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映画『女たち』篠原ゆき子 インタビュー「ストレスをためない生き方」

ぴあ

撮影:源 賀津己

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『浅田家!』『罪の声』という話題作に出演し、女優としても女性としても、成熟した魅力を放つ篠原ゆき子。6月1日に公開された映画『女たち』では、毒母の介護や、恋人の裏切り、大切な人を失う喪失感で、八方ふさがりとなる主人公を熱演。そんな彼女に制作秘話や、逆境の乗り越え方など深い話を伺った。

女優としても女性としても、成熟した魅力を放つ篠原ゆき子。

2020年は『浅田家!』『罪の声』という話題作に出演し、12月に公開された主演映画『ミセス・ノイズィ』も高く評価され、ロングラン上映された。さらに『モータルコンバット』(6月18日公開)ではハリウッドデビューを果たす。

そしてもう1本、彼女のキャリアにおいて勝負作となりそうな主演映画『女たち』が6月1日(火)より公開された。

『女たち』 6月1日(火)全国公開 ©「女たち」製作委員会

本作は、『ソナチネ』(93)、『GONIN』(95)などで知られる奥山和由のプロデュース作品。篠原が演じるのは、自然豊かな田舎町で、体の不自由な母・美津子(高畑淳子)と二人暮らしをする美咲役だ。

心のよりどころとなるのは、養蜂場を営む親友・香織(倉科カナ)と、結婚の約束をしている直樹(窪塚俊介)の存在だった。

劇中でコロナ禍という地続きの日常が描かれる本作。

罵詈雑言を浴びせる毒母の介護や、恋人の裏切り、大切な人を失う喪失感で、八方ふさがりとなる美咲をはじめ、いろいろなことにもがいてストレスに押しつぶされそうになる“女たち”の葛藤は実にリアルで、決して対岸の火事とは思えない。

そんな女性が共感せずにはいられない等身大の人間ドラマを、新鋭・内田伸輝監督のもと、脚本段階から参加した篠原を直撃。

制作秘話と共に、コロナ禍においての気付き、行き詰まったときの乗り越え方についても語ってもらった。

撮影:源 賀津己

コロナ禍での撮影で感じたこと

―—篠原さんにあて書きされたオリジナル脚本の映画化作品ですが、どんな経緯で参加されたのですか?

きっかけは、プロデューサーの奥山さんから「一緒に映画を作り上げることができる監督とゼロからやってみては」とご提案していただいたことです。

内田監督とは『おだやかな日常』(12)でもご一緒させていただいたのですが、役者の意見を広く取り入れてくださる方で、お互い信頼関係もありましたし、撮影の斎藤さんは内田監督の奥さまでもあるのですが、私の親友と親交が深く、そういうご縁もあいまって、本作に参加させていただきました。

―—脚本作りから参加するというのは、女優としては本望なやり方ですね。

はい。1年間、美咲について考えてきたので、いつのまにか自分のなかに美咲のエッセンスが入り込んでいて、特に役作りはしなかったです。

ただ、脚本作りの段階で、突然コロナ禍となり、「コロナを無視して撮影するのは難しいね」という話になりました。それでコロナを交えての物語にすることになったのですが、撮影まであまり時間がなくて。

でも、内田監督にとっての脚本は、旅行に行く上でのガイドブックのようなものだそうで「その場で生まれるものを一番大事にしてほしい」と言われたので、全然脚本どおりではなかったです。

『女たち』 6月1日(火)全国公開 ©「女たち」製作委員会

―—撮影に入られたのは、昨年のいつ頃でしたか。

7月です。当時、撮影が出来るかできないかの瀬戸際でしたが、奥山プロデューサーが「やってみましょう」と賭けに出られた感じでした。

ですから、撮影に入れたという喜びと共に、誰かが感染したら止まってしまうという緊迫感があり、だからこそ、意地でも“今”を焼き付けようというみなさんとの結束感をすごく感じました。

みんな裏でいろんな孤独を抱えている

―—美咲と親友の香織が、草原でワインを飲みながら語り合うシーンが素敵ですが、それだけにその後で起こる悲劇が切なかったです。

いわゆるLOHAS的な暮らしぶりがいいですよね。でも、そんな素敵な暮らしをしているのに、実は裏でいろんな孤独を抱えているというのが、すごく現代的だなとも思いました。

―—結婚を約束していたはずの恋人に二股をかけられたと知った美咲が、恋人宅に忍び込みます。見つかりそうになった時、思わず手にした鍋蓋で顔を隠すという身も蓋もないシーンが笑いを誘いました。

あれは脚本にありましたが、面白いシーンでしたね(笑)。

内田監督作の『ふゆの獣』(11)でも、男と女の三角関係や四角関係で、追い詰められた男女の滑稽さみたいなものが描かれていて、私はその作品も大好きだったので、ぜひそういう要素を入れていただきたいと監督にお願いしました。

美咲に問い詰められた直樹の言い訳もすごくダサくて、最高です(笑)。

あれは演じた窪塚俊介さんのアドリブも混じっていましたが、撮影していてすごく楽しかったです。

『女たち』 6月1日(火)全国公開 ©「女たち」製作委員会

―—高畑淳子さん演じる毒母もすさまじかったですね。

実は、本読みの段階では、あそこまで体が麻痺していて、ろれつが回らない設定ではなかったんです。

高畑さんが、自分は健康体に見えるし、強そうだから、そういう麻痺がないと、介護の重圧感が感じられないんじゃないかと、内田監督に提案してくださいました。

高畑さんはいろいろと調べて役作りをされたと思うんですが、初めて目にした時は、鳥肌が立ちました。そんな高畑さんのただならぬ演技を拝見して、私も気が引き締まりました。

―—毒母にののしられる美咲のフラストレーションが、ひしひしと伝わってきました。

今回は、共演者が高畑さんや倉科さんといった実力派の俳優陣の方々だったので、自分はとりあえずノープランで入り、みなさんのお芝居を受けることをすごく意識しました。

だから親子のシーンでは、高畑さんのすさまじいパワーにすごく助けていただきました。

撮影:源 賀津己

毒母を介護して、わかったこと

―—実際に役を通して、介護を経験してみていかがでしたか?

美咲役を演じるにあたり、いろいろな体験本やブログなどを読みましたが、優しくて愛情深い人ほど苦しんでしまう傾向があるのが本当に切なくて。

恐らく、適度に力を抜ける方なら、もう少し抜け道があると思いますが、一生懸命になりすぎてしまう人ほど、介護しているうちに家族を手にかけてしまったり、心中をしてしまったりするという事例がいくつもありました。

また、介護が女の人だけに委ねられがちということにも違和感を覚えつつ、すごく難しい問題だなと思いました。

実の母親の介護ですらあんなに大変なのに、お姑さんとなるともっと難しいんだろうなと。でも、劇中のサヘル・ローズさん演じるヘルパーさんのように、他者に入ってもらうことは、すごく大切だなと感じました。

『女たち』 6月1日(火)全国公開 ©「女たち」製作委員会

「大丈夫」という声がけは難しい

―—美咲と香織が「大丈夫」と声を掛け合うシーンも胸に染み入りました。

「大丈夫」という言葉も難しいですね。いろんな境遇の方がいると思うし、ただでさえギリギリの状態で頑張ってこられた人が、コロナで道を閉ざされたと思い込むこともあるでしょうし。

でも、たぶんすべてが閉ざされたわけではないと思うんです。いつか絶対に「あの時はああだったね」と言える日が来ると思うので。

―—篠原さんご自身は、コロナ禍のステイホーム期間中、心境の変化などはありましたか?

家族とは密にならざるを得なかったので、以前よりももっと近いものになったというか、居心地のいいものになったかなとは思います。

以前は友達や役者仲間と外へ出かけたり、飲んで息抜きをしたりしてきましたが、コロナでそれができなくなりました。

夫は自分と全く違う職業の人ですが、いつの間にか仕事の話もできるようになり、意外とそれが良かったのかなと。

撮影:源 賀津己

―—そういう点では、ステイホームがプラスに働いたのですね。

私自身、ぐーたらして過ごすのは嫌いじゃないので、心が沈むことはあまりなかったほうだと思います。自分だけではなく、みんな仕事がなくて、正々堂々と休みを取れている感じはありました。

もちろん、そんなことを言っていられない方々もたくさんいらっしゃったと思いますし、自分もことごとく映画祭や撮影など、やりたかったことがどんどん飛んでいったので、そこはすごく悔しかったです。

行き詰まったときの、乗り越え方とは?

―—本作に出演したことで、篠原さんご自身はどんなメッセージを受け取りましたか?

人に助けを求めるとか、自分の弱さをさらけ出すことはすごく大事だなと、改めて思いました。

命をつなぐため、最後の最後にそれをすることができれば、人は変われる気がします。女の人はとかく自分を幸せに見せたいと思ってしまうこともあるから、なかなか難しい気がしますが、きっと誰だって何かを抱えているとも思うんです。

本当に行き詰まったら、発狂してでもいいので、弱みを晒しまくれば、意外とそこで助けてくれる人がいるはずです。

撮影:源 賀津己

つらい時だからこそ、大事なこと

―—篠原さんご自身は、弱音を吐けるタイプですか?

私は本当に出せないタイプでした。それはプライドなのか何なのかわからないんですけど、今回の撮影ではそこを吐き出して、高畑さんをはじめ、みなさんにすごく助けていただきました。

また、最近も、いろいろと他のお仕事で落ち込んだことがありましたが、試しにその時、弱音を吐いてみたんです。

そしたら家族や事務所の皆さんさんたちが助けてくれました。これはいいなと、今は味をしめてしまった感じです(笑)。でも、コロナ禍だからこそ、周りの人に甘えてみるのはアリだなと、心から思いました。

『女たち』 6月1日(火)全国公開 ©「女たち」製作委員会

人生においてのつまずきはきっと誰もが経験していくこと。

渦中にいる時は苦しすぎて、自分だけが突き放されたような感覚に陥ってしまうけど、見渡せば自分への愛情や救いの手があるということを、この映画は気づかせてくれる。

葛藤しながら、小さな希望をつなげようとする女たちから、ぜひ勇気をもらっていただければ幸いです。

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