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樋口尚文 銀幕の個性派たち

岸部一徳、能面顔が拓く個性派の宇宙(前篇)

毎月連載

第24回

5夜連続ドラマスペシャル『白い巨塔』(C)テレビ朝日 テレビ朝日系5月22日~26日夜9時より放送

 鶴橋康夫監督によって山崎豊子原作『白い巨塔』が6度目(うち一回は韓国の連続ドラマとして製作)のテレビドラマ化を果たしたが、歴代のこの番組の面白いところはたとえば財前教授は誰が演って里見助教授は誰が演って東教授は……という大学医学部でのヒエラルキー、立ち位置に、その時分の俳優たちの格や性格などのポジショニングが反映されるところだ。

 たとえば1978年版では、この財前―里見―東に花森ケイ子を加えた並びが田宮二郎―山本學―中村伸郎―大地喜和子、2003年版では唐沢寿明―江口洋介―石坂浩二―黒木瞳となり、このたびの2019年版では岡田准一―松山ケンイチ―寺尾聰―沢尻エリカという顔ぶれで、それぞれ時代を映した持ち味を感じさせるのだが、このメインどころもさることながら、他にもこうした群像劇ならではの、ベタで登場はしないがここぞというところでめきめきと存在感を発揮する、二番手ながらひじょうに美味しい役というのがある。

 『白い巨塔』はそういう役の宝庫でもあるが、特に大河内教授というのは油断ならないポジションだ。大河内教授というのは、いわば病理学の研究畑のトップで誠実な研究を重んじ、財前ら派手な外科のストリームから疎んじられており、いつもは寡黙で融通がきかず苦虫をかみつぶしたような面持ちであることもしばしばだ。ところが後半の誤診をめぐる裁判では、財前側を追い詰めるキーマンとしてスポットが当たる。ちなみに1978年版では映画版と同じく加藤嘉、2003年版では品川徹が扮し、まさに名バイプレーヤーの腕の見せどころという感がある。

 さて、このたびの岡田准一主演『白い巨塔』での大河内教授は誰だろうと真っ先にキャスト表を見たところ、「岸部一徳」とあって膝を打った。あの「能面顔」に、真意を押し殺した問答を続ける大河内教授のビターな役柄はあまりにもはまっている。そこで今回と次回は、稀代の貴重なるバイプレーヤー岸部一徳についてふり返ってみたいと思うのだが、そもそも今どきの若い視聴者ともなると、岸部が1960年代にグループサウンズのベーシストとして人気を博していたことすら知らないかもしれない。

『轢き逃げ -最高の最悪な日-』(C)2019映画「轢き逃げ」製作委員会

 岸部一徳は、ジュリーこと沢田研二、実弟の岸部シローらとともにザ・タイガースとして1967年から71年にかけて活動し(第一期)、一世を風靡した。だが、このザ・タイガースの前身となったのは1965年に岸部が地元京都の友人たち、瞳みのる、森本太郎、加橋かつみと結成した「サリーとプレイボーイズ」だった。今の岸辺を見て愛称「サリー」というのはちょっと失礼ながら笑ってしまうところがあるが、あの「サリー」とはパット・ブーンやキンクス、ビートルズまでがカヴァーした「ロング・トール・サリー」から来ている。解説するまでもなく、岸部が180㎝を超える長身だったので「のっぽのサリー」なのである。

 ここに沢田研二が加わるのは翌66年のことで、関西方面でじわじわと人気を集めた後、上京してザ・タイガースが誕生した。当時はあまたのグループ・サウンズが乱立したが、ザ・タイガースの人気は抜群だった。私も当時テレビや雑誌でさんざん活躍を見たが、なにぶん当時のGSブームは、新世代の「戦争を知らない子供たち」がビートルズをはじめ海外のバンドにあやかってキメていた高度成長期の申し子ゆえ、まだ雰囲気もファッションも和風のドン臭い感じがぬけきれていないところがあった。そんななかで、ザ・タイガースは特にジュリーとサリーのポップな雰囲気が素敵だったので、『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』などのタイガース映画連作も映画館に観に行った。

 そこでのジュリーやサリーの演技はミュージシャンの余技ですからという韜晦もあって飄々としたものだったが、しかしこのポップさはその後でアクターとして活躍するふたりにとって大いに味方していたように思われる。(つづく)



作品情報

テレビ朝日開局60周年記念
5夜連続ドラマスペシャル『白い巨塔』

テレビ朝日系2019年5月22日~26日夜9時より放送
監督:鶴橋康夫 原作:山崎豊子
出演:岡田准一/松山ケンイチ/沢尻エリカ/寺尾聰/松重豊/岸部一徳/満島真之介/矢島智人/美村里江/市川実日子/小林薫/夏帆/市毛良枝/高島礼子/飯豊まりえ/椎名桔平/柳葉敏郎/岸本加世子/向井康二/斎藤工/山崎育三郎



『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』
1968年4月10日公開 配給:東宝
監督:和田嘉訓 脚本:田波靖男
出演:ザ・タイガース/久美かおり/小橋玲子/高橋厚子/美保くるり



『轢き逃げ -最高の最悪な日-』
2019年5月10日公開 配給:東映
監督・脚本:水谷豊
出演:小林涼子/毎熊克哉/水谷豊/檀ふみ/岸部一徳



プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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