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何がSFラブストーリーを成立させた? 『九月の恋と出会うまで』高橋一生と川口春奈の“瞳”の名演

リアルサウンド

19/3/8(金) 12:00

 大切な人を想うがあまり、強く傷つけてしまうこともある。切ない嘘を乗り越える2人が瑞々しく描かれたSFラブストーリー『九月の恋と出会うまで』は、そんな恋心のジレンマを深く描いた作品であった。

【写真】高橋一生と川口春奈の共演シーン

■SF? ファンタジー映画?

 タイムリープを題材に恋愛要素を盛り込んでいく複雑な作品ながらも、鑑賞者が主人公の2人と一緒にロジックを追いかける構成で、安心して物語に没頭できる。タイムパラドックスについての理論的説明も劇中でなされ、複雑なストーリーに置いていかれない工夫がされていた。

 また、ファンタジー映画を観ているようなファンシーな要素も多い。SFを扱った本作が無骨でロジカルにならない所以は、衣装や美術に隠されていた。登場人物の嗜む芸事や、着ている衣装のかわいらしさ、住んでいる家の外観、シャボン玉が舞う校舎など、現実からはかけ離れた突拍子のなさがあるが、リアリティの欠如で集中力を欠くほどではない。むしろ、こういった”世界観”の徹底された様子が、より作品のSF的な要素に没入できる重要な役割を担っていた。リアルを追求するがあまり、設定が浮いてしまうこともなく、バランスよく描かれていたのだ。

 本作が扱うタイムパラドックスとは、時間を遡って過去の出来事を変えてしまった時に、現代で起こる矛盾のことを指す。有名なものに「親殺しのパラドックス」というものがあり、子が自分が生まれる前の親を殺すことで子が生まれなくなって起こる矛盾を説明したものだ。タイムパラドックスは、SF作品をよりドラマチックに彩り『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などでも扱われた題材である。

 劇中で平野を演じたのは高橋一生、そして北村には川口春奈が抜擢された。一見、年の差を感じさせる2人であったが、リードするようなはっきりとした口調の川口と、引っ込み思案な高橋の芝居はバランスがよく観ていてテンポが良かった。以下、重要なシーンのネタバレになるため注意していただきたい。

■高橋一生と川口春奈の涙の演技

 物語は、北村が未来の平野から語りかけられ、北村の身の危険を回避するように仕向けてもらうところから始まる。しかし、平野の行動でタイムパラドックスが生じてしまうので、その矛盾を解消するために奔走する。“未来の平野”と名乗った人物が本当に平野だったのか、“未来の平野”になって北村を救ってくれる人は見つかるのか、そんなシーンで現在の平野は北村にキツい嘘をつく。自分はもう北村とは関わりたくないし、“未来の平野”にもなれないと。平野に淡い恋心を抱いていた北村はボロボロと大粒の涙をこぼす。

 川口はショックのあまり傷つく女性をまっすぐな瞳で演じた。さらに高橋は、そんな平野の切ない嘘に心を痛め、部屋で号泣するシーンがある。どちらの涙も、力強く豪快で、心の底から傷ついた様子が手に取るようにわかった。そんな涙に誘われて、思わず一緒に泣き出してしまった観客も多かったのではないだろうか。しかし最後に2人はタイムパラドックスを解消し、結ばれる。盛大なロジックのネタバラシと共に浜辺できつく抱きしめ合う2人はとても美しく、心を打つ。

 悲しいだけの物語ではなく、2人の心が惹かれ合う様子が丁寧に描かれグラデーションのように広がる。北村が平野に惹かれていく様子は手に取るようにわかるし、平野もまた北村に惹かれていく理由がわかる。SFの恋愛物語となると、情報が多すぎて恋愛描写への集中力を欠くケースもあるが、ロジックはしっかりと説明され心ゆくままに作品に浸ることができる。誰かを心から愛することに背中を押される映画だ。

(Nana Numoto)

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