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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

春風亭小朝

山本益博の ずばり、落語!

第六回「春風亭小朝」 平成の落語家ライブ、昭和の落語家アーカイブ

毎月連載

第6回

18/11/29(木)

 昨年(2017年)の暮、神楽坂の赤城神社で開いた「あかぎ寄席 はじめての落語」に、ゲストとして春風亭小朝師匠をお招きし、会の前半に私がナビゲーターとしてお話を伺った。

 小朝師匠とは、かれこれ40年以上前から、つまり、二つ目時代からの付き合いなのだが、人前に出て二人でおしゃべりをするのは初めてだった。昭和50年代(1970年代後半)の「小朝の会」のお手伝いから、昭和60年代「日航名人会」でフランス、アルジェリアへ出かけた話まで、話題は尽きることがなかった。

 つまり、春風亭小朝が二つ目から昭和55年(1980年)5月36人抜きで真打に昇進し、「横丁の若様」の愛称で瞬く間に落語界の寵児になっていく様を、間近で見ていたひとりと言ってよい。

「春風亭小朝」師匠とはじめての落語(2017年12月19日)

 春風亭小朝は昭和30年(1955年)東京生まれ、春風亭柳朝に入門し、前座名小あさを名乗った。彼を一言でいえば「天才」。神楽坂でのトークで、落語家になる前、素人時代に、噺をすでに百席以上覚えていたと言って、客席を驚かせた。もうこれだけでも、並みの才能の持ち主ではないと言えよう。

 彼の高座の持ち味は、昨日のニュースを面白おかしく笑いに仕立てる現代語感の「まくら」と、淀みのない流麗な噺の運びにある。特に同世代ばかりでなく、老年から若年まで受ける「まくら」は、世相を巧みに映し出していた。「美人は3日見たら飽きるが、ブスは3日見たら慣れる」など、本来なら嫌みに取られかねないギャグも、若い女性客の爆笑を誘っていた。

 噺としては、『明烏』『船徳』などの若旦那ものから、幇間一八が登場する『愛宕山』『たいこ腹』、それに、歌舞伎役者の声色を使った『七段目』『紙屑屋』まで、どれも華やかで、高座が明るくなる演目がいい。

 『明烏』『船徳』『愛宕山』などは、八代目桂文楽から三代目古今亭志ん朝へと受け継がれた名人芸をしっかりと現代風にアレンジして「小朝十八番」に仕立て上げている。
 さらに人情噺にも磨きがかかり『柳田格之進』や歌舞伎役者に題材を得た『男の花道』など、60代の小朝の新しい境地を示すものと言ってよい。

 歌舞伎座や武道館をいっぱいにしての独演会などで、その時々の話題に事欠かず、落語界の現状を憂いて、立川志の輔、柳家花緑、春風亭昇太、林家正蔵、笑福亭鶴瓶らと「六人の会」を結成したり、「大銀座落語祭」を企画したりと、プロデューサーとしての力量も並々ならぬものがる。

第12回「小朝の会」プログラム(1979年)

 近年は、菊池寛の小説を落語化したりと新境地を開拓することに余念がないが、早々と売れっ子になってしまった天才落語家として、これからどこへ向かおうか思案の最中のようにも思える。

 先日の「あかぎ寄席 はじめての落語」の楽屋で、小朝師匠の『文七元結』が聴きたい、とリクエストすると、「もうしばらく待っていてください」との返事が返ってきた。新境地もいいが、桂文楽、古今亭志ん朝などかつての名人たちが遺した名演を、今一度、再点検するところから、熟年の小朝の落語の新境地が生まれてくるのではなかろうか、と思うのは私一人ではあるまい。

豆知識 「根多帳」

(イラストレーション:高松啓二)

 寄席の楽屋で、高座に上がった落語家・芸人がどんな噺、内容を演じたかを記すプログラムのことを言う。前座の主任が「大福帳」のような横長の帳面に筆で書きつづってゆく。

 当日の記録として、寄席に残しておくことのほか、楽屋にやってきた落語家が、高座に上がる前に必ず目を通すのが「根多帳」。前に上がった落語家が、泥棒が出てくる噺をかけていれば、同じような演目は「噺がつく」と言って避けなくてはならない。そのための「便利帳」と言ってもよい。

 あとに高座に上がる落語家ほど、演目が限られてくるので、最後に高座に上がる真打(トリ)は、噺(根多)を数多く持っていなくてはならないことになり、すぐに演じられる噺を30ほど持っているとのこと。

プロフィール

山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。落語評論家、料理評論家。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論『桂文楽の世界』がそのまま出版され、評論家としての仕事がスタート。近著に『立川談志を聴け』(小学館刊)、『東京とんかつ会議』(ぴあ刊)など。

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