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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

コロナ禍の1年。映画興行は『鬼滅の刃』の年だった。が、それ以上に洋画不在の年となってしまった。『パラサイト』で好調な出だし、だったのだが…。

毎月29日掲載

第28回

20/12/29(火)

「 劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

全く、コロナ禍によって、想像を絶する年になった。「想像を絶する」。ときにオーバーにも感じるこの言葉が、何の誇張も違和感もなく、今は使える。その2020年の映画界、今回もいつもどおり、そのなかの映画興行について書く。それも洋画中心だ。まずは、以下の数字を見ていただこう。作品別の最終興収順位である(2019年11月末~2020年11月中旬公開作品対象、数字は一部推定)。ちなみに、今年の国内の映画興収は、推定で1350億円あたりとなる見通し(正月作品の興行によって、数字は変わる可能性がある)で、これは昨年の52%ほどにあたる。よく、ここまで踏ん張ったとは言えるが、それは『鬼滅の刃』というとてつもない作品があったからという以外ない。

☆邦画 興行収入ベスト10

① 劇場版『鬼滅の刃』無限列車編 350億円〜
② 今日から俺は!!劇場版 53億7千万円
③ コンフィデンスマンJP プリンセス編 38億4千万円
④ 映画ドラえもん のび太の新恐竜 33億5千万円
⑤ 事故物件 恐い間取り 23億5千万円
⑥ 糸 22億4千万円
⑦ 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 21億円~
⑧ カイジ ファイナルゲーム 20億6千万円
⑨ 劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅲ.spring song 19億5千万円(現時点)
⑩ 僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング 17億9千万円

☆洋画 興行収入ベスト10

① アナと雪の女王2 133億7千万円
② スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 73億2千万円
③ パラサイト 半地下の家族 47億4千万円
④ TENET テネット 27億2千万円
⑤ キャッツ 13億5千万円
⑥ フォードvsフェラーリ 9億6千万円
⑦ ジュマンジ ネクスト・レベル 9億3千万円
⑧ 2分の1の魔法 8億7千万円
⑨ 1917 命をかけた伝令 8億4千万円
⑩ ミッドサマー 7億1千万円

ここでは『鬼滅の刃』には触れない。多くの映画館の救世主であったことは間違いないが、2020年は、この作品だけではない。とくに触れたいのは洋画である。国内における韓国映画の最大ヒットになった『パラサイト 半地下の家族』にしても、配給会社の営業担当者は、この作品の存在自体がすでにかなり以前の感じがしてならないと言っていた。これは象徴的な言葉だろう。考えてみれば、今年の映画界最初のトピックは、『パラサイト~』だった。もはや、誰も語らない。忘れられたようだ。コロナ禍以前にもあった情報の消費速度の速さが、恐ろしいほどに進んでいる。もちろん、『パラサイト~』のみの話ではない。このような情報の尋常ではない速度感は、映画だけではないコロナ禍が露わにした一側面だ。洋画の作品の10本を見て、何を思うだろうか。このような作品が、今年はあったのである。改めて、胸に刻んでもらっても罰はあたらない。

映画界希望の星、『TENET テネット』は大ヒットしたのだが、あとが続かない!

『TENET テネット』(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

『鬼滅の刃』の年であった以上に、今年は洋画不在であったことが身に染みてならない。4月上旬から中旬にかけて、緊急事態宣言が地域限定から全国に及んでいく過程で、映画館の休業が全国的に広がった。この苦しい期間を経て、徐々に営業を再開していったのが5月下旬以降だ。洋画は、米国の公開延期を経て、軒並み公開できなくなった。もちろん、単館系興行の作品はあったが、ここでは全国公開規模の作品を指す。そんななか、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』が、6月12日から公開された。映画館再開後の全く興行の見通しが読めない時期である。これは、配給会社の大英断であった。本来なら100スクリーン以下となるだろう本作は、スタート時、何と300スクリーンでの公開規模となった。その時点では、作品の数が限られていたから、映画館側からオファーが相次いだのである。

ただ、興収は3億4千万円にとどまった。残念ながら、やはり限定劇場マーケットの枠を超えられなかったと言えようか。宣伝費も抑えられていたから、悪くはないのだが、コロナ禍は、興行に明らかな影響を与えていたとは言える。スタジオジブリの旧作の健闘を経て、邦画の大ヒットが7月に2本登場したが、洋画はほとんど音なしだった。米国や欧州で感染が広がっていくなか、公開延期がさらに相次ぎ、それは日本でも同じことだった。『ムーラン』など、いきなり配信される作品も登場し、8月21日公開のピクサー『2分の1の魔法』が苦戦するなか、あくまで映画館にこだわりを見せたクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』が公開されたのが9月18日だ。映画館で映画を見ることの醍醐味が、この国の人々にある程度届いたのだろう。彼の作品としては、『インセプション』(35億円)に次ぐ27億2千万円を記録する大ヒットになった。ただ、映画館の休業が続く米国では思うような成績を上げられず、米映画界希望の星であった『TENET~』のあとが続かなかった。

12月上旬、その『TENET~』の製作・配給元であるワーナー映画が、来年の新作17作品について、米国での劇場公開と配信を同時に行うと発表するに及んで、米映画の行方はますます混沌としてきた。これは、「映画と配信」の兼ね合い、せめぎ合いが、米国をはじめとした世界の映画界の避けて通れない中心的な課題になってきたことを示す。このような事態は、映画界の生命線である映画館産業という当たり前であった経済基盤そのものを揺るがすことにつながるかもしれない。すでに米国の興行会社は、深刻な事態を迎えている。日本映画界は、邦画があるから大丈夫ということでは全然ない。邦画だけで、国内の映画産業が成立することはないからだ。間違いなく、米映画界の影響を直接的に受ける。来年早々、「映画と配信」元年がやって来る。コロナ禍のなか、大激震となった世界の映画産業にとって、まるで次元の違う大激動の時代の到来である。




〈おしらせ〉連載「大高宏雄 映画なぜなぜ産業学」は今回が最終回です。皆様、ご愛読ありがとうございました!(編集部)

プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

映画ジャーナリスト。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイ(デジタル)などで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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