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桜田通が信じ続ける、コミュニケーションが生み出す希望 「人との関わりにおいて、思考を停止させたくない」

リアルサウンド

20/10/8(木) 12:00

 俳優・アーティストの桜田通が、9月2日にファンクラブ「Sakura da Space Society」の開設を記念した配信ライブを行った。配信ライブでは、主演映画『ラ』の劇中歌「鼓動」から、オリジナル曲「きっと今日より」まで全13曲を披露。人と会って話すことや、ライブハウスに集うこと……いままで当たり前だったことを制限されうつむいた背中を、「明日はきっと今日より輝くよ」と歌う桜田の声がやさしくなでた。

 アミューズ所属の俳優で初めてファンクラブを開設した桜田。サイトには、ファンとつながれる仕掛けが多数用意されており、今後も進化を続けていく予定だという。初の配信ライブで感じた可能性から、ファンクラブオープン後の心境、俳優としてのスタンスまで、彼の「いま」をじっくり語ってもらった。(東谷好依)

喜びをいくら重ねても損はない

ーー今年2月末に予定していた『Sakura da Festa 2020 〜Starting of a New World〜』(以下、サクフェス)の最終公演が、新型コロナウイルスの影響で中止になりました。中止を決めたときの率直な気持ちを教えてください。

桜田通(以下、桜田):結論から話すと、中止すること自体は平気だったんです。大分前から中止に関する話合いをしていたし、最終的な決断は僕に委ねられていたので。でも、ファンの皆さんは「中止」と知らされる瞬間まで、期待と不安が入り交じった気持ちでいるじゃないですか。だから「中止を伝えること」は、つらかったですね。何しろ経験のないことだったから、いま振り返ってみても、あのときの感情をはっきりとつかめないというか……。ひとつ言うなら、最終的に中止を決めたのは、何か大きな力に負けた気がしています。芸能界というのは、より多くの思想が集まるほうを”向かなきゃいけない雰囲気がある”世界だと思っているので。それから、ライブに来てくれるお客さんのことを考えてみて、わずかでも不安があるなら強行はしたくないなと思いました。それが、中止を決めた理由の全てですね。

ーー今回のライブ中に「配信ライブをやるつもりはなかった」と話されていました。サクフェス中止から半年の間に、どういった経緯で配信ライブを行おうと決めたのでしょうか。

桜田:僕はこれまで、お客さんの目の前に立って、直接音楽や言葉を届けられることがライブの醍醐味だと思っていたんです。だから、配信ライブをやったところで、誰にとってもプラスになるとは思わなかったんですよ。そこから、ゆるやかに考えが変わっていきました。きっかけとして最も大きかったのは、ファンクラブの開設です。ファンクラブについては、実はコロナが流行する前から進めていた企画だったんですけど、本当に会えなくなってしまったときに「いまこそファンクラブが必要じゃん」と思って。事務所の方と相談して、スピードを上げて作り上げていきました。そうやって、ファンクラブの完成が見えてきたときに、何かサプライズがほしいと思ったんです。後付けのような形で配信ライブの開催を決めて、自分のモチベーションをかき集めましたね。

ーー開催を決めるまでに、何か大きなドラマがあったわけではなかったんですね。

桜田:そうです。ただただ、目の前の状況に対応していった結果、生まれた企画でした。でも、一度決めてからの心の込め方は、尋常じゃなかったですね。僕は、喜べることが1つあると、そこにオプションを色々付けまくる習性があるんですよ(笑)。友だちの誕生日にも、プレゼントを平気で3つくらい買っちゃうんです。喜びをいくら重ねても損はないから。生きていると、悲しいことや悔しいこと、我慢しなきゃいけないこと、ムカつくことがたくさんありますが、それらを覆せるくらい、喜びをまとめてぶつけたいと思っているんです。ファンクラブ限定グッズを、ファンクラブの本オープンと同じ日に発表したのも、それが理由ですね。本来なら、もっと後に発表したほうが、グッズを作るチームも楽だったんでしょうけど。なるべく同じタイミングにぶつけようということで、皆でちょっとずつ無理をし合いました。そこにNetflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』の発表が重なったのは、嬉しい偶然でした。

ーーライブの開催を決めた後、バンド練習をされたと思いますが、過去の楽曲と向き合う中で気づいたことはありますか?

桜田:歌っていて感じたのは「2、3年前に作った曲を、なんで今日も心を込めて歌えるんだろう」ということでした。例えば「きっと今日より」には、〈空を超えても君へ届けよう〉っていう、いまの状況をそのまま表したようなリリックがあって。配信ライブのときも「これは、まさにいまの気持ちだな」って思いながら歌っていました。誰しも、いまは色々な場面で、生き残るために必死な状況だと思うんです。仕事でも人間関係でも、もっと大きな人生という括りでも。そんな極限のような状態でも、過去に作った楽曲の力強さは衰えていなくて、「これまで伝えてきたことは間違っていなかったんだな」と安心しましたね。

――いまだからこそ、メッセージ性がより強まるリリックが多いと感じました。個人的には「会いたい」の〈会いたいなんて言わない〉という部分が、心にずしんと響きましたね。いまは、会いたい人に気軽に会えない状況なので。

桜田:すごいですよね! 僕は「会いたい」のDメロが好きなんです。〈距離の分だけ恋しさは〉なんて、まさにいまのことじゃんって思います。なんなんでしょうね……すごく不思議だし、僕も自分の楽曲に救われました。

ライブは現場で生まれるもの。あらかじめ用意された感動はいらない

ーー今回の配信ライブは、1回の動員数で考えると、過去最大の人数が集まったサクフェスといえるでしょうか?

桜田:そういう言い方もできますね。ファンクラブ限定にしなければ、さらに多くの方に見てもらえたかもしれません。ただ今回は、不特定多数の人よりも、一段階深く僕の言葉を受け止めてくれる人たちに、ライブを届けたかったんですよ。あと、これはライブ中にも話したことですが、通常のサクフェスは、遠くに住んでいたり健康上の理由があったりして来られない方もいらっしゃって。そういう方にも観てもらえたのは、配信ライブならではの良さでしたね。

ーーカメラワークやバンドの配置も凝っていて、最後まで飽きさせない工夫が満載でした。

桜田:この業界にいると、配られたカードでしか戦えない状況にたびたび出くわすんです。だから僕は、人よりも、限られた状況を楽しむことに長けていると思うんですよ。むしろ、マイナスに思える状況を全部プラスに変えていくことが、僕にとって楽しい生き方なんです。今回もそう。配信ライブって、ステージ上で演奏して、それを固定カメラで撮影する人が多いですよね。そのやり方を否定はしないし、ひとつの正解の形だと思うんですけど、僕はそうしたくなかった。だから、演出チームや撮影チームと話し合ったときに、頭の中で考えていたことを全部提案しました。今回の会場は、渋谷のduo MUSIC EXCHANGEでしたが、duoって柱が2つあって「ジャマな柱」って言われているんですよ。あ、僕はそこも含めてduoが好きなんですけどね(笑)。そういった要素を考えたときに、演出を工夫すれば、その柱すらカッコ良くなるじゃんって思ったんです。それを伝えたところ、演出チームの方やカメラチームの方が「じゃあ、通くんとギターとベースの方はステージの上、ドラムやキーボードやマニピュレーターの方は床で演奏すれば、向かい合えるね。でも、そうすると段差ができちゃうから、床に台を置いて高さを調整すればいいんじゃない?」って提案してくださったんです。「そうすれば、客席の真ん中にカメラが入れますね」「上からクレーンでも撮れますね」って、イメージがどんどん具体化していきました。

ーー桜田さんが提案したことに対して、プロの方がより良いアドバイスを返してくださり、今回のライブができ上がっていったんですね。

桜田:今回、実は、ドームライブの演出をやっているようなすごい方々に入っていただいたんです。僕が無茶な提案ばかりするから、マネージャーさんが「すみません、すごく大規模なことを頼んじゃって……」って恐縮していたら「こんなの、全然大掛かりじゃないですよ」ってあっさり言われて。ああもう、すげー勝てないなと思いました(笑)。その言葉を聞いて、甘えられるところは甘えようと決めましたね。その代わり、僕はビジネスとして赤字にならないようにしっかり発信する。そして、チケットを買ってくれたファンの皆もしっかり幸せにする。全員が「この配信ライブに関わって良かったな」って思えるライブにしなきゃいけないと、気が引き締まりました。

ーー今年4月に、マニピュレーターの板井直樹さんと一緒に作った曲を「うたつなぎ」としてTwitterにアップされましたよね。今回、あの曲をセットリストに入れなかったのはなぜですか?

桜田:1曲丸々できていなかったし、配信ライブまでに完成させるのは間に合わないと思ったからですね。あと、歌ったら感動的だとは思ったんですけど、それがわかりすぎて嫌だったのもあります(笑)。ライブは、その瞬間に生まれた感情を届けるからこそ、意味があると考えているんです。通常のライブのときも、僕はテレビやSNSでは言えないようなことを好き勝手に話すんですが、それは、チケットを買ってわざわざ来てくれた人しかその場にいないから。それほど信頼しているファンの皆に向けたライブで、あらかじめ用意された感動は必要ない。だから、今回は、うたつなぎの曲をセトリに入れませんでした。あの曲は、皆に本当に会えるときが来たら歌いたいなと思っています。

ーー写真集『The 27 Club』のインタビューで「皆、自分の中のフィルターをとっぱらってライブ会場に解放されに来ている」とおっしゃっていました。今回は、家でそういった体験ができたなと思います。

桜田:今回の配信ライブは、すごく実験的だったんですよね。画面の脇にコメント欄が用意されていたじゃないですか。もしも「直接会えるライブじゃなきゃ物足りない」っていう感想が多かったら、今後はその方向で考えようと思って。だけど、ライブ後に感想を見てみたら、通常のライブと同じように情熱を燃やせている人たちが多かった。それを目にして、今回のレベル以下のものさえやらなければ、今後も配信ライブをやっていいんだと思えたんです。そういう意味で、今回の配信ライブは有意義なものだったし、今後も形を変えながら続けていくという目標ができました。

『今際の国のアリス』は深いメッセージをたたえた作品

ーー先日、アミューズが、誹謗中傷、デマ情報、憶測記事に対する声明を出されましたよね。芸能事務所があのような声明を出すのはインパクトがありましたし、世の中が変わっていく時期なんだなと感じました。

桜田:悲しんだ人や傷付いた人が残していった影響を正しく受け取って、世の中が少しでもいい方向に動けばいいですよね。「自分以外の人は不幸になれ」って心から思っている人はいないって、僕はまだ信じているので。これからは、俳優も個人の生き様が問われる時代になっていく。僕もいま、事務所の方と、プロダクションとアーティストの関係性とか、そういうことを話し合っています。お互いにとっていい未来を探すために、皆で手を貸し合っていると感じます。

ーーコロナ以降、エンターテインメントのあり方が急速に変わってきています。俳優としては、今後どのような見せ方をしていきたいですか?

桜田:自分がどこまで先を見て行動できているかわからないんですけど、作品に出る権利が、より争奪戦になることは明らかだと思っているんです。単純に、作品を作るために必要なスポンサーが少なくなってきていますよね。そうすると、大きなお金をかけられる作品が限られていくから、作品数がめちゃくちゃ減るはずなんです。今後も争奪戦には勝負していくけれど、どういう作品に出て何を伝えたいかっていうことに、いままでより焦点を絞っていかなきゃいけないと思っています。いままでは、キャリアを見据えて作品を選んだり、あやふやなチャンスに懸けてみたりする瞬間もあったんですけど。これからは、もっと鋭い視点を持って、自分にとっても観てくださる方にとっても、意味のある作品を選んでいきたいです。

ーーよく役者さんが“いい作品”に出たいっておっしゃるじゃないですか。人によって定義の異なる言葉だと思いますが、桜田さんにとって“いい作品”ってどんな作品ですか?

桜田:見てくださる方の心に波をどう立てるか考え抜いた上で、皆で協力して作っていく作品が、僕にとっての“いい作品”ですね。特に最近は「なぜこの作品を作るのか」「どこに向けて作りたい作品なのか」「見た人にどう感じてほしいのか」を重視しています。ちょっと怖いシーンや、人を傷付けるシーンがあっても、観た人がその作品から何かしらメッセージを受け取って、前向きに消化していけるかが大事だと思っています。

ーー12月10日にNetflixで配信予定の『今際の国のアリス』は、いい作品ですか?

桜田:いい作品です(きっぱり)! 原作の最終話を読んだときに、本当に強いメッセージを持つ物語だと感じました。作品としてのメッセージは、シーズン1だけでも十分伝わると思います。続編が作られるかわからないですけど、もしシーズン2、シーズン3……と続いていって、形は違えども原作の最終話と同じメッセージを描けるのであれば、これからの時代にすごく刺さる作品になるんじゃないかな。メッセージが深すぎる作品ですけど、物語の本質が多くの方に届くと嬉しいです。

ーー楽しみですね。今回のインタビューで「ファンの皆」という言葉が多く出てきましたが、ファンクラブ「Sakura da Space Society」は、今後どのように進化していくのでしょうか?

桜田:従来のファンクラブって「チケットが優先して買えて、たまにレポートが上がります」みたいな容れ物でしたけど、僕がファンクラブを通じてやりたいことは、それとは異なっていて。先輩とか……佐藤健氏がYouTubeチャンネルで色々な企画をやっていますが、あれを見ていて思うのは、俳優もさまざまなプラットフォームを使って、個々に発信する時代になるんだなっていうこと。参加させてもらった「TAKERU NO PLAN DRIVE」もそうですけど、プラットフォームを上手に使えば、ファンの方と深くつながれる瞬間が増えると思います。僕にとってその基地となるのが、ファンクラブなんです。いままで「こうあるべき」とされていたルールとかしがらみみたいなものは、一旦脇に置いて、皆が平和で正しく生きられる場所を生み出したいと考えています。

ーーより多くの人に見られることが「正解」ではない?

桜田:そうですね。僕のことをなんとなく知っている100万人より、僕を深く知ってくれている10万人のほうが大事。もっとはっきり言うと、僕がいま一番大事にしているのは、ファンの皆さんなんですよ。僕の中ではもう、ファンっていう枠を超える存在ですけど。めちゃくちゃ視聴率がいいドラマに出て知名度を上げることも大事ですし、出られる権利があるなら、それはありがたく出させていただきますけど。でも、何かを選択したり、発信したりするときは、身近な人たちのことを一番に考えてやっていきたいと思っていて。それを続けていけば、いつかその人数が100万人になるって信じています。

ーーファンの皆さんとの良好な相互関係が築けるといいですよね。アーティストとファンが影響を与え合うことで、良質なコンテンツが生まれると思うので。

桜田:そういう意味でいうと、いまおかしな現象が起きていて……。最近、なぜか媒体主催のランキングに入れていただくことが多くなっています(笑)。そういうのって、僕が載りたいと言ったところで載れるものではないじゃないですか。僕のことを知って、なんかいいなと思った人たちが、押し上げてくれているんですよね。それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、照れくさくもありっていう。これまで芸能界で言われていた「売れていく」「影響を与えていく」っていう文脈とは違うあり方を、ファンの皆と一緒に見つけていきたいなと思っています。

ーー最後に、これだけは伝えておきたいということがあればお聞かせください。

桜田:これは以前から言っていることなんですが、「人にやさしくあれ」と伝えたいですね。僕も知らないうちに人を傷付けているかもしれないし、「これは違うんじゃない?」と思うことには、たとえ言い合いになったとしても声を上げていきますけど。時々、ファンの方から「通くんはああ言っていたけど、私はこう思います」ってメッセージをいただくことがあるんです。そういうメッセージを見て「確かに言葉が強かったかもしれない。ちょっと謝らなきゃ」と思ったときは、ファンクラブを通じて「さっきは言い方が強かったけど、実はこういう思いがあって……」と、対話を重ねていきたい。オンラインでもオフラインでも、人との関わりにおいて、思考を停止させたくないんです。自分の思考が伝染していけば、あるとき全く別の思考と交わることがある。そういった、人と人とが生み出す希望のようなものを、信じ続けていきたいですね。

『Sakura da Space Society』
桜田通 オフィシャルサイト

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