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『けむりの軍団』上演中の新感線・いのうえひでのりを直撃

ぴあ

19/8/1(木) 16:56

(C)2019『けむりの軍団』/ヴィレッヂ・劇団☆新感線[撮影:田中亜紀]

旗揚げは1980年。結成39周年を迎えた劇団☆新感線は今年、“39サンキュー興行”と銘打った一連の公演を敢行中だ。春公演の生田斗真主演『偽義経冥界歌』に続くは現在、東京・TBS赤坂ACTシアターで上演中の夏秋公演『けむりの軍団』。2016年の『乱鶯』以来、新感線には2度目の書き下ろしとなる倉持裕脚本の“いのうえ歌舞伎”は、39周年にしてなお挑戦に満ち、劇団の様々な可能性を探る痛快作に仕上がった。なお本作は、“いのうえ歌舞伎〈亞〉alternative”の第1作。今後、外部作家によるいのうえ歌舞伎には“〈亞〉alternative”の冠が付き、座付作家・中島かずきが書く王道の冒険活劇との住み分けがされるようだ。『けむりの軍団』開幕から間もない某日、劇団の今後の展望を含め、演出のいのうえひでのりに話を聞いた。(以下、『けむりの軍団』のネタバレが含まれます。)

倉持と初めて組んだ『乱鶯』で、「すごく手応えがあった」と話す。

「『乱鶯』は池波正太郎風味の和事な作品だったので、今度はもうちょっとガチャガチャした感じのものがやりたいなと。こちらからは『隠し砦の三悪人』(1958年公開、黒澤明監督の映画)と『走れメロス』を足したような話がいいなっていうオーダーだけ。『レッツゴー!忍法帖』(2003年)も一応『隠し砦〜』がベースで、それにしては今回とは全然違うけど(笑)、黒澤映画っぽいものは前からちょっとやってみたかったんです。『走れメロス』を加えたのは、タイムリミットがある方が面白いから」

自由度の高いお題に応えた脚本は、『隠し砦〜』をメインに、『用心棒』『椿三十郎』など黒澤映画への新感線流オマージュが詰まった作品に。それを視覚化するいのうえも“映画っぽい”にこだわり、ユニークなアプローチを試みた。

「場面場面が映画のひとコマというか、スクリーンの中で全部行われているようなイメージ。最初スクリーンに映画会社のシンボル的なものがバーンと映し出されて、“終”で締める、みたいな。場面転換の多い脚本で、転換にも割り切ってスクリーン(の映像)を使っています。今までは紗幕を使ったりどこか演劇的な手法を用いていたので珍しいんです、本当に。“悪人”とかキャプションが付いた各人物紹介の映像は『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』なんかのイメージ。音楽も黒澤映画はもちろん、黒澤に影響を受けたジョン・スタージェスの西部劇っぽいと思います。モノクロ映像の一部分だけ色を使うのは、黒澤が多用したパートカラー。普段は歌もの、ネタものでしか使わないド派手な電飾も使っています。自分の中での決め事みたいなものを、“今回はいいかな”って取っ払ったことが多かったですね。今回はフレームを決めるというか、自分の中でひとつ枠組みを作っちゃった方がいいと思ったから。“これは作り物、エンタテインメントの中の話だ”っていう」

彼から出た“フレーム”という言葉を聞いて、いのうえが最近、360°回転する劇場(IHIステージアラウンド東京)で約1年半に渡り演出を手掛けていたことが思い出された。限られた枠の中で表現しようとしたのは、ある意味、開放的すぎた空間での長期体験の反動といえる?

「それは大きいですよ。転換が多いと盆を回すって発想になるけど、“今度は盆を回しやがって”って言われるのがイヤだから、意地でも使いたくねーなっていうのは正直ありましたね(笑)」

いのうえが大胆に試みる“映画っぽい”舞台空間の中で動き回り、キャラを息づかせるのは、看板の古田新太を筆頭に、ほぼ集結した劇団員たち。加えて、“ほとんど劇団員”の常連・池田成志が古田とバディ的な役どころなのも、これまでにない新鮮さと贅沢が味わえる。

その真中十兵衛(古田)と美山輝親(池田)、十兵衛が城へ送り届ける任を負う紗々姫(清野菜名)、その従者・源七(須賀健太)からなる一団に立ちふさがるは、大名の目良家最大の権力者・嵐蔵院(高田聖子)やその家臣・飛沢莉左衛門(早乙女太一)。終盤には最高にアツい見せ場、十兵衛vs莉左衛門の一騎打ちが待ち構える。

「太一の殺陣はやっぱり若手ナンバーワンでしょう。その太一に古田が追い込まれるっていうのが時代を象徴しつつ。かつては古田がビュンビュン動いていた。で、みんな昔のイメージで見てるけど、アイツももう54で26の若者とやり合うのはそりゃキツいですよ。体力の限界だと思う。でもあそこは太一や周りも盛り上げてくれるから、やっぱり頑張ってますよね」

間もなく40周年の劇団自体が“中年”に差し掛かり、劇団員たちは軒並み50代を迎えた。彼ら、そして自分の実年齢という現実に向き合う必要を、いのうえは十分に理解している。肉体を駆使する“活劇”を謳う新感線なら尚のことだ。

「ドタバタのお笑いをやっていた人がだんだんお芝居に移行していくのを見て、昔は自分も“なんだよ”って文句言ってたんですよ。でも歳取ると、自分らもやっぱりそうなるなっていう(笑)。新感線は活劇の劇団としてやっているので、そこはなくならない。ただ今後、かずきさんが書く従来の冒険活劇は基本、若いゲストに真ん中に立ってもらってやっていこうと。そしてもうひとつ(alternative)の、劇団員中心の作品のときは年相応な感じのものをやりたい。完全な世話物にはならないし、活劇の要素はもちろんあるんだけど、“やむなく、どうしても刀を抜かなきゃいけなくなりました”みたいなところに持っていける話を(笑)」

そう聞いて、「新感線も衰えたな」と感じる人がもしいたら、断固として間違っている。(数字的な意味合いで)歳を取ったのは確かだが、集団も作品も何ひとつ衰えてはいない。それは39年目にして新たな扉を開き、これまで無数に生まれた彼らのどの作品とも手触りの違う『けむりの軍団』を観れば明らかだ。劇団☆新感線は、日本の大衆娯楽演劇を牽引するトップランナーであり続ける。

TBS赤坂ACTシアターにて8月24日(土)まで上演し、福岡・博多座、大阪・フェスティバルホールで公演を行う。

取材・文:武田吏都

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