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正月映画にホラーは無謀だった!? 『来る』に観客が来なかった理由

リアルサウンド

18/12/12(水) 16:00

 先週末の映画動員ランキングは、公開3週目の『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』が公開5週目の『ボヘミアン・ラプソディ』をギリギリかわして1位を死守。土日2日間の『ファンタスティック・ビースト』の動員は35万1000人、興収は5億1700万円、『ボヘミアン・ラプソディ』の動員は34万8000人、興収は5億700万円。動員では3000人差、興収では1000万円差という、超ハイレベルにして薄氷の勝負が繰り広げられたことになる。『ボヘミアン・ラプソディ』の累計興収は既に45億円超え。今週のウィークデイに入ってからは『ファンタスティック・ビースト』を引き離して1位を独走していて、興行としては年をまたぐかたちとなるが、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の興収80億円を超えて、事実上今年の外国映画のトップに君臨する可能性も出てきた。

 さて、上位2作の頂上決戦に割って入ることは叶わず、3位に初登場したのが中島哲也監督の『来る』だ。土日2日間の成績は動員10万1000人、興収1億3700万円。12月公開の東宝配給作品、スクリーン数は330。つまりは東宝の正月映画の本命と目されていたわけだが(残り2本はブームが去った後の『妖怪ウォッチ』とティーンムービーの『ニセコイ』)、その期待を大きく裏切る結果となったと言わざるを得ない。

 『来る』は中島哲也監督にとって、興収38.5億円の大ヒットとなった『告白』以来、8年半ぶりとなる東宝配給作品(2014年公開の前作『渇き。』の配給は独立系のギャガだった)。キャストでは『告白』主演の松たか子、『渇き。』に出演していた妻夫木聡と小松菜奈、さらには『永遠の0』や『海賊とよばれた男』といった東宝の正月実写映画で実績のある岡田准一らが揃い、プロデューサーは川村元気、作品の中身をあまり見せない宣伝戦略など、ヒットする要素は十分にある作品だと思われた。「最恐エンターテインメント」と宣伝コピーで謳われているように「最恐」であるかどうかは別として、実際に134分間一瞬も飽きさせないスピーディーな展開と、各キャストの新しい魅力を引き出した演出(特に岡田准一と小松菜奈が演じたカップルのこれまで日本映画ではあまり見たことがないキャラクター造形は印象的だった)はなかなかの見応え。第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智による原作『ぼぎわんが、来る』によっぽど強い思い入れがある人でなければ(原作からはかなり改変されている。特に終盤)、ラストシーンまでスクリーンに引きつけられる作品であることは間違いない。

参考:惨憺たる上半期が遠い昔のよう 2018年下半期は“これぞホラー映画”な作品が目白押し

 ホラー映画ファンとして心外なのは、この結果を受けて「やっぱりホラー映画は当たらない」という風評が広がることだ。原作はホラー小説で、今回の映画も一応「ホラー・エンターテインメント作品」という打ち出しになってはいるものの、厳密に言うと『来る』はホラー映画ではないというのが、自分の見解だ。ホラー映画の真骨頂は映画館という環境も込みの暗闇の怖さと、緩急を自在に操る演出の技法にある。その点、中島哲也作品は、CMディレクター出身監督らしい隅から隅までピントが合った明度の高い作品のルックと、忙しないカット割りと編集が持ち味(それ自体は監督の作家性であって何も悪いことではない)。今回、ホラー小説の原作を映画化するにあたっても、その強固な作家性は一貫している。つまり、今回本当の意味で相性が悪かったのは、「正月映画とホラー映画」ではなくて「中島哲也監督とホラー映画」なのだと思う。『来る』への評価は、その「中島哲也監督とホラー映画」のミスマッチを楽しめるかどうかにかかっている。逆に、監督やキャストに興味があっても「怖い映画は苦手だから」と本作を敬遠している人は、是非劇場に。全然怖くないから大丈夫。

(宇野維正)

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