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ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察(1)初音ミク主体の黎明期からクリエイター主体のVOCAROCKへ

リアルサウンド

20/8/9(日) 12:31

 2007年8月31日に歌声合成ソフト「初音ミク」が発売されると共に花開いたボカロシーンは米津玄師やYOASOBIなどの大ヒットによって、現在のJ-POPを語る上でも決して避けて通れぬ音楽シーンとなった。当連載ではボカロシーンの音楽的な流行の変遷を追いながら、よく目にするわりに漠然とした概念である「ボカロっぽさ」について考えていく。

 初音ミクの開発元であるクリプトン・フューチャー・メディアは、2004年11月にすでにMEIKOというVOCALOIDを発売している。当時より音楽配信サイト・muzieなどにMEIKOを用いた楽曲が投稿されることはあったが、「ボカロシーン」なるものの形成や大勢のリスナーの存在はなかった。この2つはやはり2006年12月にサービスを開始したニコニコ動画、及び2007年8月に発売された初音ミク以降のものだ。初音ミクは生成される“声”に合わせて設定されたその可愛らしいビジュアルからDTM愛好家以外からも注目され、販売開始と共にDTM製品としては異例のセールスを記録する。ニコニコ動画では2007年に入るとMEIKOを用いたカバーが少量投稿され始めており、初音ミクもその流れに倣って主にカバーなどがニコニコ動画に投稿されるようになる。

VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた

 「初音ミク」という共通のタグ(ニコニコ動画の機能)によって個々の動画が関連付けられ、コメントによって視聴者の熱が可視化され、初音ミクはブームとなっていった。ちなみにVOCALOIDに歌わせる人物をボカロP/○○Pと呼ぶ文化は、9月3日に投稿された「初音ミクが来ないのでスネています」という動画のコメントによって、投稿者が「ワンカップP」と命名されたことが起源とされている。これは初音ミク以前よりニコニコ動画で人気を誇っていたアイマスMAD(『アイドルマスター』関連作品を素材に用いたMAD作品)の制作者を、原作ゲームに倣って○○Pと呼ぶ文化から来ている。

 さて、ここからが本題である。初音ミク発売から1週間が経つとオリジナル曲を歌わせて投稿する人物たちが登場し始める。その中から最重要曲をピックアップするとしたらOSTER project「恋スルVOC@LOID」、ika「みくみくにしてあげる♪」、malo「ハジメテノオト」辺りになるだろう。特に「みくみくにしてあげる♪」は絶大な再生数を記録し、初音ミクブームを盛大に加速させることとなる。

【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】

 ヒッキーPが度々指摘するように、アマチュアミュージシャンがネットにオリジナル曲を投稿したところで再生数はせいぜい2桁、良くて3桁という時代が続いていた。しかし初音ミクはその名と声を経由させることによって、あらゆる音楽を多くのリスナーに届けたのである。とは言っても、ヒットする楽曲というものはある程度方向性が決まっている。先述の3曲は全てキャラクターソング的ないわゆる「VOCALOIDイメージソング」だ。柴那典『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』の中で古参ボカロリスナーの一人であるコバチカは「オリジナル曲も、アニソン、キャラソンや同人音楽を聴いてきた人じゃないと、すんなりとは聞けなかったと思います」と語っている。実際、ボカロPも東方アレンジ(『東方Project』楽曲アレンジ)などの同人音楽やBMS(音楽ゲーム『beatmania』を模した譜面データのフォーマット、およびそれを用いた音楽ゲーム)出身の人物が多かったし、カバーの選曲もアニソン/キャラソンや東方が目立つ。また、今でこそボカロ曲に特化したクラブイベント・ボカクラなるものはあるが、初めのうちはアニクラ(アニソンに特化したクラブイベント)のセットリストの一部であった。ニコニコ動画内で勃興した文化だからというのもあるが、初めの内はアニメ系の文脈で捉えられていたことの証左だろう。

 そんなキャラクター・初音ミクを「殺した」とまで言われる楽曲がある。2007年12月7日投稿のsupercell「メルト」だ。

初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」

 「メルト」の歌詞は初音ミクでなくとも成立する普遍的なラブソング、楽曲もド、レ、ミ、ソ(移動ド)の4音で構成された印象的なイントロのフレーズや、2分音符と全音符を巧みに使い分けた緩急のあるコードチェンジなど、良質なJ-POP的要素を持っている印象を受ける。とは言えこれだけで初音ミクを殺したと言うのはいささか早計だ。非キャラソン的なヒット曲はゆうゆ「桜の季節」(2007年10月投稿)など他にもある。「メルト」がそれらの楽曲と違ったのは“歌ってみた”ブームを巻き起こした点である。今でこそ歌ってみたと言えば大抵ボカロ曲を歌った動画を指すが、実はニコニコ動画における歌ってみた文化の歴史は初音ミクよりも古い。「メルト」はその普遍性ゆえ多数の歌ってみた動画を生み、ニコニコ動画のランキングを占拠。「メルトショック」と呼ばれる現象に発展した。リスナーの視線が初音ミクからクリエイターへと移る切っ掛けになったと言われることも多い現象である。また、併せてbaker「celluloid」とlivetune「Packaged」も紹介したい。

「celluloid」 song by 初音ミク

 「celluloid」は2007年10月5日に投稿され、2018年9月21日に4004日というニコニコ動画におけるボカロ曲では歴代2番目の長さという記録を持ってミリオン達成したボカロ曲で、「メルト」以前に歌ってみたの波が到来した楽曲の1つとして挙げられる。ボカロシーンに与えた影響は大きく、後に著名ボカロPとなるsasakure.UKや40mPなどはbakerをきっかけにボカロシーンやその面白さに触れ、自身もボカロ曲を投稿し始めることとなる(参照:音楽ナタリー)。初音ミクの登場しない実写MVやバンドサウンドも合いまって「メルト」と併せた「ボカロPのアーティスト化」の先駆と言ってもいいだろう。

livetune – Packaged

 2007年9月25日投稿(ショートバージョンは22日投稿)の「Packaged」は歌詞においては「恋スルVOC@LOID」の系譜に連なるキャラソン的なものであるが、音楽的な面ではDaft PunkやJusticeなどのフレンチ・エレクトロに大きな影響を受けており(参照:J-WAVE)、その作風からはほぼ時を同じくしてヒットしたPerfumeとの同時代性も見い出せる(ちなみに、Perfumeヒットの背景にはニコニコ動画におけるアイマスMADでの人気があったとする向きもある)。黎明期を代表するボカロPとしてsupercellと共に語られることも多く、後に著名ボカロPとなるDECO*27やwowakaなどはlivetuneの楽曲をきっかけにボカロシーンに参入することとなる(参照:ファミ通.comKAI-YOU)。ボカロシーンにおいてVOCALOIDを用いたテクノポップ=「ミクノポップ」は大きな存在感を放つが、その発展に大きく貢献した人物であることは間違いないだろう。また、今もなお続く『週刊みくみくランキング』(現『週刊VOCAL CharacterとUTAUランキング』。通称ぼからん)が2007年10月9日に初投稿され、同じく今もなお続くボカロ専門同人即売会『THE VOC@LOiD M@STER』(通称ボーマス)が2007年11月3日に初開催されたことも指摘しておきたい。こうして次第に初音ミク(もといVOCALOID)は1つの音源、及びそれに起因するインディーズ音楽シーンとなっていき、同時に歌ってみたなどの音楽的な派生作品も生まれていったのである(ただし『週刊ニコニコ歌ってみたランキング』の作者は、「ボカロオリジナルを歌ってみた」のブームに関しては「メルト」よりも同じくsupercellの「ブラック★ロックシューター」の方が重要であると指摘する(参照:Twitter))。

 2008年の中頃に入るとまた新しい潮流が生まれる。それまではポップスや打ち込みサウンドが主流であったボカロ曲のヒットチャートに、本格的にバンド出身者によるロックが台頭し始めたのだ。中でもぼからん#52~#54(2008年9月22日~2008年10月13日)は興味深い。後に「天ノ弱」を発表する164の初投稿作「shiningray」、後に「No Logic」「Calc.」を発表するOneRoom(ジミーサムP)の出世作「Scene」、後に「ダブルラリアット」を発表するアゴアニキの出世作「よっこらせっくす」、後に「モザイクロール」「ヒバナ」を発表するDECO*27の初投稿作「僕みたいな君 君みたいな僕」が上位5位にランクインしているのだ。もちろんbakerなどの前例はあったものの、VOCALOIDを用いたロック=「VOCAROCK」の隆盛の直接的な源流はこの辺りだろう。

【巡音ルカ】ダブルラリアット【Double Lariat】【HD】

 2008年8月27日にはlivetune feat.初音ミク『Re:package』がビクターエンタテインメントよりリリースされ、初のメジャー流通されたボカロアルバムとなった。ボカロ曲のカラオケ配信が本格的に始まり、ボカロ曲の流行に多大に寄与したと思われるニンテンドーDSiのソフト『うごくメモ帳』のサービスが開始したのもこの時期である。また、現代音楽やブレイクコアを取り入れた楽曲が特徴のTreow、プログレッシブロックに影響を受けた複雑なリズム/展開が特徴のsasakure.UKのヒットがこの時期であることも指摘したい。VOCALOIDを用いているという点だけで1つの音楽シーンとして成立しているボカロシーンは、時にして先鋭的な楽曲もヒットすることができる土壌であり、彼らはそれを証明した最初の世代である。先鋭的なヒット曲と言えば、「ボカロならでは」の高速歌唱を提示したcosMo(暴走P)「初音ミクの消失」も2008年に投稿された楽曲だ(オリジナル版は2007年投稿)。

初音ミクオリジナル曲 「初音ミクの消失(LONG VERSION)」

 2008年にcosMoが実行したものが「ボカロならでは」な音楽だったとすれば、2009~2011年にwowakaとハチが実行したものは「ボカロっぽい」音楽である――と書くと違和感を持つ人もいるかもしれないが、その感覚は当たり前だ。当時から彼らの作風を「ボカロっぽい」と思っていた人物はいるはずがない。彼らに影響を受けたフォロワーが多数現れ、そのフォロワー自体も有名になりボカロシーン外に認知されることによって初めて「ボカロっぽい」と言われるようになるのだ。単にフォロワーがぽつぽつと現れただけでは「○○Pっぽい」とボカロシーン内から言われて終わってしまうし、フォロワーが多数生まれても有名にならなければ外側から見て「ボカロっぽい」とはならないだろう。しかし筆者は彼らの打ち出した音楽は現在の音楽を語る上で欠かせない要素であると判断し、あえてこの時点で彼らの音楽性を「ボカロっぽい」と断定する。次回からは「ボカロっぽい」についての考察も織り交ぜながらボカロシーンの音楽的な流行の変遷を追っていこうと思う。

ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察(2)シーンを席巻したwowakaとハチ へ続く)

■Flat
2001年生まれ。音楽を聴く。たまに作る。2020年よりnoteにてボカロを中心とした記事の執筆を行う。noteTwitter

ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察

・(1)初音ミク主体の黎明期からクリエイター主体のVOCAROCKへ
・(2)シーンを席巻したwowakaとハチ
・(3)kemuとトーマ、じんが後続に与えた影響
・(4)n-bunaとOrangestarの登場がもたらした新たな感覚

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