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坂元裕二脚本『リモートドラマ Living』がファンタジーになった理由 制作統括・訓覇圭に聞く

リアルサウンド

20/5/30(土) 16:00

 NHKで5月30日の夜11時30分から2週連続で2話ずつ放送される『リモートドラマ Living』は、15分の短編4話からなるオムニバスファンタジーだ。

 ある小説家(阿部サダヲ)が喋るドングリ(声:壇蜜)に叱咤激励を受けて想像を膨らませた4作の主演を務めるのは、第1話が広瀬アリス×広瀬すず、第2話が永山瑛太×永山絢斗、第3話が中尾明慶×仲里依紗、第4話が青木崇高×優香(声)と、実の姉妹・兄弟・家族が夢の共演を果たす。

 脚本を担当するのは、久々のドラマ執筆となる『最高の離婚』(フジテレビ系)や『anone』(日本テレビ系)で知られる坂元裕二、制作統括はNHK連続テレビ小説『あまちゃん』やNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(同)を手掛けた訓覇圭。

 この度、リアルサウンド映画部では訓覇圭に緊急インタビューを行った(無論、このインタビューもリモートである)。コロナ禍の中、なぜ訓覇は坂元といっしょにファンタジードラマをリモートで作ろうと思ったのか?(成馬零一)

●とにかくファンタジーにしたかった

――坂元裕二さんに脚本を依頼した経緯について教えてください。

訓覇圭(以下:訓覇)この状況下で、ファンタジーのドラマを作りたいと思ったのですが、その時に坂元さんに書いてもらいたいと直感的に思ったんです。坂元さんのことは、個人的によく知っていたのですが、中々、タイミングが合わなかったので、一緒に仕事をすることは、もうないのかなと思っていました。こういうタイミングだったからこそ(坂元さんに)電話してみようと思ったのかもしれないですね。

―― 企画が決まったのは緊急事態宣言が出た後ですか?

訓覇:4月の下旬です。緊急事態宣言が出た後、何かやらなきゃと、みなさん頑張っていましたが、僕たちが動き出したのは、もう少し後でした。自分はそういうことにはあまり向いていないと思っていたのですが、この状況が続くとなった時に「作り手として何かやらないといけないんじゃないか」という気持ちになりまして。

――すごい速さで作られたんですね。

訓覇:1カ月かかってないんです。坂元さんが一番大変だったと思います。多分、坂元さんも、こういう時じゃないと、この速度で書こうとは思わなかったと思います。

――作品の内容は坂元さんとの話し合いで決まっていったのですか?

訓覇:今回、まず難しいなぁと思ったのが、あの画面なんですよね。

――Zoomなどでおなじみのモニター越しの映像ですね。

訓覇:「もう、この画面には、みんなも疲れてるよね」という話になって「どうやったらこのモニターの設定から解放されるか」というところからトンコハウスさんの「ドングリ」というCGのキャラクターをお借りして、絵本のようなファンタジーを作れないかなと考えました。

――ファンタジーにすることで、モニターから離れようと。

訓覇:とは言え、人と人の会話で心が動くというのがドラマの基本ですから「会話が書けないときつい」と坂元さんとは話していました。その時に「家族だったら(同じ画面に登場しても)いいのではないか」というアイデアが出まして。ただ、これは言いにくいことですけど、キャスティングとしては……。

――キャッチーですよね(笑)。

訓覇:(兄弟や夫婦でドラマに出てくださいと)言う方も嫌だし、言われる方も神経疑うだろうなと思うし。ずいぶん迷ったんですが、こんな時期だからこそ作ったほうが良いと決断し、企画意図を伝えました。みなさん、普通ならありえないんですけど、今のこのタイミング、しかも坂元さんの脚本だということもあって「だったら、やりましょう」と快諾いただきました。嬉しかったですね。プレッシャーはすごいですが(笑)。兄弟、姉妹、夫婦が持っている距離感の面白さが演技に表れていると思います。

――打ち合わせも撮影も、オールリモートですか?

訓覇:オールリモートです。ただ、映像だけ観ると普通のドラマなので、どこがリモートなんだろう? と思われる方も多いかと思います。リモートドラマというのは、「僕らが会わずに作りました」という意味合いが強いですね。

――お話は近未来を舞台にしたファンタジーになるそうですが、一方でキャスティングは俳優さんのバックボーンを反映したドキュメンタリー的な要素が強そうですね。

訓覇:その2つが坂元さんの世界で交わって、ちょっと見たことのないファンタジーになりつつあります。括りを作らず、時間も場所も自由にして、坂元さんの世界観を堪能したいなあと思って作ってます。4作とも作風が違います。

●この状況下でドラマを作る意義

―― 改めて、ファンタジーを作ろうと思われた理由について教えてください。

訓覇:この状況下で「何かフィクションとしての楽しさだったり素敵さだったりを見せることって、できないのかな」と思ったのがきっかけですね。たとえば、コロナ禍の状況を忠実に映像化すると、「一緒に住んでいる姉妹が、外に出られないから家に2人でいる姿を撮りました」というようなドキュメンタリーテイストのものになると思うのですが、それは個人的に観たいと思えなかったんです。ですので、進めていくうちに、どんどん“コロナ”から離れていきました。「よりフィクションとして何が観たいか」「こういう時に力強いものは何か?」と考えた結果、ファンタジーになりました。

――コロナを踏まえた近未来の物語というわけではないのですか?

訓覇:もっと感覚的なものですね。コロナを基準に物事を考えていること自体が、すごくコロナに支配されている感じがあり、そこからも自由になりたいという感じになってきました。企画の成り立ちを考えると当然なんですけれど、心がコロナに支配されている感じが少しでも解放されるようにしたいと考えました。

――今回、2011年3月11日の東日本大震災の時のことを思い出した人が多かったと思います。訓覇さんが手掛けた『あまちゃん』では、震災によって日常が変質していく姿が描かれていましたが、今回のコロナに対しては、どのようなことを思われましたか?

訓覇:フィクションの作り手としても、やっぱり、コロナってほんとに辛いなと思っています。コロナという題材をダイレクトに捉えて、そこで作品を作っていこうと必死で考えたのですが、どうしてもポジティブなイメージを思い浮かべることができませんでした。ドラマの作り手はみんな、これから作品を作っていく時に、コロナとどう向き合うかというのが問われることになり、難しい局面に立たされると思うのですが、僕が『Living』を作っている時に選んだのは結果的にファンタジーでした。コロナに対する距離感で言うと、ドキュメンタリー的なものからは、どんどん離れていったという感じですね。今は、コロナを比喩的にとらえて、ファンタジーや寓話として向き合うのがいいのかなと思っています。

●共演者の関係性がにじんだ、今までとは違う画

――撮影はどのような感じでしたか?

訓覇:われわれスタッフと役者の接触は感染リスクがあるのでまったくなしにして、カメラのセッティングも役者さんにリモートでお願いしました。

――レイアウトの指定は、ある程度はできたんですね。

訓覇:シンプルにカメラ2台で寄りと引きの映像を押さえるぐらいですね。ただ、今までとは違う画が撮れたと思ったのは、本人同士が芝居をしながら相手を撮る場面です。YouTube的な感覚だと思うのですが、プロのカメラマンだったらその距離では撮れないという映像が撮れました。お互いの距離感がすごく出ている。

――『あまちゃん』でもビデオカメラで撮影される場面がとても印象的でした。

訓覇:そこにより家族感があるというか、アングルや撮り方に2人の関係が滲み出ているんですよね。マニアックですけれど、そこは新鮮でした(笑)。

―― CGもあればノンフィクション的でもあってファンタジーでもあるという。本当に坂元さんの世界観を中心にバラバラの要素が一つになっているんですね。

訓覇:初めて仕事をして、あらためて坂元さんは凄いと思いました。台詞の力、構成力、それを支える世界観、素晴らしいなあと。この短い期間で、違う設定のお話を4本書くことは大変だったと思います。全く4本違う話だし、小説家パートも合わせると5本分だから、短距離走を5本走っていただいたような感じですよね。

――最後に作品の見どころを教えてください。

訓覇:リモートドラマの限界に挑戦した作品で、この状況下で「何をやるべきか」と日々考えながら、作りました。間違いなく、この時期にしか作れなかった内容になっていると思います。今は渦中ですが、距離を置いて半年後、1年後に見返したら、その意味がより実感できるような気がしています。出演してくださった役者さんも含めて、この時期に作れたことが本当に貴重ですね。役者さん同士の「仲が良いなぁ」という空気感は、実際の家族でないと作れないものですし、今の気分が画にも充満しています。見たことのない肌触りを、是非楽しんでいただければと思います。何より坂元さんの作品が4作も観ることができるというのは、ドラマ好きからすると「幸せだなぁ」と感じます。

(取材・文=成馬零一)

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