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マキタスポーツとスージー鈴木『カセットテープ少年時代』インタビュー “理系的”音楽分析のススメ

リアルサウンド

18/6/29(金) 8:00

 BS12トゥエルビ で毎週金曜深夜2時から放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』。番組MCを務めるマキタスポーツとスージー鈴木が、80年代の音楽を新しい角度で分析をする、ユニークな音楽番組だ。

 毎回、繰り広げられる軽快なトークと、音楽に対する熱量をそのまま書籍にした『カセットテープ少年時代  80年代歌謡曲解放区』(KADOKAWA)が6月1日に発売。これを記念して、マキタスポーツとスージー鈴木にインタビューを行い、音楽分析をはじめるに至った経緯から、一風変わった角度から音楽の楽しみ方を教えてもらった。(柚月裕実)

スージー「僕は“理系ロック”を語りたい」

ーー番組でお話しされた内容が書籍化されましたが、改めて読んでみていかがでしたか?

スージー鈴木(以下、スージー):いやーこんないい話したっけ、と。読み応えたっぷりで、健康になりそうな感じ。体重が2キロ減って階段の上り下りがラクに(笑)。

マキタスポーツ(以下、マキタ):でも、ほとんど直してないと思うよ。読みましたけれど、喋っていた内容とそんなに変わらない。それもある種、特徴だと思います。番組でも割と文章的なことを喋っているのかもしれません。

スージー:そうですね、「文語」です。ロック書籍界では珍しい、ロックの分析を「文語」でしたものです。これまでは感覚的にしか語られてなかったから。

マキタ:そう、文学的な表現って、人に何かを伝えるためには絶対必要で。音楽が構造的にこうなってますっていうのを、例えば、メジャーセブンスを聴いたときに「大人になった気がした」と表現する。実際はチェリーボーイだったけど、チェリーじゃなくなった気がした、みたいな(笑)。そういう文学的な表現が“ろ過装置”とスージーさんに言ってもらっているところなのだと思います。

ーーなるほど。

マキタ:でも、それだけだとあまり面白くないわけですよ。“その表現の構造は実はこういう構成なんですよ”、とスージーさんが補ってくれる。そういうバランスが取れているんだと思います。

スージー:ミュージシャンはそういう構造を明らかにしたがらないですね。

マキタ:ちゃんとマジックを成立させるために、構造を明かさずにを守りたいっていう意識がある人もいるし、そもそもそこに興味がなくて、自分が作ったものであればどんな歌でも本当にいいものだと信じ込んで歌っている人たちが意外と多いです。スージーさんは音楽を奏でる側の人でもあるんですが、評論的な言葉で楽曲の構造を解説しています。でも、他のミュージシャンはなかなかやる気にならないんです。ミュージシャンの仲間に、僕が音楽を分析した話をしてもピンときてないですし。逆に僕らは自分の書いたラブソングを本当に信じ込んで歌うことができないんですけどね(笑)。

スージー:だから多分、「愛は勝つ」(KAN)、「どんなときも。」(槇原敬之)「TOMORROW」(岡本真夜)と「負けないで」(ZARD)を、これはカノン進行、同じコード進行なんですって細かく解説しても、気持ちよく聴いてるファンはあまりいい気はしないと思うんです。ただ、そのあたりのことを“人体実験”、つまり楽曲の構造の追究や、「この音楽はなぜ心地良いのだろう」という分析をするわけです。私が、子どもの頃に渋谷陽一の文章を読んだLed Zeppelinのアルバム『Presence』の渋谷陽一のライナーノーツがすごい濃厚で、最後に「全く申し分ないツェッペリンの巨大な音を前に、僕はひたすら自分が開かれていくのを感じる」って終わるんです。いい文章なんですけど、僕はジミー・ペイジのギターの音がこうで、だから開かれる、と書きたい。僕が子どもの頃からずっとミュージシャンは種明かしをしないし、音楽評論家は観念的で情緒的で、なんだか暑苦しいし、“文系ロック”とでもいうべきコミュニティが形成されていた。でも僕は“理系ロック”をしたいというか、理系ロックを語りたい。その第一歩がこの本でできたかなという感じがします。

マキタ:脳みその構造が違うのかわからないですけど、感じたものやキャッチしてきたもの、自分の中で分析してまとめてきたこと。それらを踏まえて分析することにエロスというか、高まりを感じるわけですよ。

スージー:もしくはロゴス。

マキタ:以前、レミオロメンの藤巻(亮太)くんと話したんですけど、思考回路が違っておもしろかったです。彼はサッカーが好きで、ポジションの話をしていたんですけど、「本当に僕って視界が狭いんです」って。藤巻くんはゴールゲッターで、ゴールだったらゴールに集中して、他の余計なものが見えなくなる。「僕はそういうところがコンプレックスだけど、そういう気質なんです」と言っていて、なるほど、と! 藤巻さんはストレートにラブレターを渡せる人だよね。「あなたのことが好きです」って。そういう人だからこそまっすぐラブソングが歌える。僕とかスージーさんはバードアイでみてしまいがち。

スージー:僕たちだったらきっと、サッカー競技場の図面を書いていますね。どうしても「粉雪」はライトウイングからこう入って、「粉雪」の“な”はテンションでシックス(6th)ですよね、って言いたくなってしまう(笑)。

スージー:そういえば、藤巻さんは“山梨ロック界”の方ですよね。THE BOOM、レミオロメン、マキタスポーツって三大山梨ロックミュージシャン。

マキタ:そうですよ、私そうなんですよ、これ書いておいてください(笑)。この本に「メジャーセブンス(maj7)で大人になった気がした」と書いていますが、僕はメジャーセブンスというコードを覚えた瞬間から山梨に海が見えましたから(笑)。

スージー:山国でもこの本を読んだら海が見える。(ワンフレーズを歌いながら)これがメジャーセブンスです。

マキタ:他の山梨ミュージシャン……フジファブリックだ!

スージー:THE BOOMが大きいですね、山梨ロックは。出身地でグルーピングすると、新しいものが見えてくるわけじゃないですか。フジファブリック、THE BOOM、レミオロメンって言われてハッとするものがある。

マキタ「次の世代に渡すのが役割」

ーー番組ではシンガーソングライターの河村唯さん(通称、梅子)が登場することで、若い世代の方とのトークを展開していますが、お二人の話を聞いて『北の国から』が気になってドラマを見てみようと言っていたのが印象的でした。(※書籍P151)

スージー:そういう効果もあるかもしれないですね。この本を読んで若い方が見てみよう、聴いてみようと繋がっていく。

マキタ:おいしくものを食べている人がいたら、同じものを食べたくなったりするじゃん。本当は生姜焼き定食を食べに行こうと思っていたのに、隣の人がとんかつをおいしそうに食べていたら、「とんかつで!」って言っちゃうような感じ。すごく分析的に語っている部分もあるけれど、熱い部分もある。そもそも興奮していなかったら、そういう分析とかしてなかったはずだからね。

スージー:とんかつ定食を、総論としておいしいよって言ってるんじゃなくて、とんかつ定食の横に積まれているキャベツの千切りの仕方を語る、とかね(笑)。そういう話です。

ーー番組で行われているオマージュ企画、レコード大賞ならぬ「輝く!日本カセットテープ大賞」 、「カセットテープ紅白歌合戦」とすごく面白かったです。今後やってみたい企画はありますか?

スージー:たくさんあります(笑)。「カセット24時間テレビ」とか、QVCのショッピング番組の中にたまにギターを弾いて入っていくとか。あとは「27時間テレビ」もありますね。

マキタ:「カセット甲子園」とか! 高校で分けてね。

スージー:「47都道府県出身ロック」で。トーナメント戦で、おそらく準決勝は東京対広島。福岡も強い。

マキタ:本当に甲子園みたいな感じだね、結局(笑)。神奈川と大阪も強そう。

スージー:神奈川! ああ、野球の強豪校はロック校なんだ!

マキタ:東京とか福岡とか神奈川とかが本当に強いかもしれませんね。ロックの歴史の中で、さっき言った出身地で組んだらおもしろい。いやー、広島対東京の決勝戦が観たい。夢の共演になるからね。

スージー:東京出身……先発、佐野元春さんですよ東京は。広島の一番セカンドは奥田民生さん。

マキタ:あはは(笑)。佐野さんいきますか。すごい対決だねそれ。永ちゃん(矢沢永吉)とか、DHででてくるとか。

スージー:奥田民生さんが1番、2番原田真二さん、3番世良公則さん、4番矢沢永吉さん、5番吉田拓郎さん、6番西城秀樹さん! あとは乱闘要員で吉川晃司さんがいますからね。

マキタ:西城秀樹さん、そうか! 広島だ!

ーー乱闘(笑)。

マキタ:吉川晃司さんの乱闘はもったいないでしょ! かっ飛ばせ、かっ飛ばせ、クリーンナップだよ。

スージー:バク転しながら出てきますよ。この広島対東京やりたい。我ながらおもしろい。

ーー最後にこの書籍が気になっている方に向けて一言ずつお願いします。

スージー:日本ロック評論界の、“読ませる分析”です。いままでロックは感覚と感性で語られることが多かったですが、これで一つ理系的な物差しができたんじゃないかと思います。ぜひ一家に一冊。ホテルにもおいていただいて(笑)。

マキタ:若い人にも読んでもらいたいですね。間違えて手にとって欲しい(笑)。でもほら、最近……こんなこと言ったらいけないけど、いわゆる大物アーティストっていないでしょ。もうちょっと時代的に寝かせたら、語るべきアーティストとかも出てくると思うんだけど。我々は、超大物と言えるアーティストがいた、ポピュラーミュージックが急激に豊かになっていった時代を経験している。僕らは世代的にもこれまで語られてこなかった部分をまとめて、次の世代に渡すのが役割だと思っています。若い人たちにも読んでもらって、90年代以降の、例えば浜崎あゆみさんとかを語ってもらってもいいかもしれません。

スージー:「ミニディスク少年時代」っていうコーナーとして、一世代下の人たちが語るとかね。

マキタ:「MD」だったら歴史がちょっとしかないけどね(笑)。

(取材・文=柚月裕実/写真=神保達也)

■発売情報
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(KADOKAWA)
監修・協力 ザ・カセットテープ・ミュージック、マキタスポーツ、スージー鈴木
定価 1,500円
発売日:2018年6月1日(金)
公式サイト

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