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【おとな向け映画ガイド】

ロザムンド・パイクがここまでやるか?の痛快な悪役『パーフェクト・ケア』

ぴあ編集部 坂口英明
21/11/28(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(12/3~4)に公開される映画は20本。全国100館以上で拡大公開される作品が『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』『フラ・フラダンス』『MANKAI MOVIE「A3!」~SPRING & SUMMER~』の3本。中規模公開、ミニシアター系の作品が17本です。今回はそのなかから、まさにおとな向き、犯罪サスペンスの傑作『パーフェクト・ケア』をご紹介します。

裕福な年寄りがターゲット

『パーフェクト・ケア』

最近出版された『すごいトシヨリ散歩』(池内紀・川本三郎共著)という本のなかで「面白い小説には、身につまされる話と、我を忘れさせてくれる話と、二つのタイプがある」という一節がありました。映画もそうだと思います。登場人物の誰かに共感し、我がことのように観入ってしまうものと、自分とはかけ離れた話だけれど次の展開にどんどん引っ張られるもの。どちらも時を忘れます。そういうのは面白い映画です。

この作品、その両方のタイプを持ち合わせています。登場人物はそろいもそろって悪者ばかりで、生き方や考え方にまったく共感できるなんてことはありませんが、「将来、自分がこんな悪者の餌食になってもおかしくない」と思える不思議な現実味と危機感で身につまされます。しかも、ひとつも共感できない悪者たちの展開に、最後の最後まで我を忘れて楽しめてしまうのです。

なんといっても主演のロザムンド・パイクがワル。彼女が演じるやり手のマーラは、高齢者の介助をするビジネスの経営者。でも実態は、金持ちの高齢者の法廷後見人になり、その資産を死ぬまでしぼりとるというもの。残忍で、野心的で、勝ちにこだわり、嫌われることに何の恐れも抱いていないキャラクターです。医者も、老人ケア施設もグル。やりくちは巧みで、お年寄りに貢献する“パーフェクト・ケア”だと裁判所もだまされています。ちなみに原題は『I Care A Lot』、「たくさん面倒をみてるんです、私。それが何か?」と言いたげな、ブラックユーモアたっぷりのタイトルです。

グルの医者から紹介された“いい物件”、みよりのない資産家のジェニファーという女性を、どう獲物にしていくかをみていると、マーラの手口が理解できます。法的な手続きをあらかじめ済ませた上で、突然訪問し、拉致するかのようにケア施設に収容してしまう……その段取りのよさには感心します。資産家のジェニファー役はウディ・アレン映画でおなじみのダイアン・ウィースト。アカデミー賞を2度受賞しているこんな大女優を起用しているということは、この老女がもちろん“わけあり”で。

悪い奴らの手口を紹介するという点は、伊丹十三監督の『マルサの女』を思い出させます。伊丹作品の主人公は正義の味方でしたが、こちらは女性の悪党が主人公。男を色香でまどわす悪女ファム・ファタールでなく、自立したワルというのが現代的です。しかも“ジョーカー”のようにお涙ちょうだいの過去もなく、クールな悪漢です。脚本・監督のJ・ブレイクソンは、映画化の動機をこう語っています。「法廷後見人による搾取のニュースをきいたところからこの物語が生まれた。野望、アメリカンドリーム、人間が商品になること……。特に彼らの取った手段の多くは法の抜け穴だったことを考えるとゾッとした」。

主演のロザムンド・パイクは、「私がスクリーンで観たいと思っていた女性そのもの」とこの役を引き受けたそうです。アカデミー賞こそ逸しましたが、ゴールデングローブ賞では主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞。 うっとりするような悪党ぶりです。

【ぴあ水先案内から】

佐々木俊尚さん(ジャーナリスト)
「……このポリコレ全盛の時代にこんな破天荒で乱暴な映画が作れるなんて!と驚いた。ともかくもたいへんな傑作である」

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波多野健さん(TVプロデューサー)
「……『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクはあいかわらずきれいだが、それだけではなくものすごく強烈なパワーを持つ女性として存在感がはんぱない……」

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