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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

COMPLEXの結成~解散を経てソロワーク加速 CD2枚組の問題作『GUITARHYTHM Ⅱ』 後編

毎週連載

第10回

19/7/22(月)

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、この連載ではGUITARHYTHMシリーズを読み解いていく。質量ともに音楽シーンを圧倒した『GUITARHYTHM Ⅱ』を振りかえる後編をお届けする。

─── ゴスペル風にアレンジされた「GUITARHYTHM REPRISE」に魂の浄化、強烈なインパクトを感じました。このようなアレンジでオープニングに起用したのはなぜでしょうか。

布袋 このころスティーヴィー・ワンダーの『シークレットライフ』(1979年)というインストゥルメンタル中心に構成されたアルバムが気に入っていてよく聴いてたんだよね。その影響もあるのかな? また当時のロンドンのオフィスの代表がアラン・パーソンズ・プロジェクトのシンガー(レニー・ザカテク)だったり、『GUITARHYTHM』で英語の歌唱のアドバイザーとして関わっていたジェフ・パターソンもジャマイカ生まれのイギリス人ということもあり、僕の周りには黒人の友人も多く、鋭角的なサウンドアプローチとは対極的な、どこかソウルフルなヒューマニズムが共存していたのは彼らの温かく大らかな人間性に触れた影響も強いと思う。

─── 『GUITARHYTHM II』を語る上でキーとなる楽曲はどれですか。

布袋 壮大な絵巻のような作品なのでどれか1曲に絞るのは難しいけれど、「BEAT EMOTION」は大ヒットしたBOØWYのアルバムタイトルと同名曲であり、言葉の通り「ビートに対する情熱や衝動」を忘れないぞ、という決意と新たなるチャレンジの幕開けを宣言するトラックと言えるだろうね。「DEVIL'S SUGAR」や「SPHINX」のように人間の心に棲む天使と悪魔を描いた曲もあれば「YOU」「FLY INTO YOUR DREAM」のようなビタースウィートなラブソングもある。「PRADISE」のように環境破壊に対する問題定義もあるし「METROPOLIS」や「MAN+WOMAN=Love」「GUITAR LOVES YOU」といった独創的なインストゥルメンタルも入っている。どの曲も独創的だし、2枚組ならではの重厚なスケール感のあるアルバムだよ。

─── 「BEAT EMOTION」は、ハウスビートを取り入れたシンプルなベースのリフにオープンコードを絡めたダンスチューンが刺激的でした。その後、ジーザス・ジョーンズとはライブでも共演もしていますが、音楽的に影響を与え合う関係でしたか。

布袋 EMFの「アンビリーヴァブル」とかヒットした時期だよね。懐かしい。当時のブレイクビーツとロックンロールの融合はとても刺激的だった。今、自分がロンドンに暮らしているからよくわかるけど、遠く離れた極東アジアの日本の人気アーティストから突然共演のオファーがきたらうれしいものだし、海外アーティストとのコラボレーションはそれほど敷居の高いものではないよ。もっとみんな世界のアーティストに接近して影響を与え合えばいいのに、と思っています。ジーザス(・ジョーンズ)のマイク(・エドワーズ)やジグ・ジグ・スパトニックのニールXとはほぼ同年代だし、70年代からのロックンロールの進化の過程を肌で感じあってきたギタリスト同士。いまも交流は続いているよ。

─── 「SLOW MOTION」では、敬愛するロキシー・ミュージックのアンディ・マッケイがサックスで参加しています。経緯やエピソードを教えてください。

布袋 ロンドンのマネージメントから文字通りダメ元でオファーしたら夢のような返事が返ってきた。当日アンディはひとりでソプラノとアルトサックスを持ってスタジオに現れた。あっちのミュージシャンは基本的にマネージャーなんていないから、どんなビッグスターでも基本的にはみんな、ひとりで移動してひとりで仕事して帰るよ。日本みたいにぞろぞろ大名行列みたいにやってたら笑われる(笑)。静かなパッドとブレイクビーツだけの曲だったけど、アンディがサックスを吹いた瞬間にスタジオ中に“アヴァロン”の風が吹いた。ロキシーはブライアン(・フェリー)の声もフィル(・マンザネラ)のギターも個性的だけど、アンディのサックスこそロキシーだったのか! と知り、驚いたよ。アンディとは今も仲がよく、2012年にはアンディ一家を連れて京都旅行をしたよ。憧れのアーティストとの交流は夢のようだし、ギタリストでよかった、といつも思っている。

─── 「ANGEL WALTZ」は、BOØWY時代にアルバム『JUST A HERO』用に作られた曲という噂は本当ですか。

布袋 そう。しかし、あまりBOØWY的な曲ではないからお蔵入りしていたんだ。テープは残してないけど、BOØWYのために書いたけど使わなかった曲は20曲くらいあるよ。作ったけどバンドで演奏できなかったりね(笑)。この曲は森雪之丞さんが、ワルツの旋律に回顧する物語をのせてくれて、モノクロームの映画のような美しい世界を描けた。

─── 壮大なギターソロが今も人気の「FLY INTO YOUR DREAM」が生まれたきっかけは?

布袋 ある日、友人と六本木で飲んだあと、明け方に路上でタクシーを拾おうとしたとき、一匹の猫が他の車にはねられて僕の目の前に飛んできたんだ。痙攣していたけどまだ息があった。僕はその猫をひとりで抱えて広尾の動物病院に連れていったんだけど、残念ながら死んでしまった。亡骸を連れて帰り、翌日弔ったんだけれど、両手に残った小さな命の感覚が忘れられなくてね。この曲は命を天に送るための鎮魂歌なんだ。

─── GUITARHYTHMシリーズにおいてカバー曲はお楽しみでもありますが、デヴィッド・ボウイの「STARMAN」を選んだ理由は?

布袋 高校生時代のアマチュアバンドでもコピーしていた曲。ブレイクビーツとの相性がよかった。スザンヌ・ヴェガの「トムズ・ダイナー」がヒットし、その影響を受けて作った。のちにデヴィッド・ボウイ本人を目の前に歌うことになるとは想像もしなかったよ。デヴィッド・ボウイ・バンドのキーボード奏者のマイク・ガーソンから、デヴィッドは布袋の「スターマン」を気に入っていたよ、と聞き、とてもうれしかった。彼の没後、様々なアーティストがこの曲をカバーしてるけど、僕のバージョンが一番イケてると思うよ(笑)。

─── 本作を受けてのツアー「GUITARHYTHM ACTIVEツアー」はその後の活動において大きな影響を与えたツアーだったと思います。“ACTIVE”というキーワードをタイトルに取り入れた理由、ロンドン公演など、今振り返ってどう感じますか。

布袋 そう、この全国ツアーの成功は大きな自信につながったね。ソロデビューライブは初めてのセンターマイクに戸惑い、ギターと歌のバランスが取れず、ある意味苦い経験となったけれど、ACTIVEツアーではギターを弾きながら歌うコツみたいなものもつかめて、思考に肉体が反応しはじめた。COMPLEXも解散したし、この先ソロアーティストとしてやっていく強い決意が芽生えた。アーティストにとって作品づくりはもちろん大切だけど、それと同じくらいライブパフォーマンスも大切だ。僕は音楽学校に通ったわけではないし、ステージですべてを学んできたからね。ギタープレイのスタイルや、どうやればバンドにうねりを持たせ観客を踊らせることができるか、やはりライブでしか感じ取れないものって大きいから。初のロンドン公演は英国のジャパン・フェスティバルの一環だったけれど、言葉が通じない観客に向かって音で勝負する、いい経験になった。

─── 『GUITARHYTHM II』は、現在の布袋ワークスにも通じる時代を超越したSF的かつロマンティックな世界観を持つ、ジャンルを超えた幅の広い作風が魅力です。過去〜現在〜未来を持つ人生、時間との精神的な闘いを描いた作品だと思いました。『GUITARHYTHM II』とは、これまでのキャリアにおいてどんなポジションに位置付けられる作品ですか。

布袋 ソロデビューはBOØWYの解散後、そして『GUITARHYTHM II』はCOMPLEXの解散後。共に商業的にも大きな成功を収めたあとに、こうした実験的である意味アンチコマーシャルな作品を世に問う勇気があったことを自慢したいね(笑)。僕は常に大衆的でありながらアウトサイドを意識して歩いてきた。ギタリズムは布袋イズム。「常に尖っていたいんだ」という思いは今も変わらないよ。この作品のおかげで、僕は自由になれた。忘れられない大切なアルバムだよ。

当連載は毎週月曜更新。次回は7月29日アップ予定。アルバム『GUITARHYTHM Ⅲ』前編をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。


質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部

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