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エド・シーラン、勢い止まぬ『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』音楽ライター2氏が全曲解説

リアルサウンド

19/9/27(金) 19:00

 エド・シーランが、ジャスティン・ビーバーやブルーノ・マーズ、エミネムら22人の大物ミュージシャンとコラボしたアルバム『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』(7月12日リリース)は、アメリカ、イギリスのアルバムチャートで1位を獲得。リリースから2カ月弱となる8月30日には、ストームジーとのコラボ曲「テイク・ミー・バック・トゥ・ロンドン」がUKシングルチャートで1位を記録するなど、長きに渡り親しまれるエド・シーランの新たな代表作の一つとなっている。今回リアルサウンドでは、音楽ライターの森朋之氏と黒田隆憲氏による本作の全曲クロスレビューを行った。まだまだ勢いが止まらない各楽曲を深く聴き込むためのガイドとして活用してほしい。(編集部)

M-1「ビューティフル・ピープル(feat.カリード)」

 2ndアルバム『フリー・スピリット』が全米アルバムチャートで1位を記録。今年の『コーチェラ2019』のステージにビリー・アイリッシュ、マシュメロなどが登場したことでも話題を集めた1998年生まれのR&Bアーティスト・カリードをフィーチャーしたこの曲は、〈We are,We are,We are〉というチャントからはじまるミディアムチューン。ドープなキック、ハンドクラップ、浮遊感のあるシンセを軸にしたトラックとともに描かれるのは、“セレブリティの生活にどうしても馴染めない僕たち”の姿だ。オープンカー、ブランドの服、シャンパンに溢れたセレブに囲まれながらも、“もう帰ろう 僕らはそうじゃない 美しくない”と歌うこの曲には、エドとカリードの本心が反映されているのだろう。しなやかでスムースなグルーヴを響かせるカリードのボーカルもこの曲の大きな聴きどころだ。(森朋之)

Ed Sheeran – Beautiful People (feat. Khalid) [Official Video]

M-2「サウス・オブ・ザ・ボーダー(feat. カミラ・カベロ & カーディ・B)」

 ウッディなシンセサウンドと、歯切れ良いアコギのカッティングが有機的に混じり合うオリエンタルなループフレーズに乗せて歌われるこの曲は、キューバはハバナ生まれでフロリダ州マイアミ出身のシンガーソングライター、カミラ・カベロ(元Fifth Harmony)と、ストリートギャング「ブラッズ」のメンバーやストリッパーの経験を経て2017年にデビューを果たしたヒップホップアーティスト、カーディ・Bとのコラボ曲。ちなみにカミラもカーディも今年のグラミー賞に複数ノミネートされ、授賞式にも出演しパフォーマンスを披露している。実は、エドとカミラのコラボはこれで2度目。彼女のデビュー作『カミラ』に入るはずだった最初の曲「ザ・ボーイ」は残念ながら未収録となったため、本人たちにとっても双方のファンにとっても、これは悲願の1曲といえよう。何か起こりそうな予感に満ちたメロディと、歯切れの良いラップのコントラストが印象的だ。(黒田隆憲)

M-3「クロス・ミー(feat.チャンス・ザ・ラッパー & PnB ロック)」

 シカゴ出身のチャンス・ザ・ラッパー、フィラデルフィア出身のPnB ロックという、現在もっとも大きな注目を集めているラッパーとの共演が実現した先行シングル。トラップ以降の新たな潮流を予感させるトラック、ポピュラリティと先鋭性を併せ持ったふたりのラッパーのフロウ、そして、エドの超キャッチーなメロディセンスがバランスよく共存したヒップホップナンバーだ。シカゴソウル、フィラデルフィアソウル、イギリスのフォークロアが混ざり合うことで生まれる、豊穣で奥行きのあるハーモニーがこの曲の軸だろう。リリックのテーマはずばり“俺の女に手を出すな”。彼女は浮気なんかしない、彼女を裏切ることは俺を裏切ること、俺がいつもそばにいるんだ、わかるだろう? とけん制し合い、ときに脅すようなやり取りも刺激的(そして、ちょっとカワイイ)。(森朋之)

Ed Sheeran – Cross Me (feat. Chance The Rapper & PnB Rock) [Official Video]

M-4「テイク・ミー・バック・トゥ・ロンドン(feat. ストームジー)」

 今年の『グラストンベリー・フェスティバル』でヘッドラインを飾ったストームジー。バンクシーが特別に制作したというユニオンジャック柄の防刃ベストを身に纏い、全英チャート首位を記録したデビューアルバム『ギャング・サイン&プレイヤー』からの「ブラインデッド バイ ユア グレイス Pt.1」では、クリス・マーティン(Coldplay)とデュエットするなど圧巻のパフォーマンスを見せつけた彼が、この曲では得意の早回しラップを披露している。これに先駆けエドとストームジーは、ラッパーのレッチ 32やエーオン・クラークとともに、ゴスペル色の強い名曲「ブラインデッド バイ ユア グレイス Pt. 2」をアコースティックバージョンでカバーしYouTubeで配信するなど交流を深めていた。ストリングスのピチカートをフィーチャーしたスリリングなグライムトラックの上で、ストームジーに負けじと“組んず解れつ”の高速ラップに挑戦するエドにも注目。(黒田隆憲)

Ed Sheeran – Take Me Back To London (Sir Spyro Remix) [feat. Stormzy, Jaykae & Aitch]

M-5「ベスト・パート・オブ・ミー(feat.イエバ)」

 アコースティックギターとピアノを中心としたオーガニックなサウンドとともに奏でられるのは、“僕のいちばんいい部分(BEST PART OF ME)は君なんだ”という純粋にして誠実な愛の言葉。女性側の“一体、どうしてこんな私を?”という思いを含めて、本作におけるもっともピュアなラブソングだ。ゲストシンガーのイエバはアメリカ中部のアーカンソー州出身。マーク・ロンソンの「ドント・リーブ・ミー・ロンリー」、サム・スミスの「ノー・ピース」などにフィーチャーされたことでも知られる女性シンガーソングライターだ。エド自身が彼女のオリジナル曲に感銘を受け、自らのレーベルに迎え入れたとあって、両者の相性は抜群。生楽器を活かしたアレンジ、素朴で奥深いハーモニーなど、カントリーミュージックの魅力をたっぷり堪能できる楽曲である。(森朋之)

Ed Sheeran – Best Part Of Me (feat. YEBBA) (Live At Abbey Road)

M-6「アイ・ドント・ケア(with ジャスティン・ビーバー)」

 朋友ジャスティン・ビーバーとのコラボ曲。ご存知の通り2人の共作はこれが3度目で、これまでにジャスティンの「ラブ・ユアセルフ」を共に作詞作曲、ジャスティンがデンマークのシンガーMØ(ムー)と共にフィーチャーされたメジャー・レイザーの「コールド・ウォーター」に、エドもコンポーザーとして参加するという形で実現してきた。女優セリーナ・ゴメスへの「決別宣言」でもあった「ラブ・ユアセルフ」はグラミー賞にノミネート。他にも、ジャスティンがドタキャンしたウェンブリー・アリーナでのチャリティーコンサートにエドが代役で出演したり、ジャスティンの新作カウントダウンビデオにエドが登場したりと浅からぬ間柄の2人。そんな彼らによる久しぶりのコラボ曲は、強烈なシンコペーションのリズムに乗せベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」と同じコード進行を繰り返す中、どこか切なく懐かしいメロディを仲良く歌うポップチューンだ。(黒田隆憲)

Ed Sheeran & Justin Bieber – I Don’t Care [Official Video]

M-7「アンチソーシャル(with トラヴィス・スコット)」

 出身地であるヒューストンを中心にサウスへの愛着をダイレクトに示したアルバム『アストロワールド』のヒットにより、世界的なブレイクを果たしたトラヴィス・スコット。現在もっとも有名なセレブリティのひとりであるカイリー・ジェンナーとの結婚、ナイキとのコラボスニーカーも話題となっているトラヴィスをフィーチャーしたこの曲は、サウスの代名詞とも言えるトラップ系のヒップホップナンバー。バウンシーなビートとソウルフルなボーカル、濃密なグルーヴをたたえたフロウがひとつになった快楽的なトラックだ。歌詞の内容は(曲名通り)、“俺に触るな。ほっといてくれ”。アルコール、ドラッグとともに“ひとりの夜を過ごしたい”と願うーーその根底にあるのは、どうしても拭い去ることができない孤独だ。(森朋之)

Ed Sheeran & Travis Scott – Antisocial [Official Video]

M-8「リメンバー・ザ・ネーム(feat. エミネム & 50 セント)」

 2017年にリリースされたエミネム通算9枚目のアルバム『リバイバル』は、ポップミュージック寄りのアーティストとの異色のコラボが話題となったのも記憶に新しい。中でもエドが参加した「リバー」は、不貞を行なった青年の心情をエドが歌い、その青年の彼女がエミネムと浮気して中絶するまでの壮絶な復讐劇を、ミュージックビデオとリンクさせて表現するという衝撃的なものだった。今回、50セントことカーティス・ジェームズ・ジャクソン三世と共にコラボを行なった「リメンバー・ザ・ネーム」は、跳ねるようなリズムに乗った、不穏でジャジーなトラックの上で、“東京”、“ナイン・インチ・ネイルズ”、“バレンシアガ”といったワードを散りばめながらギャングスタ風のラップを交互に披露している。ちなみにエミネムは今年7月にトゥイッケナム・スタジアムで開催された自身のステージに、エドと50セントを招待。3人で撮影されたセルフィーも話題となった。(黒田隆憲)

M-9「フィールズ(feat.ヤング・サグ&J・ハス)」

 アトランタ出身のソングライター/ラッパーのヤング・サグはチェイルディッシュ・ガンビーノの「ディス・イズ・アメリカ」にバックコーラスとして参加。ロンドン出身のラッパー/シンガーであるJ・ハスは、UKのグライムシーンを牽引するストームジーのデビュー作『ギャング・サイン&プレイヤー』に参加。US、UKのヒップホップをリードする2人を招いたこの曲は、ロンドン(グライム)とアトランタ(トラップ)の土地の匂いが混ざり合う、ハイブリッドな楽曲に仕上がっている。両者の特徴をしっかりと引き出しながら、斬新なトラックに導くエドのプロデュースセンスはまさに絶品。魅力的なコラボレーション楽曲が揃った本作のなかでも、特に注目すべきナンバーだろう。イカした女の子にノックアウトされ、“人生をかけて待っていた気持ち(Feels)が、いまここに!”というリリックに濃密なグルーヴを与えるラップのテクニックにも刮目すべし。(森朋之)

M-10「プット・イット・オール・オン・ミー(feat. エラ・メイ)」

 アイリッシュの父とジャマイカ系の母のもとに生まれ、エラ・フィッツジェラルドにちなんで命名されたロンドン出身のシンガー、エラ・メイ。2017年にはケラーニのツアーでサポートアクトを務め、昨年はジェイ・Z&ビヨンセの『On The Run II』ツアーLA公演や、ブルーノ・マーズ『24K MAGIC』ツアーのサポートアクトに大抜擢。同年リリースされた1stアルバム『エラ・メイ』はわずか2週間足らずでゴールドセールスを記録、今年のグラミーでも主要部門を含む2部門にノミネート(最優秀R&B楽曲賞を受賞)するなど、今や押しも押されもせぬ存在となった彼女とのコラボは、たった3つのコードを延々と繰り返しながら、徐々に盛り上がっていくメロウなR&Bチューン。透き通るようなファルセットと、ゴスペルにも通じるパワフルな地声を巧みに使い分けるエラと、彼女を引き立てながら美しいハーモニーを重ねるエドのパフォーマンスが絶品だ。

M-11「ナッシング・オン・ユー(feat.パウロ・ロンドラ&デイヴ)」

 エミネムの映画『8マイル』をきっかけにヒップホップに傾倒した、アルゼンチン出身、1998年生まれ(現在21歳)の気鋭のラッパー、パウロ・ロンドラ、そして、悪名高きサウスロンドンのストリータムで育ち、音楽的素養と知性を合わせ持ったデイヴを召喚した「ナッシング・オン・ユー」は、このアルバムのハイブリッド性を象徴するナンバーだ。ラテントラップ系のトラック、それぞれの生まれ育ちと音楽的背景を反映したラップ、“きみは最高で、しかも何も着ていない”というラインに象徴されるセクシー全開のリリックのバランスも最高。魅力的な女性との一夜をテーマに3人がリリックを書くというオーソドックスなスタイルの楽曲だが、それぞれのルーツとバックグランドが有機的絡み合い、音楽的な多様性をたっぷりと感じることができる。(森朋之)

Ed Sheeran – Nothing On You (feat. Paulo Londra & Dave) [SBTV]

M-12「アイ・ドント・ウォント・ユア・マネー(feat. H.E.R.)」

 2016年にEP『H.E.R. Vol. 1』でデビューし、翌年にリリースされた1stアルバム『H.E.R.』で全米R&Bチャート8位を記録。ストリーミング数10億回を超え、今年のグラミー賞では主要2部門を含む5部門にノミネートされた、現在22歳のR&BシンガーH.E.R.。ファンキーなエレキギターに導かれ、地を這うようなシンセベースとチープなハンドクラップが絡み合う中、憂いを帯びた彼女のソウルフルなボーカルが舞う。音数を削ぎ落としたシンプルな前半から徐々に盛り上がり、中盤では高らかに鳴り響くブラスセクションと、何声にも重なっていく彼女のコーラスが壁のようなサウンドスケープを構築する。が、曲のエンディングまで終始クールネスをたたえているのは、抑制の効いたエドのメロディラインによるところが多い。バーストしそうなギリギリのところでステイさせるアレンジセンスが、繰り返し聴きたくなるこの曲の中毒性を担っているのは間違いないだろう。(黒田隆憲)

M-13「1000ナイツ(feat.ミーク・ミル&エイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディ)」

 シックな手触りのビート、酩酊感をもたらすシンセのエフェクトを軸にしたトラックとともに綴られるのは、ニューヨークからロンドンへ、毎日違う街で続けられるツアーのなかで生まれる感情。眠れないまま移動を繰り返し、スタジアムでライブをやって、疲労困憊で、どれだけ稼いだかもわからない……というラインを淡々と、しかし、どこまでも快楽的なフロウによって描き出している。〈ME and Meek and Ed Sheeran、Just like the Beatles〉というフレーズもキャッチーだ。服役後、最初のアルバム『チャンピオンシップス』(2018年)が全米1位を記録したミーク・ミル、2ndアルバム『フーディ・シーズン』をヒットさせたブロンクス出身の23歳の新鋭ラッパーエイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディによるバッドボーイオーラたっぷりのラップもきわめて刺激的。(森朋之)

M-14「ウェイ・トゥ・ブレイク・マイ・ハート(feat. スクリレックス)」

 本アルバム中、最も美しいメロディを紡ぎあげたのは意外にもスクリレックス。Aメロ、Bメロでは音数の少ないメロディが循環コードの上でリフレインされ、その切ない響きが胸をかきむしる。そしてサビになると、駆け上がるようなキャッチーなメロディの応酬。その一方で、コーラスをたっぷりかけたノスタルジックなギターカッティングと、アグレッシブなキック&ベースが鮮やかなコントラストを生み出すあたり、やはりスクリレックスの真骨頂といったところだ。実はエドとスクリレックスは今から5年前、アッシャーも交えて一度コラボを試みたことがある。結局その曲は今もお蔵入りとなったままだが、2人の交流はずっと続いていたという。2017年にシカゴ公演を行なった際には、スクリレックスと共に地元のクラブを訪れたエドが、飛び入りのDJ&ダンスを披露した姿も目撃されている。(黒田隆憲)

M-15「ブロウ(with ブルーノ・マーズ&クリス・ステイプルトン)」

 ネオソウル、ディスコリバイバルのムーブメントとともに世界的スターに上り詰めたブルーノ・マーズ、ケンタッキー州出身で、ジャスティン・ティンバーレイクとの共演でも知られるカントリー系シンガーソングライター、クリス・ステイプルトン。まさに異色の2人だが、こういうジャンルを超越したバランス感覚こそが、エド・シーランの真骨頂であり、このアルバムの核になっていると言えるだろう。プロデュースはブルーノ・マーズが担当。豪快なギターリフ、ブルースを経由した爆発的なバンドサウンドは、まるで全盛期のLed Zeppelinのよう。王道のハードロックのなかで3人は、エモーショナルなシャウトを響かせ、アルバムのエンディングを飾っている。“狙いを定めて、君を打ち抜いてやる”的なマッチョイズム全開の歌詞も、この大仰なサウンドにぴったりだ。(森朋之)

■総括

 YouTubeにアップされているラジオDJのシャーラメイン・ザ・ゴッドのインタビューのなかでエド・シーランは、「君が最初に磨き上げたものは?」という質問に対し、「性格だよ」と即答している。「だって、何の魅力もない赤毛のジンジャーのちびっ子にできることなんて何があるんだ?」「面白くて好感の持てる人間になることしかできないさ」と。

 まずは魅力のある人間になるべきだという考え方は、彼の音楽活動の根底を支えているのだと思う。自分自身の音楽的ルーツ(フォーク、ロックンロール、ヒップホップ)を大事しながら、興味を惹かれた音楽に最大限のリスペクトを持ち、オープンマインドで幅広いアーティストとつながるーーそのスタンスから導かれた最大の成果が、本作『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』だろう。音楽的なスキルと独創性、幅広い音楽に対する理解の深さはもちろんだが、“エドと一緒にやりたい”と思わせる人柄こそが、彼の才能の本質。東京ドーム公演での徹底したサービスぶりからもわかるように、エドはとにかく“いいヤツ”なのだ。(森朋之)

■リリース情報
No.6 Collaborations Project / No.6 コラボレーションズ・プロジェクト
発売:2019年7月12日(水)
価格:¥1,980(税抜)

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