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稲葉友の「話はかわるけど」

目的×障害×ドラマチック【後編】

毎週連載

第112回

目的がハッキリしている人は、多少の障害は物ともせず、未来へ躊躇なく進みます。舞台の成功に向かい、今は集中して物事に臨みたいと語る稲葉さんの、意気込みをお聞きしました。

僕はお芝居をするときに、目的と障害について考える。この役は何々がしたいという目的が絶対ある。そして役の目的の達成までには障害が必ずあって、障害にぶつかるからストーリーがドラマチックになると。そのことをとてもわかりやすく、そして改めて考えさせるドラマがNetflixにあった。「YOU─君がすべて─」というアメリカのドラマなんだけど、少し前にシーズン2まで見終わった。こういうことをしたいという目的に対して、こういう過去があったからとか、何故この人間かこの部分が欠けているのか、ここに固執するのかみたいな理由付けが、とにかく完璧な脚本で素晴らしい。

簡単にあらすじを説明すると、主人公の男が女の子を好きになって彼女の愛を獲得するために様々な手段を駆使していくという話。男は結構なことをするんだけど、彼の心情をあからさまな狂気として描いていないのが特徴的。こうしたいけどこれが邪魔、だからこうして排除する、とか。彼女の気を惹くためにこうするとか。主人公にはロジックがあって、彼の行動はいわゆるストーカーかつサイコパスなはずなのに、気付けば途中から彼がどう障害を乗り越えるのかを期待している。この流れだと彼女の仲の良い友人を排除しなければいけないんだろうなと思ったときに「ダメだよそんなことしちゃ」でなく「どんな方法でやるんだ?」に興味が移っていていくのがまた面白い。

悲惨な行動の理由がただの憎悪だったら共感なんて何もできないけど、愛を獲得するという目的を達成するための手段を遂行するエネルギーを目の当たりにすると、なぜか応援できてしまう。その辺りを踏まえてみると教科書のような脚本でひたすら興味深かった。

主人公がどう障害を乗り越えるのかというところに夢中になったワケだが、これはどんなドラマにも共通する。いわゆるドラマチックと言われるものだけど、ドラマって呼ぶくらいなので、ドラマには全部これがある。大きな目的の途中に障害があって、それにぶつかって、乗り越えて、それが面白い。だから「YOU─君がすべて─」も主人公は倫理的に言えば絶対ダメなことをしまくっているんだけど、そのバックボーンとか、彼を取り囲む人間関係とか、人に対する態度とか、感情とかを全部ひっくるめて見ていると、見守れてしまう。ドラマとしてすごく楽しく見れてしまう。

話は戻って「褒められたい」という欲求は、目的として弱すぎる。もっと大きい目的に向かってちゃんと進んでいかないと、目の前の障害を越えるエネルギーも生まれない。逆に言えば障害を目の前にしても「もっと先に行きたい」というエネルギーがあれば、進むことはできる。エネルギーが弱いと進めないし、きっと周囲も魅了されない。

周囲に応援される人はエネルギーが大きくて、ガンガン進んでいくという印象がある。その感覚を失くしてはいけないんだろうな。褒められたいとか言っている場合じゃないやと。小さな目標というか、細かい欲求は認めつつ、もっとスケールが大きくないと、僕は周囲を引き込めるドラマチックで面白い人間に映らないんだと思った。メディアでのおしゃべり、舞台の参考で読んだ本、プライベートで見たドラマ、そんな3つが最近繋がって自分自身の設定をもっと大きくしなければと危機感を持った。

他と対比して無理して生きていこうって意味じゃないけどね。「大学行く人は全員、東大を目指せ!」って理屈は違うじゃない。その先のために何かに特化した大学を選んだりするわけだし。目的が大きくなくてもその目的に対する集中力が高ければエネルギーは高まったりもする。大きい目的だから素晴らしい、大きくなきゃダメだとは思わないけど、自分の設定した目標に対する集中力が上がれば短いスパンでもいい循環になるのかなと。

今の自分の場合、舞台を無事にやり遂げるという目的があると、日々の集中力や気にしなければいけないことが変わってくる。普段との生活との違いにストレスを感じることもあるけど、意外とイケるもんだなあいうのが今の実感。衛生面や体調面に気を使うのも誰かに褒められたいからでなく、自分がそうしたいからしている。そうじゃないとサボってしまうよね。

観て頂きたい舞台が今稽古で積み上がっております。引き続き気張ります。それでは。

次回の更新は3月3日(水)です。お楽しみに!

プロフィール

稲葉友(いなばゆう)

1993年1月12日生まれ、神奈川県出身。
2010年、ドラマ『クローン ベイビー』(TBS)で俳優デビュー後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。
主な出演作に、ドラマ『仮面ライダードライブ』(‘14~’15 EX)、『MARS~ただ、君を愛してる~』(’16 NTV)、『ひぐらしのなく頃に』(’16 BSスカパー!)、『レンタル救世主』(’16 NTV)、『将棋めし』(’17 CX)、映画『ワンダフルワールドエンド』(’15)、『HiGH&LOW』シリーズ、『N.Y.マックスマン』(’18)、『私の人生なのに』(’18)、舞台『すべての四月のために』(’17)、映画『春待つ僕ら』(’19)『この道』(’19)など。
J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金曜11:30~16:00生放送)ではレギュラーパーソナリティ―を務める。

撮影/奥田耕平、取材/藤坂美樹、構成/中尾巴、ヘアメイク/速水昭仁、スタイリング/添田和宏
衣装協力/ジャケット¥42,000、ニットガウン¥25,000/ともにアタッチメント
リボンシャツ¥25,000、パンツ¥28,500/ともにクルニ(すべてシアン PR TEL:03-6662-5525)
シューズ¥25,000/クラークス オリジナルズ(クラークスジャパン TEL:03-5411-3055)
その他スタイリスト私物
※すべて税抜き価格

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