。でも、馬に乗る練習をして体幹が鍛えられたことで体力がついたり、長いセリフを言ったり、慶喜をやったことでウイを演じるのに必要なものが高まったと思うので。いや本当に、このお芝居は体力が必要で、2年前であんなに疲れたのに、前より動く量が増えているし、2年分歳を取ったし、果たして大丈夫なのかって思っていたんです。でも、筋肉は裏切らない。ウイは裏切るけど筋肉は裏切らないので(笑)。

体力的なところが大丈夫だと思える分、ウイに深みが増すといいなとは思っていますね。のし上がっていく男の哀愁みたいなものなのかわからないですけど、これからの稽古で何かがディープになっていけばいいなと思います。

――稽古場はどんな雰囲気ですか。

こんなおどろおどろしい話なのに、みんな楽しそうなんですよ。それぞれ自分の役を楽しんでいる。たぶん、オーサカ=モノレールさんの生の音楽が高揚感があるんでしょうね。ブレヒトの戯曲に、JB(ジェームス・ブラウン)の歌が重なって、いつの時代なのか訳のわからない世界になって、僕も急に「ゲロッパ!」ってシャウトして、何やってるんだろう、支離滅裂だなと思うんですけど。でも、「これはショーとして演じているんですよ」という世界だからハチャメチャができるというか。そこに白井さんの言う“異化効果”というものがあるらしいので、ステージで暴れまくって、不気味な熱狂が生まれたらいいなと思います。

扉がどんどん開いていく感覚

――ウイの右腕とも言えるローマを演じる松尾諭さんとは、同じ白井さん演出の『バリーターク』(2018年)からご一緒されています。

実はその前にドラマでも共演したことがあったんですけど僕は覚えていなくて(笑)。僕のなかでは、『バリーターク』が新しい出発をして初めての仕事だったので、そこに一緒にいてくれた人っていう印象が強いんです。だから今も、すごく心強いというか。それこそラグビーをやっていて体幹がしっかりしてる人だから何でも受け止めてくれるし。ちょっと疲れたなと思ったら、松尾くんを見て元気を出しています。

――そもそも今作の初演のときは、『バリーターク』で白井さんとご一緒されてこれまでにない感覚を覚えて、また白井さんとやりたいと思って引き受けられたそうですね。

『バリーターク』も台本を読んだときは訳がわからなかったんですけど(笑)、稽古で白井さんが導いてくれて、「ここはこういうことだったんだ」「こういう解釈もあるんだ」ってわかっていけて。海外の戯曲も知ってはいたけど、本当にいろんなお芝居があるんだなと実感できたんですよね。

また、白井さんが本当にお芝居が好きで、お芝居のことしか考えてないからピュアでいいんですよ。要求してくるものも、だから高くて、それに向けて頑張ることで自分もいろいろ発見がある。今回の稽古でも、「もう1回返してみよう」って、100本ノックくらってるような感じで、心のなかでは「またやるのか」って思うんですけど(笑)、やるたびに発見があって。自分で自分の限界を決めてしまいがちですけど、白井さんがニコニコしながら「もう1回やってみよう」って言うと、自分のなかの扉がどんどん開いていく感覚になるんですよね。

――では、確実に初演とは違うものになりそうですね。

過去の自分のウイの残像を押しつぶして、脱皮して、のし上がっていっている感じです。だから、初演をご覧いただいた方も、さらに驚きと興奮に震え上がることでしょう! ……ってほんとかな(笑)。でも、絶対に何かを持って帰っていただけると思うんです。楽しいとか怖いとかひと言で言い表せないような、今まで感じたことのないような、これは何なんだろうというようなものを。そういう感情になっていただける舞台にしたいと思います。



取材・文:大内弓子 撮影:藤田亜弓
ヘアメイク:荒川英亮 スタイリスト:黒澤彰乃



『アルトゥロ・ウイの興隆』
【神奈川公演】
2021年11月14日(日)~2021年12月3日(金)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 ホール

【京都公演】
2021年12月18日(土)~2021年12月26日(日)
会場:ロームシアター京都 メインホール

【東京公演】
2021年1月9日(日)~2021年1月16日(日)
会場:チームスマイル・豊洲PIT

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2184301

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