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井川遥×若葉竜也が『おちょやん』に残したもの 朝ドラが描くさまざまな夫婦の形

リアルサウンド

21/3/28(日) 6:00

 千代(杉咲花)と一平(成田凌)が身寄りのない15歳の少年、松島寛治(前田旺志郎)を預かり、面倒を見始めた『おちょやん』(NHK総合)の第16週。面倒見のいい千代が何かと寛治の世話を焼き、「お母ちゃん」と呼ばせようと躍起になっているところへ突然現れたのが高城百合子(井川遥)と小暮真治(若葉竜也)だった。

 千代にとって百合子は憧れのスター女優というだけでなく、人生の節目に何の前触れもなくやってきては心の迷いを吹き飛ばす特別な存在である。女中奉公を始めたばかりの千代は芝居小屋をのぞき見て、そこで『人形の家』のノラを演じる百合子の美しさと情熱的な演技に圧倒された。

 そして、年季明けの将来について自分のやりたいことが何かを考える千代の前に、いきなり黒いマントを振り払って百合子が現れたのが第12話。大山社長(中村鴈治郎)から舞台役者から映画に転向するよう命じられ、反発して逃げていた百合子を千代が岡安にかくまったのだった。

 千代は、百合子が演じた『人形の家』の一節をそらんじ、台本を読みたくて字を覚えたことを伝えた。そのときの「そんなにお芝居が好きなら、自分でやってみたら? 一生一回、自分の本当にやりたいこと、やるべきよ」という百合子の言葉が千代を女優の道へと導いたともいえる。

 そんな百合子と千代の初恋の人であり、鶴亀撮影所を去るときに千代にプロポーズした小暮が結婚していたとは千代も驚きを隠せない。なかなか脚本が認められず、一度は映画監督になる夢を諦めて実家の病院を継ぐ決心をした小暮だったが、再び芝居の世界に戻り百合子と一緒になった今は無精髭で髪も伸び、落ち着いた大人の男といった風情だ。お酒に弱く、優しい話し方はそのままだが、千代と別れてからの8年の歳月を感じさせる。

 権力に屈しない百合子は、その瞬間の自分の気持ちに正直に生き、過去にも他人にも縛られない。上品なアクセサリーやスカーフで華やかな印象を与えるが、基本は黒いドレスに黒のロングコートで誰にも何にも染まらない黒が彼女のテーマカラーになっている。

 ピュアで理想を追い求める小暮と情熱的な百合子は商業的な成功よりも芸術性に価値を置く点でも通じるところがあり、『銀河鉄道999』のメーテルと鉄郎を彷彿させるビジュアルもお似合いだ。「この世には、いくら頑張っても日の目を見ない人がたくさんいる。そういう人たちを励まし、勇気づけられるような作品を僕はつくりたい。芝居の力で一生懸命生きている人たちが平等に報われる、そういう世の中に変えたいんだ」という小暮に一平は共感するが、一平が目指しているのは普通の家族連れが泣いたり笑ったり楽しめる喜劇だ。

 「戦争に乗じてお涙ちょうだいするような、客に媚び売るような芝居、私はしたくないの」「受ければそれでいいの?」という百合子に対して、千代が「うちは喜劇役者だす。せやさかい、お客さんに喜んでもらえたらそれでよろしいねん」とキッパリ答えるように、千代と一平はつらい日常を忘れて喜んでもらえる芝居を第一に考えている。

 百合子は「女優同士が分かり合う必要なんてないわ」と言ったが、夫婦も同じで完璧に分かり合う必要はないのだろう。いろいろな夫婦の形があるし、根本的に目指すところが同じだと信頼感が増すだけのこと。百合子と小暮は日本にいる限りやりたい芝居ができず、焦燥に駆られソ連に向かおうとしていた。百合子も小暮も「この人しかいない」という気持ちで手を取り合い、危険な道を選んだのだ。

 千代と一平と対照的な百合子・小暮夫婦の存在が登場したことで改めて千代が女優として成長していること、一平が芝居をつくる上でどんな視点を取り入れているのかが浮き彫りになった。百合子と小暮を見送り、彼らへのはなむけの芝居をしたこと、寛治を新しい家族として迎える決意をしたことで千代と一平の間に強く確かな絆があり、2人にしか分からない共通の思いがあることも伝わった。

 朝ドラにはさまざまな夫婦が登場し、それぞれに葛藤を抱えながらも成長していく姿が描かれる。同じ夢を持ち、互いに深く理解し合い、愛し合っていたからこそ別れが訪れた『スカーレット』の喜美子(戸田恵梨香)と八郎(松下洸平)。「夫婦ノート」に書いた目標を実現し、相手を思いやるがゆえにすれ違う2人が切なかった。喜美子が売りたいものを作るのではなく「自分の作りたいものを作る」ことに没頭して、陶芸家として前に進むほど、八郎との関係が変化していく。

 そこで波乱万丈な人生を歩む喜美子の結婚の問題を描くだけでなく、喜美子とは対照的な存在ながら、つねに喜美子を支える親友の照子(大島優子)や妹の百合子(福田麻由子)の結婚観、夫婦のやりとりを丁寧に見せることで、さまざまな愛のかたちがあることを再認識させてくれた。

 丸熊陶業のお嬢様として育った照子は、家業の跡取りを迎えるためにお見合いで敏春(本田大輔)と結婚した。無愛想で冷たい印象を与える敏春のことを嫌っていたが、結婚後の照子は堂々と惚気、夫婦円満ぶりを発揮。経営者としても尊敬できるだけでなく、包容力もあり、わがままな照子への気遣いも忘れない。ネットでは「トシャールさん」と呼ばれ、夫婦の微笑ましいエピソードが話題になっていた。

 また、3人姉妹の末っ子で甘え上手ながらしっかり者の百合子は、幼なじみで兄のように慕っていた信作(林遣都)と結婚し、穏やかな家庭を築く。トラブルメーカーの父、常治(北村一輝)と姉たちの激しいバトルを幼い頃から見て育った百合子は家族思いで周囲への気配りを忘れない女性に成長し、信作にとっても特別な存在になっていった。ずっと兄妹のような関係だったが、常治の死をきっかけに「この人しかいない」という思いが強くなるものの、結婚の挨拶がなかなかできず意識するようになってから時間をかけて結婚に至る。幼なじみで気づいたらいつもそばにいた相手と結婚し、一緒に過ごすのが当たり前となった日常に幸せを感じる百合子のような人生もまた素敵だなと思わせてくれる。

 愛情の感じ方が人それぞれ違うように、理想とする愛もそれぞれのかたちがある。千代と一平の愛のかたちがどう変化していくのかも含めて、人生の機微を映し出すドラマがどう動いていくのか気になるところだ。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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