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上白石萌音に聞く、新曲「一縷」での野田洋次郎との“タッグ” 「自分が真っ白になれる」

リアルサウンド

19/10/14(月) 13:00

 実力派女優としても活躍の場を広げる上白石萌音が、10月14日に新曲「一縷(読み:いちる)」を配信リリースした。10月18日公開の映画『楽園』の主題歌のために書き下ろされた同楽曲は、RADWIMPS・野田洋次郎が作詞・作曲・プロデュースし、上白石の歌声の魅力を最大限に引き出したバラードに。上白石がデビューミニアルバム『chouchou』で「なんでもないや(movie ver.)」(上白石が主人公・三葉の声を演じた映画『君の名は。』主題歌)をカバーしたことはあるが、野田が上白石の楽曲を作詞・作曲・プロデュースまで手掛けたのは今回が初めて。そこで今回の楽曲についてのエピソードや野田に対する印象はもちろん、彼女自身が“歌”に向き合う姿勢、音楽への想いに至るまでをじっくりと聞いた。(編集部)

上白石萌音「一縷」(いちる)ミュージックビデオ(Full Version)

野田洋次郎とのコラボは「願ってはいけない夢みたいな感じ」

ーー今回の「一縷」は映画『楽園』の主題歌で、RADWIMPSの野田洋次郎さんが作詞・作曲・プロデュースを手がけています。野田さんの楽曲を歌うのは、2016年10月発売のデビューミニアルバム『chouchou』での「なんでもないや(movie ver.)」カバー以来3年ぶりですが、書き下ろし曲はこれが初めてです。

上白石萌音(以下、上白石):願ってはいけない夢みたいな感じでした(笑)。カバーできただけで贅沢だったので。この曲のことはお仕事から帰る直前にマネージャーさんから聞いたんですよ、「そういえば、洋次郎さんとご一緒することになったよ」って、わざとフランクに伝えてきて(笑)。さすがに「えっ、ど、どういうことですか?」って動揺しました(笑)。しかも洋次郎さんが映画の主題歌を書き下ろすことになって、私と一緒にやりたいとおっしゃってくださったと聞いて「なんということだ!」とさらに驚きました。

 私が音楽活動をする上で、あのとき洋次郎さんがカバーを許してくださらなかったら、たぶん今のこの活動はないと思いますし、そういう意味では私の中では恩人だと思っていて。しかも、私自身RADWIMPSの大ファンでもあるので、そんな洋次郎さんが一緒に音楽を作りたいと言ってくださるなんて、この仕事をやってきて本当によかったなって、心の底から思いました。地道に頑張っていればこういう日が来るんだな、再びご縁が結ばれるときがあるんだなって。洋次郎さんにもすぐに連絡して、「ありがとうございます!」と感謝の思いを伝えました。

ーーこれまでの活動はもちろん、歌い手としての実力もちゃんと理解されてこその抜擢だったんじゃないかと思いますよ。

上白石:私の歌もずっと聴いてくださっていたみたいで、私は恐れ多くて「よくない、よくない!」と思ってしまうんですけど(苦笑)。

ーー謙遜ですか(笑)。

上白石:いやあ、私すぐにそう思っちゃうんですよ(笑)。憧れの人に会ったりすると「私、まだそこに見合うところにはいない!」って。でも、今回の「一縷」はそうやってずっと見守ってくださっていた洋次郎さんが、声をかけてくださって。そうやって縁みたいなものを大切にされている方が書いた曲だよなというのを、改めて感じました。人としての情が伝わるといいますか。

ーーなぜ上白石さんに歌ってほしかったのか、野田さんからその理由は聞きましたか?

上白石:恐れ多くて聞けないです(苦笑)。でも、「いつか(私に)曲を書きたい」とおっしゃってくださっているという話は聞いたことがあって、そのときも「よくない、よくない!」と思っていたんですけど(笑)。でも、レコーディングの前に「あなたは頑張っちゃう人だから、何も頑張らなくてもいいから。『あなたのベストな声をどうやったら引き出せるかな?』と考えながら僕は作るし、ディレクションもしようと思っているから、まっさらな気持ちで、初めて歌う気持ちでスタジオにおいで」と言ってくださって、その言葉がすべてだなと思ったので、洋次郎さんをただただ信じました。

「ああ、洋次郎さんには全部バレてるな」

ーーその「何も頑張らなくてもいい」というのは、萌音さんが役者でもあるからこそ、この歌詞を表現する上で何か演じてしまうという懸念もあったんでしょうかね。

上白石:あったのかもしれないですね。やっぱりレコーディングまでの期間って不安になることが多くて、私は「こう歌ったらいいのかな?」と自分で考えて、頭でっかちになっちゃうくらい準備しちゃうタイプなので、「ああ、洋次郎さんには全部バレてるな」って(笑)。

ーーでも、結果として萌音さんの歌や息遣いから伝わる透明感は、この曲の持つ世界観に最適だと思いましたよ。

上白石:本当ですか? そこはもう、すべて曲に連れて行ってもらった感じで、私はいただいたメロディと言葉を素直に歌っただけで、表情も意識して変えたりしてないですし、本当にまっさらな気持ちでした。でも、実はそれってすごく難しくて。飾ることが誤魔化すことでは必ずしもないんですけど、何かテクニックを使うことで不安を埋めたりすることってあるじゃないですか。だけど、今回はそこを全部削ぎ落としたんです。例えば、ビブラートもかけずにまっすぐ歌うことって、とっても怖いし、すごくアラが目立ちやすい歌い方でもあるのでドキドキする。洋次郎さんの前でなければこの歌にはならなかったかもしれないなと思います。なんだか裸になった感覚でしたね。

ーー経験を積めば積むほど、歌手としての技術が身に付くでしょうし、それによって表現力も豊かになると思います。でも、「一縷」ではあえてその武器を全部捨てて挑んだわけですね。

上白石:武器というのは大げさかもしれませんが、やっぱり癖はあるので、そこを無くすことは今回新たに得たものだったかなと思います。自分の癖も人から言われないと、なかなか気づけないものなので、この曲でいろんな垢みたいなものを流してもらった感じがします(笑)。でも、まっさらな自分を持つことの大切さはすごく実感しましたね。なんにもない自分を知っているか知らないかって、すごく大きいと思いますし。

ーー初心に戻るといいますか、歌うとはどういうことなのかを考えさせられる機会でもあったのかなと。

上白石:そうですね。それこそ「なんでもないや」をカバーさせてもらったのが歌手デビューのときで。歌の技術も何も持っていない、ただただ曲を好きで、うれしくて歌っていたときだったから、洋次郎さんとお仕事をすると毎回あのときの純粋な……曲が本当に好きで、歌いたくてしょうがないっていう気持ちになれるので、なかなか得難い時間だなって思います。

ーー野田さんって、上白石さんが歌う上での節目節目にいろんなきっかけや挑戦をくれる方なんですね。

上白石:洋次郎さんとご一緒すると自分が真っ白になれるんです。きっと洋次郎さんがそうやって生きている方だからだと思うんですけど、飾ったりすることっていらないなと、毎回思いますし。だから、「また一緒に歌おう」という機会があった時に恥ずかしくない自分でいたいなと思います。

まさに「考えるな、感じろ」の境地

ーーこの曲の序盤はピアノとストリングスのみでリズムが入らない、歌う上では逃げ場のないトラックですよね。

上白石:歌うまでは怖かったですけど、歌っているときは怖さを感じませんでした。レコーディング卓の前に洋次郎さんというすごく頼れる人がいたので、私は集中してこの音楽を感じて、声を出せばいいという本当にシンプルな時間を過ごしただけで。歌っているときの心の中は何の乱れもなくて、まるで波が立っていない湖みたいな感じでした。それこそ、映画の中で杉咲花さんが演じた紡ちゃんがずっとそばにいて、その佇まいを見ながら歌っていたような感覚でもありました。

 この曲の歌詞って切実というか、言葉が素直で飾っていない。旋律はシンプルですが、あまり動いてないと思ったら急に上がったり、静かなドラマチックさみたいなものがある。だから、本当に難しいことを考えずに、ただこの曲に連れて行ってもらえばいいと思っていたので、全部委ねましたね。まさに「考えるな、感じろ」の境地でした(笑)。

ーー〈でもね せめて これくらいは持っていても ねぇいいでしょう?〉のパートから、ちょっと曲の世界が変わりますよね。光が差す感じがあるといいますか。

上白石:このパートは洋次郎さんもすごくこだわっていました。シンプルに歌ったバージョンと、ちょっと祈りを込めたバージョンも録ったりしましたし。独白みたいに進む序盤から、ここで一瞬だけ周りがパッと見えるような歌詞に変わるじゃないですか。誰かに聞かせている……それは自分かもしれないですけど、“対何か”が見える瞬間。でも、その言葉も誰が聞いてもわかる、本当にシンプルなもので。だから、ここは肝でしたね。心が乱れていたら歌えないんですよ。

ーーそういう心の動きが全部出ちゃいそうですものね。

上白石:本当にごまかしが効かない、嘘がつけない曲といいますか。

ーー鏡みたいに、歌い手としても自分と向き合う曲でもあるのかなと。

上白石:本当にそうでしたね。自分はどんな声で、どういう歌い方で、どんな癖があって、普段どんなことを考えていて、とか。ちょうどこの曲のデモを受け取った頃って私、特に何があったというわけではないんですけど、ちょっとどんよりしていた時期だったんです。そんなときに、この曲が私の中で「これだ!」っていう灯火になってくれた。だから私もこの曲を、私の声で誰かに届けなくちゃいけないという思いが強かったんです。

ーーまるでパズルのように、声やメロディ、サウンド、言葉のすべてが合致した1曲だと思いますよ。

上白石:うわあ、幸せですね(笑)。洋次郎さんもすごく大事な曲になったとおっしゃっていましたし。私がいろんな方に書いていただいた曲を受け取ったときに一番何を思うかというと、「書いてくださった方が納得できるかな? 気に入ってくださるのかな?」っていうことなんです。なので、曲を書いてくださったご本人がそう言ってくださるのが一番の救いで、その言葉があれば誰に何を言われようが私はいい! というくらい。それこそ、洋次郎さんの言葉から“一縷”の光を……いや、“一縷”と言わずにものすごい光をいただいたと思います。

この曲で登場人物たちのこれからがちょっと明るくなったら

ーーと同時に、この曲は『楽園』という映画の主題歌でもあるから、映画にもフィットしなければいけない。映画との共通点はどういったところにあると思いますか?

上白石:「一縷」はすごく正直な歌詞じゃないですか。映画に登場する人たちもいろんなもので取り繕ったりしながらも、結局嘘がつけない。その素直さに苦しんだり傷ついたりしている人たちだなと、私は映画を観て感じて。愛しいほどの愚直さが共通点なのかなと思いました。

 やっぱり映画自体が凄まじくて、受け取るものも多い。観終わってから紡ちゃん(杉咲花)とか広呂くん(村上虹郎)に希望を抱きたいし、「幸あれ」って願ってしまう。だから、同じような気持ちでこの曲が歌えたらって思いましたし、この曲で登場人物たちのこれからがちょっと明るくなったら……洋次郎さんもそう願って作られた曲だと思いますし、観終わったあとにちょっとだけあたたかくなれる要素になっていたらいいなと思います。

ーーこの曲が映画の最後に流れたらちょっとホッとするんじゃないでしょうか。

上白石:そうですよね。だから洋次郎さんも「一縷」っていうタイトルを付けられたと思うので。私は役者側として作品に参加することも多いですけど、出演者にとって主題歌はすごく大切で、主題歌に助けられたり、その曲の声からいろいろもらってお芝居をすることも多いので、出演されている役者さんや監督さんにこの曲がどう届いているんだろう? とも思います。

ーーでは、まだ出演者の皆さんには……。

上白石:お会いしていないんです(※取材日は10月初旬)。これからそういう機会があればいいですね。役者としても本当に尊敬する方ばかりが出演していますし、中でも杉咲花ちゃんは同い年で、私も大好きで憧れの女優さんなので、こういう形でご一緒できたことでひとつ宝物をいただけたと思っています。

より音楽欲が高まった2年間だった

ーー上白石さんは今年7月に、CDとしては2年ぶりとなるミニアルバム『i』をリリースしたばかりです。初のオリジナルアルバムだった前作『and…』(2017年)からの2年間を振り返ってみて、歌うということに対する変化や新たに感じることはありましたか?

上白石:自分名義のCDは2年間出していなかったんですけど、その間もいろんな音楽番組に呼んでいただいたり、ミュージカルに出演して歌ったりしていたので、より音楽欲が高まったというか、「ああ、歌いたい!」って強く思っていた2年間だったんですね。役者のお仕事というのは誰かを演じるわけで、自分ではない瞬間のほうが多いですが、音楽活動をしているときは否が応でも自分と向き合うことが増えるじゃないですか。そういう時間が減ったのが寂しかったし、何より私はやっぱり歌が好きだし、それを待ってくださっているという声も届いていたので、2年ぶりにCDを出せたときは純粋にうれしかったですね。

 常に“歌うことが楽しくてしょうがなくて本当に幸せです、よかったら聴いてね?”みたいな気持ちでいられたら、音楽にも失礼がないなと思うんです。今またこうしてコンスタントに曲を出させてもらえてすごくうれしいですし、新しい曲と出会うたびに新しい歌い方を模索しますし。そのたびに自分と向き合えば、それだけ考えることや得たいものが増えていくので、やっぱり続けることって大切なんだなと思っているところです。

ーー特に上白石さんの場合、いろんな方に曲を作っていただくことで、外から見た自分を引き出してもらったり、自分が気づいていなかった部分を見つけもらったりという発見も多いのかなと思います。

上白石:まさにそうですね。曲を通してこういうふうに見ていただいているということは、ひとつ新しい自分を認めてもらったり新しいパーツをいただいたりすることなのかなという気がします。きっとお芝居も、絶対に自分とはかけ離れている役でも自分の中のどこかにそういう要素が存在しているからオファーしていただけるわけで。同じことなんだなって思いますね。

私を媒介して曲の素晴らしさがそのまま届けばいいな

ーーきっと歌手デビューするときはそれ以前の役者としての経験が歌に影響を及ぼしたと思いますが、歌手活動を続けてからは逆の効果もあったんじゃないかなと思うのですが?

上白石:歌をお仕事にさせていただいたことで「ただ好きなだけじゃダメだ」と思って、いろんな人に習いに行くことも増えました。その中で学んだことは、お芝居にも生きているとは思います。例えばブレスの大切さ。ある先生は「ブレスにどれだけ感情を入れられるかが大事なんだ。声を出した瞬間に感情を乗せようとしても遅い」と言うんです。「これから言葉を発しますよっていう息の中で、どういうことを言うか、そこに込めなさい」と。それってお芝居でも同じことが言えて、うれしいことを言う前の息と悲しいことを言う前の息って違うと思うんです。ブレスの間って静かじゃないですか。その静寂の中で一番感情が動く瞬間があるというのは、特に歌を始めてから気づきましたし、ちょっと視野が広がったんじゃないかな。

ーー確かにブレスの一瞬で、いろんなことが伝わることも多いですし。

上白石:今回の「一縷」もブレスから始まりますしね。私はシンプルなサウンドの曲を歌わせていただくことが多いので、息遣いまで聞こえるってことも少なくなくて。だからこそ、ブレスはとても大切だと思うようになりました。喋るのも歌うのももちろん、生きることでさえも呼吸が大切なわけで、そこにすべてがあるんだと。

ーーそのほかにも、歌う際に大切にしていることってありますか?

上白石:ひとりよがりにならずに、楽器の音をちゃんと聴くことですかね。ライブもそうで、歌う人はステージの真ん中に立ちますけど、それだけじゃ音楽はできない。バンドの皆さんやスタッフさん、みんなで作るものじゃないですか。だから、私は歌うときに「ここでどういうふうにギターが鳴って、ドラムがどこから入ってきて、ここでシンセサイザーが入る」とか、そういうことを全部感じながら歌いたいし、私も楽器のひとつになりたい。そこでは一緒に音楽でありたいという思いが強くて。歌うときもどういう声で、どういう感じで歌ったらいいかなというのを常に冷静に考えられたらなと思っていて、そこが今一番の課題であり、一番楽しい瞬間だなと思います。

ーーもしかしたら上白石さんって、曲を一番良い形で届けたいという思いが強いのかもしれませんね。

上白石:ああ、本当にそうかもしれないですね。私が最初にデモで聴いたときに「ああ、なんて素晴らしいんだろう!」って感じたように、皆さんにも同じ思いになってもらいたいんです。だから曲の邪魔をすることなく、私を媒介して曲の素晴らしさがそのまま届けばいいなと思っています。

ーー今回の「一縷」はまさにそういう曲になったと思いますよ。だからこそ、この曲を経た上白石さんが歌手として、この先どこに進んでいくのかも楽しみです。

上白石:毎回悩んで、練習して、削ぎ落としての繰り返しになっていくと思うんですけど、いただいた曲に合ったいろんな歌い方ができるようになれたらと思います。

(取材・文=西廣智一)

■リリース情報
配信シングル 10月14日(月)リリース
上白石萌音「一縷」(ユニバーサルJ)  ※読み方:「いちる」
作詞・作曲・プロデュース:野田洋次郎
映画「楽園」主題歌
※ハイレゾでもリリース配信

■映画情報
映画『楽園』
10月18日(金)全国公開
出演:綾野 剛 / 杉咲 花
村上虹郎 片岡礼子 黒沢あすか 
石橋静河 根岸季衣 柄本明
佐藤浩市
原作:吉田修一「犯罪小説集」(角川文庫刊)  監督・脚本:瀬々敬久
© 2019「楽園」製作委員会  配給:KADOKAWA 

公式HP 公式Twitter

■関連リンク
上白石萌音オフィシャルサイト
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