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『スカーレット』『まんぷく』で可笑しみを生み出す 日本を代表する演技者・イッセー尾形

リアルサウンド

19/11/30(土) 6:00

 日本を代表する演技者であるイッセー尾形が繰り出す芸の数々に、思わず朝から笑顔にさせられている方も多いのではないだろうか。朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)にて、ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)の師匠という重要なポジションを担っているイッセー尾形。彼が演じる絵付け師・深野は「ええよ」が口癖の、風変わりで個性の強い人物だ。

 この深野という人物は、その多くの言動からも分かると通り、おそらく脚本の時点で“風変わりな人物”としてでき上がっているはずである。彼は強烈な個性の持ち主だが、キャラ設定が面白いからといって、誰が演じても面白くなるというわけではもちろんない。脚本に書かれていることだけでなく、その行間までをも読解し、そしてそれを確実に表現するための技術がなければならないはずなのである。それはときに“わざとらしく”、“大げさ”なものとして映るが、これは“朝ドラ”という特質もあって、より幅広い客層に伝えなければならないことがあってなのだろう。

【写真】弟子の戸田恵梨香と師匠・イッセー尾形

 振り返ってみれば、ちょうど一年前に放送された朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)にもイッセー尾形は顔を見せていた。彼が演じたのは、“本職は占い師の服役囚”という、これまた奇異なものであった。出番は少ないながらも暗澹たる物語展開に光を与え、弾みをつける役どころだっただけに、彼の姿をよく覚えている方も多いはずだ。こちらでも、先に述べた“朝ドラの特質”を体現する演技スタイルであった。一度見たら忘れられない強い印象を残しながらも、決して物語展開のノイズにならないというのは、一体どういうことなのだろう?

 これを実現するための大きな下地に、彼が“一人芝居の第一人者”であるということがまず挙げられる。一人芝居とはもちろん、一人で舞台に立ち一人で芝居をするというもので、90分から約120分の間、たった一人で大勢の観客の視線を受け止めなければならい。そこで生まれるものは、“演じる”ということに対する批評性なのではないかと思う。それはつまり、演じていながら、それを俯瞰する視点をも同時に持つということである。一人で舞台に立つ間、観客の反応がダイレクトに伝わってくるはずであり、自身の発するものがどのように客席に伝搬していくのかを肌感覚で知っているのではないだろうか。そこではある種の、観客の感情のコントロールというものも生まれていそうである。

 もちろん、イッセー尾形が得意とするのはキャラクター性が強い、分かりやすいキャラクターばかりではない。なかでも、2004年に公開された彼の主演映画『トニー滝谷』で演じた素朴で孤独な男の役は、イッセー尾形のキャリア史上最高のものだと筆者は確信している。“自然な演技”と言ってしまうと陳腐だが、あの人物の実在感は生々しく、漏れ出る声、ピクリと痙攣する表情まで、すべてが演技だとは思えなかったのだ。とはいえ、これらも計算上の演技ではあるのだろう。

 彼の演技に世界中が打ち震えた、『沈黙 -サイレンス-』(2016)での姿も記憶に新しい。巨匠マーティン・スコセッシ監督による本作で演じた井上筑後守は、主人公たちにとって残虐非道な悪役に値するわけだが、その発語、その挙動に多くの者が魅了された。ハリウッド映画であり、かつ時代劇とあって、それら一つひとつの細部にまで、この人物には強いキャラクター性を見出すことができる。『トニー滝谷』では、トニー滝谷という一人の人物にまるで身体を預けるようにして演じているが、一方の『沈黙』では、井上筑後守というキャラクターを造形し、それを演じているように思えるのだ。だからこそ、後者では多少の誇張表現も見受けられるのである。

 また、スコセッシ監督のみならず、ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』(2005)や、台湾のエドワード・ヤン監督による『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)などの海外の出演作品もある。いずれも世界の映画史に名を刻む監督たちであり、彼の存在が、日本国内にとどまらず、世界的な評価を得ていることがここから分かる。そして主演映画『漫画誕生』が本日より公開。見る者を惹きつけてやまないイッセー尾形の演技だが、それを微に入り細に入り観察してみることで、彼が“日本を代表する演技者”である事実に気づかされることだろう。

(折田侑駿)

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