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Maison book girl、『海と宇宙の子供たち』で新境地 4人の歌声がもたらすポップな響きが最大の魅力に

リアルサウンド

19/12/28(土) 12:00

 矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミの4人組アイドルグループ・Maison book girl(以下、ブクガ)。プロデュースは、いずこねこのプロデュースや大森靖子との仕事、近年ではクマリデパートのプロデュースも手がけるサクライケンタ。変拍子や変則的なリズムがめまぐるしく飛び交い、ときにポエトリーリーディングまで飛び出す楽曲と、歌唱やダンスを通じた4人の表現が魅力のグループだ。

(関連:Maison book girl、いつまでも消えない4人の残像ーー『Solitude HOTEL 5F』を見て

 ブクガの音楽性はしばしば「現音ポップ(=現代音楽+ポップス)」と形容される。具体的には、先述した特徴的なリズム構造や楽器の編成、そして短いリフの反復を主とした楽曲の構成には、ミニマリズムをはじめとした現代音楽からの影響が如実だ。実際、サクライもスティーヴ・ライヒのファンであることを公言している。

 一方で、エイトビートのノリを基調とした疾走感あふれるドラムはパンクやハードコアのようなダイナミズムを持っているし、メロディラインも一癖あるもののキャッチーだ。という具合に、現代音楽のみならず、ポストロック/マスロック的な響きの流麗さやポップパンクのような人懐こさも持ち合わせている。

 なにより、変則的なビートに錯綜するリフの乱れ打ちを4人の歌声が貫通することで、全体がにわかにポップに響き出す。このグループならではのケミストリーがブクガの音楽が持つ一番の魅力だ。

 ブクガは2015年の始動から5年、アルバムはインディ・メジャーあわせて4枚、シングルやEPも数多くリリースしてきた。音楽性は初期からユニークさ(変拍子、「現代音楽」的編成等々……)を確立しているが、歌唱に限れば最初はどちらかというと朴訥としていて、ときに拙さや危うさも感じるところがある。そんな歌唱がリフ同士が緻密に編み合わされたクールな楽曲と絶妙にマッチしていたことも事実ではある。

 そもそも、先述したような特性上、ブクガの楽曲は歌いこなすこと自体なかなか難しい。変則的な展開や譜割りが多い楽曲を4人で分担して歌い、かつライブのステージ上では激しい振り付けも伴う。困難さはリスナーの想像以上だろう。

 それが、近年の作品になればなるほど、発声も表現力もたしかなものになっている。経年による変化や、トレーニングによる技巧的な変化もさることながら、ブクガが表現したいこと、表現するべきことのビジョンをサクライもメンバーも高い水準で共有できているのだろうと思わせる。

 2019年11月に始動した、Amazon Prime Videoのオリジナルシリーズ「Pick Ups! -Maison book girl-」は、そんなグループの姿を生々しく映し出している。特にEPISODE 02で和田が見せる涙や、ステージ上でのMCには心動かされる。ほかにも、このエピソードではサクライがDAWのプロジェクトファイルを見せながら楽曲のつくりをつぶさに解説していて面白い。

 音源単位で話を進めると、前作『yume』は、楽曲の練度、パフォーマンスのクオリティを含め、ブクガだからできる表現をつきつめたトータルな一枚として高い完成度を誇っていた。「夢」という明確なコンセプトのもと、スキット的なトラックやフィールド音(夢を見ている脳の状態を測定するMRIの動作音(!)も含む)を織り交ぜて一枚のアルバムとして聴かせる構成の妙に唸らされる。

 対して最新作『海と宇宙の子供たち』は、冒頭のインスト「風の脚」とアルバムを閉じるサウンドコラージュ+ポエトリーリーディングの「思い出くん」を除けば、しっかりと歌がフィーチャーされた歌もののアルバムだ。メンバーの歌唱力、表現力が活かされた楽曲が並んでいる。さらに、ブクガの代名詞とでも言うべき変拍子は抑えられ、オーソドックスな4分の4拍子の楽曲が多い。それでも、やや変則的なリズムの打ち方やメロディラインにはブクガらしさがしっかりにじみ出ているのが面白い。

 これまでブクガの楽曲では、ベースをはじめとした低域が楽曲をひっぱり、ドライブさせることは控えられてきた印象がある。もっと正確に言うなら、歌メロと伴奏のメロディが絡み合いながら並走する中域から高域にかけてのアンサンブルに聴きどころが用意されていた。

 本作ではアレンジ上低域へこれまで以上にフォーカスがあたっている。ビートの太さもさることながら、たとえば「海辺にて」で、小節を埋めるようにずっしりと響くベースライン。変則的なハイハットの打ち方とこれもまたトリッキーな歌メロを、ベースとキックが土台となって支えている。BPMは遅めでリズムの刻みは最小限に、ベースの動きで楽曲のドラマを引っ張っていく「シルエット」も同じくらい鮮烈だ。「ランドリー」のAメロ~Bメロでのエレキベースの存在感も、ブクガにしてはちょっと珍しいR&Bっぽさを醸しだしている。

 この意味で、本作は新境地と言っていいだろう。相変わらずハイクオリティな楽曲、パフォーマンスに、これまで以上にキャッチーなサウンド――まだブクガに馴染みがない方にも、入り口としても申し分ない一作であることは付け加えておこう。

 ここまで、ブクガの魅力を音楽性から解説してきた。ステージごとに趣向を凝らした演出を繰り広げるライブパフォーマンスにも定評があるが、筆者は先日、ライブハウスツアーでようやく生のパフォーマンスを見たきり。音源で親しんだブクガとは違う、とてもフィジカルで躍動感あふれる姿は面白かったが、ワンマンでのいわば「完全体」は映像でしか知らない。

 ブクガのライブパフォーマンスは、現在Amazon Prime Videoで見ることもできる。ワンマンシリーズ『Solitude HOTEL』のアーカイブとダイジェストが複数ラインナップにあがっている。加入している人は先述のオリジナル番組(『Pick Ups!』)とあわせてチェックしてみてほしい。

 そして、2020年1月5日には最大規模となるワンマン『Solitude HOTEL ∞F』が控えている。まずは『海と宇宙の子供たち』に耳を傾け、年始にはぜひワンマンに足を運びたい。(リアルサウンド編集部)

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