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みうらじゅんの映画チラシ放談

『ウエスト・サイド・ストーリー』『フラ・フラダンス』

月2回連載

第73回

『ウエスト・サイド・ストーリー』

※『ウエスト・サイド・ストーリー』の公開日は2月11日(祝・金)に変更になりました。
※『ウエスト・サイド・ストーリー』の公開日は2月11日(祝・金)に変更になりました。

── 今回の1本目は、『ウエスト・サイド・ストーリー』です。当初は12月公開予定だったのですが、少し延期して2月11日公開になりました。スティーヴン・スピルバーグ監督が初めて手がけるミュージカルとしても話題の作品ですね。

みうら これは少年の心を失わない、いい大人、スピルバーグ監督の王道中の王道ミュージカルのリメイクです。当然スピルバーグ監督も若いときに観て感動されたんでしょう。「これは少年の心を失わない僕がもう一度撮り直すべき!」って思ったんでしょうね。

僕は中学生のとき、オリジナルをリバイバル上映で観たんですけどね、どうも不良グループに感情移入できなくて。その頃観た、同じミュージカルでも『南太平洋』はすごくハマったんですけど。

不良グループの名は、確かジェット団とシャーク団でしたよね。おそらくポケモンのロケット団のルーツなんじゃないでしょうか。

── 『ウエスト・サイド物語』ってポケモンのルーツなんですか?

みうら ジェット、シャークときたら、そりゃロケット団でしょ(笑)。僕はポケモンを知ってすぐに「『ウエスト・サイド物語』だ!」って思ってましたよ。

でもね、そんな不良たちがケンカを始める前に歌を歌うなんてヘンじゃないですか? 啖呵を切るなら分かりますけどね。僕の中学時代にはクラスにもヤンキーがたくさんいて、こちらは被害に遭わないようにできる限りメンチを切らないように必死でしたが、そのヤンキーが歌を歌いながら戦うってことでしょ。笑うでしょ、それは(笑)。

だからあの世界観にどうにも入り込めなくて。指鳴らして言うじゃないですか、「ク、ク、クールボーイ!」ってそんなに冷えてる少年なのかと思ってましたよ(笑)。

── 結構細かいところまで覚えてますよね。

みうら そりゃ覚えてますよ! だっておかしかったですから。今でも高速道路下はできる限り行きませんからね。ジョージ・チャキリスがリーダーで、そのライバルと歌合戦するんですもの。今だったら街中でラップで対決してるようなもんですよね。

でも、今回、僕が『ウエスト・サイド・ストーリー』を選んだ理由は、(クエンティン・)タランティーノあってのことなんです。というのも、『ジャンゴ 繋がれざる者』にラス・タンブリンという役者が出てたんですね。実はこの人『ウエスト・サイド物語』にも出てた俳優なんです。

── それは『ウエスト・サイド物語』へのオマージュということですか?

みうら いやいや、それが簡単な話じゃないんです。僕、スピルバーグ監督のことも『激突!』以来、大好きなんですけど、タランティーノの方がどちらかというと話が合うんじゃないかと思ってるんですね。

スピルバーグ監督って、その後『ジョーズ』とか『未知との遭遇』とか、月刊『ムー』で扱うようなテーマをメジャーにしてきた人じゃないですか。でも『シンドラーのリスト』あたりから大人の映画を撮るようになってきた。まぁ、ジャンル映画から飛び出して、王道の監督になったスゴイ方ですが、そこに今でも少年心のまんまというタランティーノが出てきたんですよ。

『ジャンゴ…』だって、マカロニウエスタンの『続・荒野の用心棒』のリメイクじゃないですけど、あの映画がいまだに忘れられなくて作ったわけじゃないですか。そのとき、出演者の中にラス・タンブリンって名前を見つけてね、この人分かってるなあと感心したんです。

── それはどういうことですか?

みうら ラス・タンブリンは、『ウエスト・サイド物語』ではジョージ・チャキリスとは逆側の不良チームにいたんです。当然、あの映画にオマージュを捧げるならチャキリスだと思うんですがね、でもタランティーノはラス・タンブリンにした。

いや、それは『ウエスト・サイド物語』のオマージュじゃなくてね、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』だったに違いないと僕は思ったんです。1作目の『フランケンシュタイン対地底怪獣』には、ニック・アダムスという人がボーエン博士役で出ていて、続編の『サンダ対ガイラ』ではスチュワート博士というキャラに変わったんです。

── ニック・アダムスは日本人キャストやスタッフにも気さくだったけれど、ラス・タンブリンは随分と感じが悪かったという話が伝わってますよね。

みうら さすが、お詳しいですね(笑)。演技もやる気がなさそうで、たぶん「日本くんだりに流れ着いたけど、俺には『ウエスト・サイド物語』の栄光があるんだぞ」と思っておられたんじゃないかな。しかも怪獣映画。ゴジラならまだしも、ワケの分からない怪獣の映画だしね。

でも、『サンダ対ガイラ』は怪獣映画の中でも名作です。小学校のときからの怪獣好きとしては、ラス・タンブリンの存在は忘れられないものになりました。「こんな映画に出てる俺、タンブリン」が逆にぐっと来てね。

『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』にて、やる気がなさそう(?)なラス・タンブリン。中央は共演した水野久美、右は佐原健二。

タランティーノ監督も少年時代に『ウエスト・サイド物語』も『サンダ対ガイラ』も観てたんでしょう。一度、お会いしたときに「一番好きな怪獣映画は?」とお聞きしたら、「『The War of the Gargantuas』(『サンダ対ガイラ』の英語題)!」っておっしゃってましたから。きっとラス・タンブリンのいい味も分かってたんだと思うんですよ。

だから出世して、何を撮ってもいい状態になってから、マカロニウエスタンをわざわざ選び、ラス・タンブリンをわざわざ起用した。『ウエスト・サイド物語』の不良に感情移入できなくて、むしろ脇にいたラス・タンブリンを『サンダ対ガイラ』で思い出して起用したんですよ、きっと。

当然スピルバーグのリメイクには、ラス・タンブリンは出てないですよね? もしスピルバーグ監督がカメオ出演させるなら、ラス・タンブリンじゃなくてチャキリスの方だと思うんです。チャキリスさんはまだご存命ですか?

── 生きてます。87歳だそうです。

みうら だったら、きっとリメイク版はチャキリスを出すはずですよ。“少年の心を失わない大人”って2種類いると思うんです。その代表がスピルバーグで、さらに少年時代をこじらせたのがタランティーノなんですよ。

── つまり、今回のリメイクでラス・タンブリンが出てきたら、スピルバーグもこじらせ側だってことになりますね。

みうら しかも水野久美さんまで出演しておられたら、それはもう完全に『サンダ対ガイラ』のリメイクですよ(笑)。ぜひそれを確かめに観に行きたいもんですね。

『フラ・フラダンス』

── 続いては、フラダンスに取り組む新人ダンサーたちを描いた青春アニメ、『フラ・フラダンス』ですね。

みうら 僕、やたらフラに弱いんです。フランケンシュタインも好きですからね(笑)。当然この映画も『フラガール』と同じく涙のカツアゲが待ってることは間違いないでしょうね。

── フラにやたら弱いというのは、どういうことですか?

みうら フラダンスを習いたいって気持ちはないんですけど、つい毎週日曜に東京MXテレビでやってる『ハワイアン LIVE in BIRDLAND』を観てしまうんですよ。

── フラダンスの番組なんですか?

みうら ご覧になったことないですか? もう20年くらい放送してると思いますよ。僕、自然とチャンネルが合うようになってるのか、テレビをつけると必ず出会うんです。

BIRDLANDっていうお店で収録されていて、以前は赤坂のTBSの前にあって、看板を確認しに行ったこともあるんです。今は六本木に移ったみたいですが。それがコロナ禍で一時期休んでおられて、最近営業が再開したとか、もうそんな事情まで知ってるんです。

太田紀美子とザ・バーズっていうバンドがメインなんですが、ゲストを招きハワイアン音楽を演奏するんです。太田紀美子さんがお店もやっていらっしゃるようなので、かつて、ジャガーさんがテレビ千葉の枠を買って『HELLO JAGUAR』をやってたような感じです。

僕はその番組をかなりの頻度で観ていて、毎回、釘づけになるんです。演奏の前で、ご婦人方がフラを踊られます。本場ハワイでも踊っておられましたし、常磐ハワイアンセンターのステージでの収録も観ました。

── 映画『フラガール』の舞台ですね。今の名称はスパリゾートハワイアンズですよね。

みうら そうです。番組ではいろんなご婦人のフラの踊りが延々と流されるんですけど、頭の中がカオスみたいになるんです。「好き」っていう感情よりも、目が離せないんですよね。スパリゾートハワイアンズには一度行きましたけど、まだそのお店には行けてないんです。

── そんなに観続けている番組の店なのに。

みうら いやぁ、なんか勇気がなくて(笑)。いつかはきっとって思いながら、ずっと後延ばしにしてるんです。コロナ禍の間は過去の映像が流れていて、前にも観ているのにまた観てるんです。でも、どうしてこんなに観てしまうのかがまだ分からない。そういう自分が知りたくてこの『フラ・フラダンス』も観ようと思ってるんです。

僕、『ウエスト・サイド・ストーリー』でも触れたんですが、中学のときにリバイバル上映の『南太平洋』っていうミュージカル映画を観てね、サントラ盤まで買うくらい好きになって。主演女優のミッツィー・ゲイナーさんに中学生時代、恋をしたりもしてたんですね。それはフラダンスの映画ではないですけど、南国の映画ですから、そのときの気持ちとフラが合体したのかもしれないんですけど。

── それはみうらさんの南国好きが関わってくるんでしょうか?

みうら ハワイには二度行きましたが、一度も泳いだことがないんですがね。そもそも泳げないことが憧れに繋がっているのかもです。

── この映画は若い女性たちがフラダンスに挑戦する話ですが。

みうら フラって求愛のダンスって言うじゃないですか。『南太平洋』でもね、バリハイという小島で若い軍人と地元の娘が恋に落ちるんです。「バリハイ バリハイ カム・ツウ・ミー」って歌うんですけど、もう僕の中では、南国、フラ、恋は同じでね。

── この『フラ・フラダンス』でも恋は生まれるんでしょうね?

みうら きっとね。この脚本は、僕が涙のカツアゲにあった『若おかみは小学生』の方ですよね? もし今後『若おかみはフラダンサー』っていう映画が来たら、絶対、観に行くと思います(笑)。

取材・文:村山章

(C)2021 20th Century Studios. All Rights
(C)BNP, FUJITV/おしゃれサロンなつなぎ
Photo:AFLO

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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