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坂本慎太郎が若手アーティストに与えた影響ーーTempalay、東郷清丸の最新作より考える

リアルサウンド

19/7/11(木) 7:00

 先日、坂本慎太郎の新曲「小舟(Boat)」が、8月に7インチ/デジタル配信でリリースされることが発表された。表題曲は書き下ろしの新曲で、ほかにはコーネリアス「未来の人へ(Dear Future Person)」のカバーを収録、ゲストボーカルにはゑでぃまぁこんのゑでゐ鼓雨麿(Gt/Vo)が参加しているとのこと。馬車馬のごとくライブやリリースを続ける活動ではないが、絶妙なタイミングで世の中に名前を出し、絶妙な手法で話題をさらってみせる。とても坂本慎太郎らしいなと感じたものだ。

 彼が2010年までやっていたゆらゆら帝国は、強い影響力を持つロックバンドだった。ユニークすぎる音楽性は簡単に真似できるものではないが、個としての存在感、強烈な独自性にあやかりたいと思うのは自然なこと。きのこ帝国の“帝国”がここから取られたというエピソードを筆頭に、ゆらゆら帝国が好きだった、あんなふうに乾いたサイケ感を出したいと語るバンドをこれまで相当数見てきた。今だってYouTubeで衝撃を受ける10代がいるだろう。ただ、当の坂本慎太郎は、もうすっかりバンドの世界から遠ざかっている。

ゆらゆら帝国 『空洞です』

 彼のソロ活動はライブを前提とせずに始まった。3人や4人で再現できるバンドサウンドである必要がなく、曲によっては自分で歌わずに女性ボーカルや多重コーラスを入れるし、リズムはコンガやギロ、手拍子であってもいい。そういう自由の中でひとつひとつの音を選択するところから始まった曲作り。始動時に行った筆者とのインタビューでは、曲作りのイメージとして「夏休みの最初の日に目が覚めた感じ」と語っていた。長年率いたバンドに幕を下ろし、いよいよもうやることがない、すべてが虚しくさえ感じられる。そんな気持ちになってもなお興味の持てる音。ごく自然にワクワクできる音。当時はそこが出発点だ。

 もっとも、最初のシングルが『幽霊の気分で』である。少年が元気に駆け出していく夏休みのイメージと、坂本の言語感覚にはかなりの齟齬があるだろう。ただ、聴けば納得するのだが、たとえ幽霊の話であっても曲には陰湿さがない。底抜けに明るくはないが、暗く沈むものが何もない。ヘンテコに見える歌詞でも実際の言葉は悪目立ちせず、むしろ音楽とスッと溶け合うよう、語感まで丁寧に考え抜かれているのがわかる。そして、アゲアゲとは違うけれど、自然に体を揺らしたくなるリズムとメロディがある。つまり、ものすごく自然に踊れるのだ。

「雰囲気とかじゃなくて、本質的にいいもの、本当に素敵なもの。たとえば好きな人たちが何人かいて一一女性って意味じゃなく、男でも年下でも年上でもいいんですけど。世の中に何人かいる好きな人たちが、いい感じのバーに集まってて、そこにいるハコバンが軽い演奏をした時にみんながワッとノレる、そんな空気。みんな普段は踊ったりハジけたりもしない、思慮深い人達なんだけど、今日は軽くハメ外して軽く踊ってしまう、みたいな音」(『音楽と人』2011年12月号より)

 当時行った筆者とのインタビューで説明されたこのイメージが、今も坂本慎太郎ソロのテーマであろう。ジャンルではなく、ましてや思想やメッセージでもなく、純度の高い音の質感だけを求めた、その果ての「素敵なもの」。それはリバーブをかけすぎただけで崩れるくらい絶妙なバランスで成り立つのだが、聴いていて全然耳が疲れず、「ここのサビで爆発!」みたいな作為をまったく感じず、自然な恍惚感がずっと続くのは事実。ソロ7年目にして初めて行われたライブ現場で、本当にフロアの後ろの後ろまで人々が踊っていたのには驚いた。暴れたがりのキッズではない。みな分別のありそうな紳士淑女である。軽くハメを外すつもりが本当に最後まで踊り続けてしまった彼、彼女たちの笑顔たるや。思えばその光景は、呆然とステージを見つめるばかりだったゆらゆら帝国時代のライブよりもフィジカルなのである。

君はそう決めた ( You Just Decided ) / 坂本慎太郎 ( zelone records official )

 そんな坂本慎太郎のDNAを感じさせる作品が、今年になっていくつか飛び出してきた。ひとりは東郷清丸。デビュー作『二兆円』では理解を超えるアイデアの量に驚かされたが、新作『Q曲』を聴くと、彼が優れたシンガーソングライターであり、坂本と同じく「本質的にいいもの/素敵なもの」に貪欲な人であることが伝わってくる。曲によってはヒップホップやエレクトロニカの要素を導入するから手法は違うが、どんなサウンドでも下品にならず、かつ、「軽くハメを外して踊れる」音になっていることが重要。一度踊り出せば恍惚とするくらい気持ちがよく、かつ、作り手本人の熱い思いとかメッセージがばっさり切り落とされているところは、限りなく坂本慎太郎に近いと思う。

東郷清丸 – L&V (MusicVideo)

 さらにはTempalayの最新作『21世紀より愛を込めて』。以前はもっとストレンジなバンドという印象だったが、AAAMYYY(Vo/Syn)加入後はとろけるようなサイケ要素が強まり、音や言葉の選び方もなめらかに、どこか不気味でありながらエレガントである、という方向に変わってきた。ポップなのに底抜けな明るさがなく、脱力気味なのに気持ちよく踊り続けられる。そんなスタンスにも坂本慎太郎の美学と通底するものがある。時に尖ったノイズなども飛び出すところは、さすが、バンドの勢いと若さを感じるのだけれど。

Tempalay “どうしよう” (Official Music Video)

 そう、東郷清丸もTempalayもまだまだ若い。20代の彼らが坂本慎太郎作品からヒントを学び、新しいアプローチを加えてはポップミュージックを面白くしていく。これは、ゆらゆら帝国の存在感に憧れるロックバンドが今もいる、という話とは根本的に違うものだ。まずジャンルがない。不定形ゆえに自由な新時代のポップス。そこで坂本慎太郎のDNAは、のびのびと育ち続けている。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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